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𖤐·̩͙
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「………はい、…、、っ……よろしくお願いします。」
そう、返事をして、電話を切った。
スマホを持つ手が、震えている。
……ずっと、夢見ていた瞬間だった。
小さい頃になんとなく、親や周りの反応で、人より歌が上手い事を自覚した。
初めて好きなアーティストのライブに行った時、ステージから受けた熱量と、その場の誰一人面識がないのに、全員の感情を揺さぶっているその姿が、カッコよくて、一瞬で痺れて。
俺もそんな存在になれたらって、いや、なるんやって、その意志だけで、ずっとオーディションを受け続けていた。
自信もあったし、折れずにいる自分に誇りもあった。
でも現実は厳しくて、良いとこまで行ったこともあったけど、結局俺はいつも選ばれない側の人間だった。
でも、歌へのプライドを捨てた事は一度も無かった。
絶対に、俺だけは、
自分の歌を下げたらあかん。
そう思って、周りが冗談だと捉えても、俺はずっと自分への評価を揺らがせなかった。
いつか必ず、俺の歌が、評価される時が来る。
その、いつかが、
やっと、目の前に訪れた。
絶対に来ると信じていたのに、
いざ現実になると、信じられなくて。
手が、身体が、震えて、
あぁ、俺、やったんや。
とうとう、手に入れたんや、
やっと、俺の歌が、
俺の歌を、評価してくれる人が、現れた。
……嬉しい。
嬉しい、
嬉しい嬉しい嬉しい、、、っ、
おい、俺。
今まで、よう頑張ったな
やばい、泣きそうや、あかん、どないしよ。
ラン、
ランに、言いたい。
はやく、ランに。
なんて、言うてくれるかな。
喜んでくれるやろな……、
ランの元へ戻ろうとして、足を止めた。
……いや、
何考えとんや、あほ。
……、ランは、
ランはもう、俺にとっては、
ただの、同志と、ちゃうやんか。
夢を掴んで、東京に行ったら俺は、
ランとはもう、会われへん。
東京に行くことを言ってしまったら、
その瞬間から、
俺は、ランに気持ちを言えなくなる。
好きだ、付き合ってほしいなんて、
今から離れていくのに、
そんな無責任なこと、言えるわけがない。
死ぬほど、嬉しい。
夢が叶って、人生で、一番。
でも、同時に、
ランとキスをした瞬間の気持ちが、
心に蘇って、
胸が張り裂けそうな程、苦しくなった。
***
「……あ、カイリュウ、電話終わった…、?」
「……っ、おん…、」
重い足を何とか動かして、ランの元へ戻った。
震えそうな唇を必死に噛んで、短く返事をすると、俺の顔を見て一瞬で眉を下げるラン。
「っ、…かいりゅう、?どしたん、、なんかあった…?」
「…っ、んや、、」
ぎゅっ、と、ランが見えへんとこで、ズボンをきつく掴んで、歯を食いしばった。
……あんなに、嬉しかったのに。
ランに、伝えたいのに。
ランの顔を見た瞬間、口が動かなくなった。
「……なんか、あったんやろ?話してよ、」
「……っ、」
本当は、一番に、報告したいのに、
ラン、聞いてや、
俺、……俺さ、
「…っ、お前こそ、話、途中やったやろ、…昨日、、やっけ、…楽しかったな、」
「っ、…え、、うん…、ねぇ、かいりゅう。本当に大丈夫…、」
なぁ、ラン、
俺、とうとう夢叶ってん。
お前がずっと、応援してくれたお陰かもな、
きっと、喜んでくれるんやろな。
……喜んで、ほしいのに。
「初めてやったけど、サシ飲みも悪ないんちゃう?…っ……また、行こな、」
「……、かいりゅう、…なんで、泣きそうなんよ……っ、」
「……っ、」
ずっと、一緒におれたらな、なんて、
思ったばっかりやねん。
「っ、俺、…ちょっと買い出し行ってくるわ。ナオヤ戻ってきたら、言っといてや……っ、」
「え、っ、?まって、!!かいりゅう…っ!」
仕事も、立場も、
なんも考えられへんくなって、
頭の中が、ぐちゃぐちゃで。
ただ、感情を抑えることに必死で、
適当なことを言って、
ランの声を遮るように、取り繕って店を出た。
***
(🦅視点)
「ただいま〜、あれ?カイリュウは?」
「……、買い出し、行ってくるって。」
「…ランちゃん…?どないしてん、暗い顔して…、」
「……いや……、」
休憩から戻ってきたナオヤにそう聞かれて、言葉に詰まる。
カイリュウが店を出ていってから、ずっと、さっきの様子が気になっていた。
電話を終えたカイリュウは、明らかに浮かない顔をしていた。
……それどころか、俺と話し始めると、どんどん泣きそうな顔になって。
