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(🦅視点)
「……、東京に、行く。」
「っ、、え、…、?」
そう、真っ直ぐ俺を見て告げたカイリュウの目は、少し赤くて、潤んでいた。
“受かった”
“東京に行く”
カイリュウの言葉を、聞いた瞬間、
深く考える前に、
真っ先に受けた感情は、安堵だった。
カイリュウが、多分、
俺がいない間に泣いていたことは、
戻ってきて、顔を見てすぐにわかった。
何があったのか、
話してくれるまで待とうと思ったけど、
何があったとしても、
俺を、どうか支えにしてくれたらって、
頼ってよなんて、また、カイリュウに伝えた。
でも、涙の理由が、もし、
受かったことへの、嬉し泣きだったなら。
……良かった。
本当に、良かった。
カイリュウが、
悲しい思いをしていなくて、本当に。
それどころか、
カイリュウの夢が叶った。
夢を、掴んだ、やっと。
その事実を、やっと、
じわりじわりと、飲み込んでいく。
いつも自信を揺らがせなくて、
才能に誰よりも誇りを持っていて、
そんなカイリュウの夢が、やっと。
叶ったんや、
すごい、
すごいやん、カイリュウ、、っ、
やったやん、、っ、!
“俺がランやったら、明日にでも東京行っとるわ”
言っとったもんな、そうやって。
行けるんや、東京に、、
……東京、?
「っ……いつから、?」
「え…、?」
「、いつ、行くん、」
違う、
違うやろ、俺。
まずは、おめでとうやろ、?
おめでとうって、言わんといけんのに。
「……、まだ、ハッキリ決まってへんけど、…ちょうど海の家もそろそろ終わりやしな、タイミングばっちりやわ。…さすが俺、」
「……っ、」
冗談のようにそう言いながら、包丁に視線を落として、再び仕込みをし始めるカイリュウ。
“おめでとう”が言えないまま、
聞きたいことが、
言いたいことが、
次々に、口から溢れ出す。
「……さっきの電話って、その電話やったんやね、」
「……、おん、」
「……っ、…なんで、教えてくれんやったん、」
「、まだお前の話、聞いとる途中やったやろ……っ、」
「っ……じゃあ、なんで、…泣きそうな顔、しとったん。」
なんで俺、こんな、
詰めるみたいな真似しとるん、
やっと夢を掴んで、
きっと喜んでほしいはずのカイリュウに、
なんで、こんな事しか言えんのよ。
自分でも、何が言いたいのか、
何を、求めているのか、わからない。
……いや、
分かってる、本当は。
俺はきっと、カイリュウに、
寂しいと、言ってほしい。
俺と、
“ランと離れたくない”って、言ってほしい。
あの表情に、少しでも、
俺への感情が、入っていてほしい。
そんな事を、自分勝手に考えていて。
「っ、……聞いたばっかで、…気が動転してん、」
「……、受かったのに、嬉しそうやなかった、」
「、…嬉しいに決まってるやろ…っ、どんだけ落ちてきたおもてんねん…っ、」
カイリュウのその言葉に、ハッと我に返る。
嬉しくないわけがない。
夢を追うと決めるまでの葛藤も、
追い続ける過程の過酷さも、
諦めないことの難しさも、
現実の残酷さも、
俺は誰よりも、知っている。
“夢追うのって、結構心細いやん”
“でも、お前も頑張ってるんやなって”
さっきのカイリュウの言葉が、
途端に重くのしかかる。
カイリュウにとって、一番大事なもの。
それは、俺にとっても大事なもので。
カイリュウを、支えたかった。
頼ってほしいと思った。
それは、夢のことだけじゃない。
苦しいなら、言ってほしい。
辛いなら、そばに居たい。
カイリュウにずっと、笑っていてほしいから。
その気持ちが、
“好き”なんだと、気が付いた。
でも今、
カイリュウが夢を掴んだ今、
