テラーノベル
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俺の恋人は、浮気ぐせが酷い。
俺は、脱力し起き上がらない身体をソファーに放り投げた。昔のように笑えなくなった俺。鏡を見れば服装は俺なのに、別人に見えてしまうのだ。
何もせず、ただ時間だけが過ぎていく。
すると、玄関の方で音がして。
「ただいまぁ〜ぐちつぼぉ。起きてる〜?」
マフラーが擦れる音。甘ったるく安っぽい香水を身に纏い、さっきまで浮気していたとは思えないほどにへらへらと笑って、俺の恋人は立っていた。
「……おかえり。」
なんとか絞り出すように声を出す。らっだぁはぐちつぼの隣にどさっと腰を下ろした。
「……どした?顔怖いよぉ。」
そういいながら覗き込んでくる、らっだぁの首筋には引っ掻かれたような爪痕と赤い跡、少し乱れた服が嫌でも目に入った。
「今日ねぇ、可愛い子が声かけてくれたんだよねぇ。なんかぁ、声かけただけでついてきちゃってぇ。」
その口調には、罪悪感の欠片もなかった。でも、疲弊しきったぐちつぼは、反応しなかった。らっだぁは、ぐちつぼに。
「……ぐちつぼ。なんか、怒ってる?」
その目は、楽しそうに笑っていた。
限界だった。
「怒ってなんかないよ。」
そう答えながら、自分でも分かっていた。——これは嘘だ。立ち上がり、キッチンへ向かう。冷蔵庫に入ったエナドリを取ろうと一歩足を進めた。その瞬間、ずっと視界が揺れた。
「………っ。」
身体が傾く。けれど、倒れる寸前でどうにか持ちこたえた。——ほんの一瞬のことだった。だが、その一瞬をらっだぁは見逃さなかった。浮かべていた笑みがすっと消える。目が細められた。
「……ねぇ、今一瞬ふらっとしたよね。」
らっだぁは立ち上がり、ゆっくりとキッチンに入ってきた。背後から距離を詰め、冷蔵庫を開けようとしていたぐちつぼの肩にぽすっと顎を乗せるようにして密着した。体温が高い。他の女の匂いがまだ、纏わりついたまま。
「ちゃんとご飯食べてる?顔色悪いよぉ」
心配しているような台詞。でも、その手がぐちつぼの腹に回されて、ぎゅっと力が入った。
「……俺が居ない間、何してたの?」
「……別に、何もしてないけど。」
「ほんとにぃ?」
「……別に、大丈夫だから。」
微かに微笑んだが、上手く笑えたかどうかは分からない。その言葉が、らっだぁに向けてなのか。もしくは自分に向けてなのか。もう自分でも分からなくなっていた。冷蔵庫から取り出したエナドリのプルタブに指をかける、炭酸の抜ける軽い音が静かに響いた。
沈黙が落ちた。ぐちつぼは少し口をつけるが、いつもより味がしなかった。キッチンの蛍光灯がジジ、と小さく音を立てている。らっだぁは微笑んだまま動かない。その目だけが、ぐちつぼを舐め回すように観察していた。
「ねぇ。」
「その笑い方さぁ、いつからするようになったの?」
空いた方の手で、らっだぁはエナドリの缶を奪い取って、カコン、とカウンターに置いた。中身が少しこぼれる。
「前のぐちつぼは、怒ったり拗ねたりしてくれたのにぃ。」
ぐちつぼの顎をぐいっと指で持ち上げた。強制的に目を合わさせられる。至近距離で覗き込む青い瞳は、深い海の底のように暗い。
「……もう疲れたから。」
そう軽く押し返し、
「……寝る。おやすみ。」
そう告げて、らっだぁに背を向け寝室に入っていった。押し返された手が、宙を舞う。数秒その姿勢のまま、らっだぁはぱちりと瞬きをした。
寝室の扉が閉まる音。バタン、ではなく静かに、けれど明確な拒絶を込めた音だった。
「………。」
エアコンの低い駆動音だけが響く。先程までのヘラヘラとした空気は消え失せ、残ったのは恋人以外の女の香水を身に纏う男と、開けたばかりのエナドリの缶だった。
ゆっくりと、置かれたエナドリの缶を手に取った。一口、二口。冷えて甘く痺れる液体が喉を鳴らした。視線はまだ、寝室から離れない。
「……疲れた、かぁ。」
その言葉には、いつもの間延びした抑揚がなかった。平坦で、温度がない。エナドリの缶を握る手に無意識に力が籠る。潰れた缶から中身が溢れ、床を濡らした。
「……誰のせいだろ。」
答えは分かっているはずだった
コメント
3件
読み終えました。むしろ「浮気性」ってタイトルから軽い話かと思いきや、関係が壊れていく重さがひしひし伝わってきました。らっだぁのへらへらした態度と、ぐちつぼの「疲れた」の対比が効いてますね。最後の「誰のせいだろ」という台詞が、責めるんじゃなくて、もう分かってるのに問いかけてしまう感じがすごく生々しかったです。続きが気になります。
らーゆさん
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莉太@一時活動休止
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