絶対に何かあったはずなのに、話を逸らして、何も教えてはくれなかった。
……無理矢理に、”昨日”、なんて、話を戻して。
「……もしかして、…ナオが言ったこと、上手くいかへんやったとか…、?」
「え…、」
「いや…っ、さっきナオが、カイリュウにちゃんと聞くんやでって、言うてもうたから…、」
「……、」
「……ランちゃん、?」
「……聞けんかった。…それどころやなくて。」
「……それどころやないって、何があったんよ、ねぇ、ランちゃん…、」
「っ、わからんよ、俺だって。…昨日の話、しようと思ってたんよ。でもそしたら、カイリュウ、電話かかってきて。それに出た後から、急になんか……、泣きそうで。」
「……え、?泣きそうって…っ、、それまでは…、?」
「…普通に、いつもみたいに話しとって…、俺が、…話、聞いてほしいって言って、話しとったとこで……っ、」
言いながら、俺の頭を撫でていた優しい顔と、さっきの泣きそうだったカイリュウの顔が、交互に浮かんで、苦しくなった。
「っ、……ランちゃん、?…ナオも、原因はわからへんけど…ちゃんとカイリュウと話すタイミング、ナオが作るから。…せやから、とりあえず今は落ち着こ?一旦休憩行っておいで。ね、、?」
「……っ、、」
「ランちゃん。」
「……、っ、、わかった、…ありがとう、ナオヤ、」
カイリュウが心配で、それだけしか考えられなくて。
ナオヤの声に、少しだけ正気を取り戻す。
カイリュウに何かあったとしたら、俺がしっかりせんでどうするんよ。
冷静にならなくちゃと、頭を冷やすためにも店を後にした。
***
(☕️視点)
海沿いを歩きながら、自分がランに放った言葉を考えていた。
“また、行こな、”
……なんで、あんな事、言うてもうたんやろ。
昨日、初めて、ランと2人でご飯に行って、
なんだか少し、照れくさくて。
なぜか緊張して、お酒を飲む手が無意識に進んで。
ほんまは自分が緊張しとんのに、ランにそれを突っ込んで、照れ隠しをした。
俺の突っ込みに、
素直な反応をするランが、可愛らしくて。
ランが笑うと、嬉しくて。
もっと笑ってほしくて、無意識にランの事を褒めていた。
褒める言うても、全部ほんまに思ってることで。
自然と口から、言葉が漏れていた。
そしたら、俺も、なんて、ランも俺を褒めてくれて。
うん、せやろ、よー見とんななんて、自惚れながらも嬉しかった。
ランに褒められると、擽ったくて。
この気持ちは多分、ずっと前からあって。
……もっと、話したいって、思って。
まだ話せるけどなんて言って、
少しだけ、距離を縮めようとしていた。
お酒のふわふわと、ランへのふわふわした気持ちがあって。
ランの一言で、帰り道、
同じ方向に歩き始めたことが、嬉しくて。
ランの、踊っている姿を、初めて見て。
同じ夢を見ているランを、尊敬して。
……キスを、して。
楽しくて、胸が高鳴って、
特別な時間やったから。
忘れたくなかった。
多分、もう一度って、無意識に。
“また”
また、なんて。
……もう、きっと。
そんな事に今更気付いて、昨日ランと歩いた道を踏みしめながら、一歩進む度に、切なくなっていた。
***
「あ、カイリュウ、おかえり〜」
「……、ランは、?」
「ん〜?ランちゃん?休憩行ったよ?」
さすがに戻らなあかんと、意を決して店に戻ると、そうあっけらかんと話すナオヤの空気に、張り詰めていた心が少し癒された。
「なんか足りへんやった?」
「え、?」
「買い出し行ってたんやろ?」
「…っ、あー、…おん、売り切れやったわ、」
「……なぁ。」
「……ん、」
「……あんた、ナオの事、誤魔化せると思ってへんよな?」
「……、なにがやねん…、」
「どんだけ一緒におると思ってんねん、ナオの事、舐めんでくれへん?」
「は、?…なんやねん、急に…っ、」
「……なんか、あったんやろ。」
「……、」
「……ナオにも、話してくれへんの?」
“ナオにも”。
きっと、ランが俺の様子を伝えてる。
俺が何も言わなかったことを、多分、今頃悲しんでる。
その一言だけで、ランの気持ちを想像して、胸が苦しくなる。
「……カイリュウ。」
「……っ、」
もちろん、ナオヤだって、俺の事を応援してくれている。
それも、小さい頃からずっと。
俺が自覚する前から、”かいりゅうくん、お歌じょうずやね!”なんて、最初に言ってくれたのはナオヤだった。
初めて夢の事を話した時も、”カイリュウはすごいなぁ”って、目を輝かせて、馬鹿になんてひとつもせずに、俺が語るのをうんうんと嬉しそうに聞いてくれた。