俺が、
何よりも、
大事にしないといけないものは、
“そういう、…仲間が、おってよかったわ”
その言葉が、
俺が聞きたかった、
カイリュウの、答えなんだとしたら。
俺が、カイリュウに、
してあげられる事は、
一つだけだから。
「……そうやんな、」
「、え…、?」
「カイリュウ、…おめでとう、」
「っ、…、え…、、っ、」
「言うの遅くてごめん。…本当に、良かった、…夢、叶ったやん。すごいやんか、…まじで、おめでと、、っ、」
「っ、、…ラン、…、っ、おん、…っ、ありがと……っ、」
「ふふ、我慢せんで泣いてええよ。笑」
「っ、…あほ、ぅるさいねん、、っ、」
そう強がるくせに声は震えていて、
相変わらず、俺の顔を見てくれないその横顔を眺めた。
少し涙目なのに、嬉しそうで。
あぁ、やっぱり、そうやんな。
カイリュウが求めていたのは、
俺からの、祝福の言葉で。
言いたくても言えない気持ちが、
まだ、
喉につっかえたまま、
その嬉しそうな顔を、
ただひたすらに、眺めていた。
***
(☕️視点)
「えっ、、?ちょ、え、もっかい言うて…、?」
「おい、重大発表やねんから1回で聞き取れアホ。笑」
次の日の朝、配達に来たセイトに報告するも、
そのアホさ加減に、緊張感が一気に解れていく。
「も〜、セイちゃん!ちゃんと聞いたってや!ほんまに重大なことやねんから〜!」
ナオヤに横から注意され、ほんまごめんなんて言いながら、俺に向き直るセイト。
「ごめんって。いや朝やしさぁ、来たばっかであんま頭働いてへんねん。」
「まぁ、朝からする話ちゃうけどな。でもお前に話すタイミング他にないねん、…まー、もうナオヤから聞いといてや。」
「あんた何言うてんの!こんな重大なこと、自分から言わんでどないすんねん!ナオやったら、も〜っと盛大に話すのに!」
「んじゃ言うといてや盛大に」
「もー!ばか!早く言って!もっかい!」
ナオヤにうるさく促されて、少し照れくさくなりながらも、もう一度改めて報告をした。
「んあもう、ちゃんと聞けよ?」
「おん、聞く聞く。で?なん?」
「…オーディション、合格してん。」
「っ、え?、え、えぇ?!ほんまに、、っ、?!」
「ほんまや。…せやから、東京に「おめでとう、!!カイリュウすご、かっこよ…っ、ほんまに、?え、すごいやん…っ、!…え?東京……、?」
「…、…っ、ふ、、っおまえ、情緒どないなってん…っ、笑」
でかい声で食い気味に喜んでくれながらも、急に東京という言葉に頭が追いつき、怪訝な顔になるセイトに、思わず笑ってしまった。
「まって、?東京って、…じゃあ、この店からおらへんようなるってこと?」
「んまぁ…、店どころか、関西におらへんようなるわな、」
「えぇ…、まってそんなん、、」
「おはよう、」
セイトの眉が下がり始めた瞬間、出勤してきたランの声がして、少しだけまた緊張が身体に走った。
「ランちゃんおはよ〜」
「あ、ランおはよ」
「おはようさん、」
それぞれがランに挨拶を返すと、カウンターに入ってくるランを横目に見ながら、セイトが話を続ける。
「カイリュウが受かったんは嬉しいねんけど、離れるんは寂しいやんな、」
「そうやねん…めっちゃおめでたいねんけど、カイリュウがいなくなっちゃうのはやっぱり寂しいねん〜、、」
「っ…、」
セイトとナオヤのそんな率直な言葉で、思わず
、手を洗っているランの背中に、視線を向けてしまった。
“寂しい”
そんな言葉を、簡単に言えたなら。
昨日、色んな感情を持ち合わせながらも、
ランに、東京へ行くことを告げた。
告げるなら、まず俺が、
しっかりとした意志を持たなあかん。
俺の曖昧な態度で、
これ以上、ランを混乱させたらあかん。
そう、強引に気持ちを固めて、
