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目の前で、兄さんが氷像のように凍ってゆく光景を見て、俺は指一本さえ動かせなかった。
衝撃的だったからか。
それとも、俺の体の芯も凍ってゆくような感じがしたからか。
兄さんに手を握られていたからか。
俺には分からなかった。
凍ってゆく中で、兄さんは死んだロシア帝国さんみたいに穏やかに笑っていた。
「兄さ、なん、で、?」
喉が凍るように冷たくて、声が出にくかった。そんな中で何とか出せた言葉が、たったそれだけだった。
最後の力を振り絞るように兄さんは、俺の手を離した。
バキバキッと音が聞こえたかと思うと、兄さんは、手から砕け始めて、空気に溶け込むように消えていった。
兄さんは、死んだ。何も言わずに。俺の能力のせいで。俺の、せいで。
兄貴は、優しい笑顔で「お前は悪く無い」と言った。
後で兄さんの部屋に来たソ連さんは、「それは運命だ」と言った。
俺は、泣けなかった。
泣かなかった。
俺に泣く権利なんて無い。
憎悪、後悔、殺意。それら全てが俺から俺に贈られた感情だった。
ひたすらに自責の念に駆られた。
あの時、俺が兄さんの手を取らなければ、運命は変わっていたのかもしれない。
そんな事しか考えられなかった。
何で兄さんが笑っていたのかも、わからなかった。
手が震える。
兄さんを失った悲しみで?
俺への怒りで?
それとも、寒いから?
きっと、寒いからなんだ。俺が悲しくて泣くなんて、だめなことなんだから。
俺の目の前には兄貴が居た。と思う。
兄貴は、何か言っていた。と思う。
俺の頭の中はグチャグチャで、グルグルで、もう、わけわかんなくなってた。
そして、俺は逃げるように兄さんの部屋から駆け出て、自室に籠もった。
俺の部屋に入る時、ドアノブが凍ってた。
やっぱり、兄さんを殺したのは俺なんだって俺自身を戒めるようで、苦しくなった。
俺は、兄さんが死んだあの日を思い出すから、寒いのは、大嫌いなんだ。