冗談で俺に、ちょっと歌ってやなんて軽々しく言ってくるけど、ちゃんと俺の歌をリスペクトして、毎回必ず”天才やん!”って、これ以上無いくらいに褒めてくれる。
何度オーディションに落ちても、”なんやねんもう、見る目あらへんなぁ〜”って、ずっと、明るく背中を押してくれていた。
俺が折れずにいられたのも、ナオヤのそんな言葉があったからで。
俺も、そんなナオヤを支えたくて、この店を手伝い始めた。
俺の夢は、そうやって、
ナオヤにも、この店にも、
深く、関わってきたものやから。
ちゃんと、伝えなあかんし、伝えたい。
「……ナオヤ、」
「ん、?」
「……お前、…そろそろ、人雇えや。」
「えー?なんで?カイリュウとランちゃんがおるやんか。」
緊張しながら、次の言葉を発した。
「っ……、俺、…受かってん。こないだのオーディション、」
「……っ、、え、、?」
「…来年からは、おられへん。……せやから、、」
「っ、、か、いりゅう、、」
「…っ、なんやねん…、」
「……っ、おめ、、っ、おめでとう…っ、!!!」
「えっ、?」
ガシッ!と勢いよく肩を掴まれて、ナオヤの声が耳につんと響いて、ぶんぶんと身体を揺らされる。
「ほら!!ナオ、言ったやろ?!あんたはやっぱりすごいねん!!うわあぁ〜っ、おめでとううぅ〜、、っ、よかったなあぁ〜?!かいりゅう…っ、がんばったもんなっ、?ほんまに、っおめでと…っ、」
「……っ、、〜っ…、おまえ、…っこえ、でかいねん……っ、」
“おめでとう”
“よかった”
“がんばった”
言ってほしかった言葉を全部言われて、
涙ぐむナオヤに見つめられて、
今までの事が、感情が、一気に込み上げた。
「…っ、だって、…っほんまに、よかったなぁ…っ、?」
「……っ、〜、ん、、あり、…ありがとうな…っ、」
「あはは、、っ、かいりゅうが泣いてるん、なお、初めて見たかも……っ、」
「っ、…おまえの、せいやろ……っ、」
「だってさぁ〜っ、、嬉しいんやもん……っ、、」
ナオヤの気持ちが嬉しくて、胸にじんわりと熱いものが広がっていく。
2人でぼろぼろと涙を流して、手で顔を拭いながら、お互いのそんな姿に、照れくさくて少しだけ笑い合った。
「ふふっ、…、あ〜、、でも、寂しなるなぁ…っ、こないだのって、東京やろ……っ、?」
「…っ…、おん…、」
「……、なぁ、いつ分かったん、?受かったの、」
「……、さっき、…電話きてん、」
「っ、……ランちゃんには、?」
「、……まだ、言うてへん、」
「……言われへんのやろ、?」
俺の気持ちを察しているかのようなその言葉に、間を空けて、小さく頷いた。
「……東京、やもんな、」
「……、おん、」
「…離れちゃうもんね、」
「っ…、」
「でも、ランちゃんに、ちゃんと言わなあかんで。」
「……わかっとる。」
「……言うてへんことって、それだけやないんやろ、?」
顔を覗き込まれて、思わず視線を逸らすように俯いた。
「……ねぇ、カイリュウ。…ナオは、…ナオはな、?カイリュウに、幸せになってほしいよ?」
「……っ、幸せやで、…受かって。」
幸せじゃ、ないわけがない。
きっと、ナオヤも、それは分かってる。
「……ランちゃんが、おらへんくても、?」
その直接的な言葉に、思わず顔を上げると、
ナオヤの訴えるような目に見つめられる。
「……っ、」
「ただいま、」
唇を噛んだ瞬間に、小さくランの声がして、店の入口にナオヤと同時に視線を向けた。
「っ、あ、、ランちゃん、おかえり…っ、」
「…、うん、」
こっちに歩いてきたランと目が合って、浮かないその表情に、ズキンと胸が痛む。
ちらりとナオヤが俺を見た後、ランに声を掛けた。
「……あ、!そうやっ。ランちゃん、仕込みした分もう無くなりそうやねん、ちょっと材料切ってきてくれへん?」
「え、?あ、うん、わかった…っ、」
「…カイリュウも手伝ってあげて?」
「っ、え、」
「ほらっ、早く。」
ぽん、と背中を叩かれて、戸惑いながらも、ランと調理場へ向かった。
***
「……買い出し、行けた、?」
「……、おん、」
「…そっか、、」
調理場で、材料を並べながら、ランがそう聞いてくる。
……早く、言わないと。
ランにも、ちゃんと、伝えなあかん。
そう思いながらも、顔を見ることができなくて、材料を切る自分の手を見つめていると、隣から声が降ってきた。
「……カイリュウ。」
「、ん…、?」
「……前にさ、…俺がここで、言った言葉、覚えとう?」
「…、え…、」
「……俺の事、もっと頼ってよ。」
「……っ、、」
顔を上げると、心配そうな、少し悔しそうな顔をして、ランが俺を見つめていた。
“……じゃあ、もっと頼ってよ”
“え、?”