ランの言葉を待った。
“おめでとう”とランが言ってくれたとき、
ほんまに、嬉しかった。
ほんまは、ランに、
一番に、言って欲しかった言葉だったから。
泣いてもええよなんて、
ランが笑ったとき、
胸がぎゅっと、締め付けられて。
嬉しかったのに、
その顔が、ちゃんと見れなくて。
少しだけ、
寂しいと、
俺と、離れたくないと、
思ってくれてたら、なんて考えて。
嬉しさに、苦しさが入り交じって、
笑っているのに泣きそうで、
好きだという気持ちが、
溢れてしまいそうで。
顔を見れないまま、静かに、
その感情に蓋をした。
「…っ、お前ら、俺がおらへんからって、イチャこいてランに迷惑かけるなや、?」
セイトとナオヤに言っているのに、
無意識に、ランの名前を口にしてしまう。
きっと、ランの反応を、
内心、気にしているから。
「そんなもん、気にならへんくらい寂しいが勝つやろ。……なぁ、ラン。お前も寂しいやろ、?」
セイトの呼びかけに、ぴくりとランの背中が反応した。
***
(🦅視点)
「なぁ、ラン。お前も寂しいやろ、?」
セイトさんの言葉を背に受けながら、ぎゅっと胸が苦しくなって、切なくなった。
俺も、
俺だって言いたい。
カイリュウがいなくなるなんて、寂しい。
正直に言うと、考えたくもない。
寂しいなんて言葉じゃ足りないくらい、
寂しいに決まってる。
でも、軽々しくそんな事を言ってしまったら。
この感情に、
縋りついてしまいそうで。
「…そりゃあ寂しいに決まってるやんかぁ。ここまで一緒に働いてきたんやし、カイリュウとせっかく仲良くなったんやもん。…なぁ、?ランちゃん、?」
ナオヤの優しく諭すような声に、心を動かされる。
そうやん、寂しいなんて、普通な感情やん。
だってカイリュウは、
俺の先輩で、同志で。
俺の感情がどうであれ、
大事な仲間には、変わりない。
そんな存在がいなくなるなんて、
寂しいと思わない方が、おかしいやんか。
別に、このくらい言ったって。
「……うん、寂しいよ、」
「っ……、」
「寂しい。」
振り返って、カイリュウの顔を見てそう言うと、唇を噛んだカイリュウに、もう一度、寂しいとハッキリと口にした。
……少しだけ、期待を、込めてしまった。
「…っ…、あ、ランちゃんっ、セイちゃんと、荷物運んでくれへん?」
「…え、?」
「ね、セイちゃんも!ほら、はよして、!」
「…っ、おん…、ラン、手伝ってや。」
「あ、はい、、」
ナオヤに急かされるまま、カイリュウの言葉を聞くことができずに、セイトさんと荷物を持って店の奥に向かった。
***
「ありがとうございました〜!」
セイトさんが帰ってから、客足が続いて目まぐるしい時間を過ごした後、最後のお客さんを見送り、やっと3人で一息ついた。
「今日大盛況やったなぁ!あ〜疲れたぁっ。」
「もうそろそろ、海入るんも終わりやからちゃう。」
「そっかぁ〜…もう今年もそんな時期なんやねぇ…」
海を眺めながら、そう話す2人の言葉に、
夏の終わりを感じて、感傷に浸る。
……あと、どのくらい、
カイリュウと、こうして過ごせるんだろう。
ちらりと横顔に目をやると、
カイリュウの隣にいるナオヤと目が合った。
「……、さっ。お客さんも引いたことやし、ナオ、休憩行ってくるな?」
「え、?あ、おん…っ、」
俺の目をしばらく見つめた後、そう言って店を出ていくナオヤ。
多分、俺に気を遣ってくれている。
店に2人で残されて、
少しの間、沈黙が流れた。
“寂しい”と口にした俺を、
カイリュウは、どう思ったんやろう。
そんな事を考えながらも、
貴重な時間を大事にしなきゃと、
カイリュウに声を掛けた。
「…カイリュウ、」
「…ん、?」
名前を呼んだものの、
あと、何回、
俺が呼んだら、返事をしてくれるんやろうなんて、
そんな事を思って、言葉が出てこない。
「……ラン、?」
「っ…、なんか、話してよ。」
「、え、?…っ、おま、なんやねん、無茶振りやな…っ、」
「ええやん、なんでもええけん。」
なんか話さなきゃ、
楽しい話をしなきゃ、
また、寂しくなってしまうから。
「なんでもええって言うたって…、んじゃあ、、」
言葉を待つように顔を見ると、
途端に目を逸らすカイリュウ。
「っ、や、ランが話せや…っ、」
「え?なんでよ…っ、」
「お前が話し掛けたんやんけ、」
「だって…っ、」
「だって、?」
今度はカイリュウが、
俺の言葉を待つように、顔を見つめる。
目が合うと、
お互いに、だんだん、
緩んでいく口元。
「っ、ふ…っ、もう…、!!笑」
「っ、なんやねん、!はよ言えや、!笑」
「かいりゅうがっ、笑うからやろっ!」
「俺やあらへん、お前やんけっ、!」
照れくさくなって、
しばらくお互いに笑っていた。
話さなくちゃ、なんて構えていたのに、
なんだか、身体の力が抜けていって。
カイリュウの笑顔に、嬉しくなって。
ずっとその顔を、見ていたいなんて、
このまま、時間が止まればいいのになんて、
叶うわけもないことを、願ってしまっていた。
***
(☕️視点)
セイトの問いかけに、”寂しい”と言った、
ランの言葉が、頭から離れなかった。
俺の顔を見て、もう一度言ったその言葉が、
どういう意味だったのかなんて、聞けなくて。
ランとお互いに話を譲り合って、結局何も話さないままに笑い合った。
何かを言いたいのに、言えなくて、
何を言えばいいのか、わからなくて。
戸惑いながらも、ランが笑った瞬間に、
心の中はやっぱり、熱くなって。
……あと、どのくらい、なんて、
そんな事を、考えてしまっていた。
「ただいま〜」
「……、あ、」
2人でナオヤの声に反応して顔を向けると、俺達を見て、なんだか嬉しそうに近付いてくる。
「なになに〜っ?!なんか2人で楽しい話でもしてたんっ、?!」
「え、?なんで、?」
「え〜?だって2人とも笑ってるやん!」
「「……っ、」」
その言葉に、ランと顔を見合わせて、咄嗟に口を開いた。
「……っ、いや、」
「ランが」「カイリュウが」
「「え?」」
「っ、ふふふ、!も〜♡なにハモってんの〜?かわいい〜!あははっ!♡」
ランと声が重なった瞬間に、ナオヤがお腹を抱えて笑い出す。
「は〜っ、ほんまに仲良しやなぁ?…よかったぁ、2人が楽しそうで。」
ふふ、とナオヤが笑って、俺とランを交互に眺めた。
なんだかその浸るような雰囲気に耐えられずに、ランに声を掛ける。
「っ、…ラン、先、休憩ええで。」
「え、?あぁ、うん…っ、」
少しぎこちない空気をお互いに纏いながらも、店を出ていくランの背中を見送った。
「……ちゃんと、言えてよかったなぁ、カイリュウ。」
ランが出ていくと、ボソッと隣でナオヤがそう呟いた。
「、おん、……まぁ、うん。」
「……でも、まだ言えてへんことあるんちゃうの。」
「え…、」
その言葉に、どう返そうか迷っていると、ポケットの中でスマホが振動する。
「あっ、、」
「ん、?どしたん、電話?」
「おん…、オーディションの人や、」
「え…っ、」
俺の言葉にナオヤが少し離れたのを見て、
その場で通話のボタンをタップした。
「…、はい…っ、…はい。、、あ…、はい、…っ、、、分かりました、大丈夫です。はい、…よろしくお願いします。」
告げられた言葉を、頭の中で必死に整理して、
ただただ記憶することに集中して、電話を切った。
「……カイリュウ、?…電話、なんて、?」
記憶した言葉と、整理した内容を、
そのまま、すぐにナオヤに伝えた。
***
(🦅視点)