“……俺じゃ、頼りないかもしれんけど、…俺も、カイリュウの力になりたいけん”
“………っ、ふは、っ、”
“えっ、なんで笑うんよ?あ、馬鹿にしとうやろ、?”
あの時もこうやって、仕込みをしながら会話したっけ。
一人で抱え込んで、いっぱいいっぱいだった俺に、ランはそう声を掛けてくれて。
……嬉しかったな。
ランが、居てくれてよかったなんて、
口にして。
「……ラン、」
「ん、?」
ほんまに、
居てくれて、よかった。
ランが、居てくれて。
この店に、来てくれて。
ランと出会えて、ほんまに。
「……俺も。」
「え、?」
「俺も、……お前に、出会えてよかったで。」
「っ、…え、、っ、なん、?急に…っ、」
「昨日、言うてくれたやん。俺に、出会えてよかったって。…ありがとうな、」
「…っ…、うん…俺も、ありがとうね…、」
……こんな事、
言うてる場合ちゃうのに。
早く、伝えろや。
伝えないと。
「……っ、……ラン、…あのさ、」
「ん、?」
早く。
わかっとるのに。
伝えたら、ランと離れる時間が、
どんどん、近づいていく気がして。
黙ってたって、時間は進むのに。
それでも、
ランに、言おうとすると、
ランの顔を見ると、
「……っ、かいりゅう、?」
ランとの未来を、
ランがいる未来を、
想像してしまうから。
いつもみたいに、
くだらない賭けをして、
冗談を言い合って、
ランが、生意気言って、
ほんまにお前は、なんて返して。
ランが、隣で、楽しそうに笑ってくれて。
ずっとそうやって、
一緒にいてほしいと、願ってしまうから。
好きだと、伝えたくなってしまうから。
でも、
離れていく未来がある俺に、
ランを、巻き込むことはできない。
……それに。
やっと、掴んだんや。
ずっと、ずっと追い続けた夢を。
何度も落ちて、
それでも諦めずに、
やっと、手に入れたんや。
これからやろ。
ここから、もっと頑張らなあかん。
東京に行って、
今まで以上に歌と向き合って。
もっと上手くなって、
もっと評価されて。
やっと与えてもらった場所を、
絶対に無駄にしたくない。
今から恋愛なんて考えて、
うつつ抜かしてどないすんねん。
今、一番大事にせなあかんのは、
この気持ちやろ。
……ランも、きっと、
それを、望むはずだから。
「ほんまに、ありがたいねん、…ランが、同志で。」
「……、え…、?」
「……夢追うのって、結構心細いやん。でも、お前も頑張ってるんやなって、…昨日、ちゃんと知れたから。そういう、…仲間が、おってよかったわ。…頑張ろうな、お互い。」
「っ……それって、……なんで、今言うん、」
「……今、思ったからや。」
俺とランを繋ぐものは、
ずっと、
……これからも、
同志という、言葉だから。
「……っ、…じゃあ、昨日は、?」
「え…、」
「…昨日は、…どう、思ってたんよ…、」
「…っ…、すごいって、思った。お前のこと、」
「……それだけ…、?」
ランの言葉に、
揺れそうな、心に、
「……、っ、ラン。」
「…なに……、」
「……、俺、……オーディション、受かってん。」
「っ、…え……、?」
「……、東京に、行く。」
必死に、抗った。
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