2人が言っていたように、もうすぐ海の時期が終わるからか、今日は店が閉店間際まで賑わっていた。
休憩を終えてから、カイリュウともナオヤとも仕事の会話しかできる余裕が無くて、
でもなんとなく、いつもと違うような、
そんな雰囲気だけは感じ取っていた。
「ごめーん!ナオ、セイちゃんと約束してて…ランちゃん、今日の締めお願いしてもいい〜、?」
「うん、ええよ?」
閉店後、締め作業をしようとカウンターに入ると、ナオヤにそうお願いされて、返事をする。
「ありがとう〜!ほんまにごめんなぁ?…あ、カイリュウには言うてるから…っ、」
「え、?」
「じゃあ、また明日ね…?」
急いでいるのか、パタパタと店を出ていくナオヤを眺めながら、いつカイリュウに言ったんやろなんて小さな疑問が浮かぶ。
そんな余裕、無かったはずなのに。
「……ナオヤ、もう帰ったん?」
「え?あ、うん…」
店内を掃除していたカイリュウが戻ってきて、そう言いながらカウンターに入ってくる。
「俺も手伝うわ」
「うん、ありがとう、」
2人で締め作業を終え、他にやり残した事がないか確認しようとすると、カイリュウに呼び止められた。
「ラン、」
「ん?」
「俺、…明日から、この店出られへんわ。」
「っ、…え…、?」
しん、とした店内で、カイリュウの言葉がより鮮明に、耳に届く。
「…っ、なんで…、」
「……上京する日、決まってん。」
「、、っ、いつ…、?」
心臓が、ざわざわ、
ドクドクと、音を立て始める。
「……できるだけすぐ、来てほしいって、今日連絡もらってん。」
「っ、いつ、?いつ行くん…っ、」
「ここの営業、もうすぐ終わりやろ?……終わる前に、行く事にしたから。」
「っ、それって、…本当にすぐやんか…、、」
「おん、…俺も、今日決まったから、…正直、色々まだ分からへんけど…、準備とか、せなあかんやろ。せやから…、」
「……それってもう、会えんってこと…?」
「っ、……、」
言葉を詰まらせるカイリュウに、
どんどんと、
身体が、重くなっていく。
「カイリュウ…っ、」
「っ……最後にさ、」
「え……、?」
「最後に、…聴かしたるわ。俺の歌。お前、聴きたい言うてたやろ。」
「……っ、」
初めて、カイリュウの、
歌へのプライドを見たあの日。
“……歌、自信あるんやね”
“おん。まぁ、ずっと頑張ってきとるからな”
“…ねぇ、聞きたい。カイリュウの歌、”
“…ん?…まぁ、いつかな?”
あの時は、聴かせてくれなかった、
カイリュウの歌。
その、いつかを。
……覚えてて、くれとったんやな。
安売りしないと言っていた、
カイリュウの歌。
それを、聴かせてくれる重さを、
俺はちゃんと、受け止めなきゃいけない。
「………、うん。聴きたい。」
そう返事をすると、カイリュウは優しい顔で、俺の言葉を受け入れた。
***
「ええ感じのステージやな〜、」
店を出て、海岸に繋がる階段に2人で腰を下ろすと、場を和ませるかのようにカイリュウがそう言った。
「……初ステージ?」
「ふはっ、…おん、せやな。」
「めっちゃ夜で暗いけど。」
「ライブなんて暗いもんやろ。ほれ見てみ、店の照明がええ感じやんけ。」
カイリュウの視線の先を追うと、確かに店の光が、少しだけ演出を手伝っていた。
「……まぁ、確かに、ちょっとだけな?笑」
「ええねん、最初はこういうのからスタートすんねんから。」
そう言いながらスマホを取り出して、ひたすらに画面上で指を動かすカイリュウ。
スマホの光が照らすその顔を眺めながら、ただ、今だけは、現実を考えないようにしていた。
「……なんしとん、?」
「ん?…何の曲歌おうかなって、」
「リクエストあり?」
「なし。」
「なんで。笑」
「ええやろ、…俺が歌いたい歌で。」
「ええけど。どうやって歌うん?曲流すとか?」
「あほ。俺の真骨頂はアカペラやねん。」
「へぇ…っ、すごいやん、、」
「まぁ歌詞は見るけどな。笑」
「あははっ。…これからは見れんのとちゃう?」
「そら頑張るよ。」
未来の話に触れて、
そんな姿を早く見たいという気持ちと、
その時隣にはいられないという現実で、
感情が、せめぎ合う。
「…おっしゃ、決まった。いい、?」
「っ、…うん。」
曲を決めた様子のカイリュウに、
緊張しながら身体を向けると、
画面を眺めながら、
カイリュウが息を吸った。
「♪〜」
歌い出した瞬間、
深くて、綺麗で、儚くて、
そんなカイリュウの歌声に、圧倒される。
初めて聴いた曲なのに、
歌詞が、自然と耳に、
入ってくる歌声だった。
“いつだって 重なり合って
空に浮かんで 君と夢を見よう
目を見て名前を呼んで
今日も明日もずっとbaby
未来は見えなくて 形もなくて
揺れる波の様
だからこそ 永遠を誓うよ
I love you”
まるで、その歌詞が、
俺が、
カイリュウに、
言いたかった、
全てみたいで。
「……どう。」
歌い終えたカイリュウが、
少し緊張したような顔で、俺を見つめる。
「…、カイリュウ、」
「…ん、」
「……なんで今まで受かんなかったの?」
「っ、ふはっ。それは俺が聞きたいねん。」
「…すごいよ、っ、めっちゃ上手い。いい声やし…っ、…本当に、最高やった。」
「ほんまに、?嬉しいわ…、」
自信満々に、せやろ?なんて、
言うかと思ったのに。
嬉しい、なんて、
照れた顔を見せて。
本当は、誰よりも、
誰かに、認めてほしかったんだろうと、
そんな姿を見て、感じていた。
カイリュウの歌声が、
あの歌詞が、ずっと、
頭に、響き渡る。
「……これ、なんて曲?」
「ん、?…’Seaside Story’」
「……なんで、この曲歌ってくれたん、」
「…別に、…海やし、ちょうどええやろ、」
「っ、…」
もう、
会えないかもって時に、
“I love you”なんて、
なんで、俺に歌ったの。
そんな言葉を、言いかけて、
波の音で、掻き消した。
この歌声は、
俺が独り占めしていい、
才能じゃないと、知ったから。
「……ねぇ、俺、ファン1号になってもいい?」
「、……おん。お前が1号なら、心強いわ。」
そう、安心したように笑うカイリュウを見て、
夢を見ている、その顔が綺麗で。
そんなカイリュウが、
夢に向かうカイリュウが、
俺は、好きだから。
初めて聴いた、その歌声が、
もっと、もっと、
たくさん、響くことを願いながら、
静かに、本当の気持ちを、
心の中に、沈めていった。
コメント
12件

ええーーーー!!!! まさかまさかすぎて、言葉が出ません seaside story歌ってるところら辺からめっちゃいい展開なんじゃ?とか思ってたら🦅がファン1号になっちゃって、ええーーーーー!!!って叫びました笑笑笑 🦅も早く東京行って付き合ってしまえ!!!! 2人とも言えずじまいなのが悔しすぎます笑 今回も最高でした♪♪♪

えええええらんちゃん心を沈めちゃったの!?って声出ました😭😹 デビューして再会とかあるのかな💭
更新ありがとうございます✨😭もう泣きそうです😭😭カイリュウの合格を聞いておめでとうよりも先に寂しいが来るのが切ない😢ランくんの「寂しい」と「おめでとう」に色んな感情が混ざってて😭😭SeasideStoryどこで出てくるのかな〜と思ってたら最後に😭😭😭😭歌詞の「ILoveYou」に引っかかってるランくんがもう😭 自分の気持ちに蓋をしてる2人を見てて胸がギュッとなりました😭
𖤐·̩͙
9,412
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