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思いのほか呆気なくジェスランは白状する。むしろあまりにもすらすらと話すためにベルニージュとネドマリアの疑いの霧は中々晴れることがなかったようで、ユカリとレシュで用意したお茶を持ってくるまで延々と問い詰めていた。

天罰官ジェスランはかつて救童軍総長ジェスランであり、人喰い衆の頭目サリーズでもあったのだという。


「まあ、おじさんも攫った子供たちを引き渡したあとのことは知らないけどね。荒くれ者をまとめる腕っぷしを買われただけさ。実行するのは下の連中、指図するのは上の連中。おじさんは謎の黒幕役だったってわけ」


ネドマリアは用意していた拷問を一応使っておこうと、ジェスランに邪悪な魔術を施そうとしたが、ユカリが何とか押しとどめた。全てはネドマリアの姉の行方を知ってからでも遅くない、と説得した。


大仕事・・・当日のこと。ジンテラ市有数の宝石店でもある盗賊団の隠れ家は慌ただしい様子だった。盗賊たちは仕事を前に最終確認を行っている。

ユカリとベルニージュ、ネドマリアもまたかつて硝子張りだった部屋でそれぞれの目標と取りえる手段を確認していた。


ネドマリアはレシュの淹れてくれたお茶を味わいつつ言う。「つまりシャリューレたちにとっては陽動、あるいは囮に過ぎないってことだよね、大仕事・・・自体が」

「陽動よりは囮の方が近いですかね」とベルニージュが言った。「より正確に言うと盗賊たちも魔導書を狙いはするが、彼らの働きを期待してはいないってところでしょうけど」


ベルニージュはジンテラ市全体の地図を広げて見て、地理や寺院の位置を確認している。

救済機構の総本山を構成する八つの寺院の内二つの寺院に例の旧王国の国宝たる魔導書が保管されている。

当然二つの魔導書を失った総本山は守りを固めている。ジェスランによると、焚書機関のほぼ全ての人員が集っているらしい。それ以外にも各組織で僧兵を多数有している。一国家ではなく、一都市国家同盟規模を相手にするということだ。


「囮だってこと、盗賊たちに話した方が良いのかな?」とユカリは二人に尋ねる。

「え? 何で?」とベルニージュとネドマリアが同時に聞き返す。

「知ってて囮するのと知らないで囮するのじゃ成功率は変わると思う。私も盗賊たちには成功が見込めないと思うし、それなら囮、陽動に専念してもらった方が良いんじゃない?」

「思いのほか割り切ったこと言い出したよ、この子」とネドマリアが感心したように呟く。

「てっきり盗賊の心配しているのかと思った」とベルニージュは言った。


全くその通りなのだが、盗賊を心配していると言えば目の前の二人に反発されるだろうことくらい、ユカリにも想像できていた。


「まあ、でもシャリューレたちの狙いを話しても話さなくても変わらないと思うよ」とベルニージュは言う。「だって盗賊だもん。魔導書以外にも盗める物は盗んで帰るに決まってるでしょ。陽動か囮に専念してって言うだけ無駄だね」


ユカリは全く腑に落ちた。確かに、いくら莫大とはいえシャリューレからの報酬だけで満足して、目の前のお宝を見逃すような人々が盗賊を生業にするだろうか。


「それもそうか。そうだね」とユカリは納得した様子で呟く。「それで私たちはシャリューレを探しつつ、魔導書を狙う。どちらかを優先するとすればシャリューレ。それでいい?」

ベルニージュは地図から顔を上げて頷く。「レモニカの居場所を聞けた場合はレモニカを優先。でもどちらか片方がレモニカのもとへ向かえるなら、もう一人は魔導書を優先すべきだと思う」


ユカリはそんな風に思えないが、そんな風なことは言えない。何しろこの魔導書探求の旅にベルニージュを連れまわしているのは自分なのだ。

ユカリもまた何かを呑み込むようにこくりと頷く。


「それでネドマリアさんはお姉さんの手がかり、ですよね。救済機構が攫ったのだとすれば、子供たちはどうなったのか……」


ユカリは言い淀む。どう考えてもネドマリアの探求の果てに幸せな結末など見い出せない。しかしそれでもネドマリアは姉を求めてできるすべてのことをやるのだろう。


「そうだね」ネドマリアは気落ちなど見せない。「機構を調べるまたとない好機は逃せないからね、ジェスランにはまだまだ聞きたいことがあるけど。後回し」

ベルニージュはネドマリアに尋ねる。「ジェスランはネドマリアさんのお姉さんのことを覚えてなかったんですか?」

「忘れてるだけかもしれないけど、名前に聞き覚えはないってさ。沢山のならず者に尋問してきたけど、あれだけぺらぺら喋る奴、今までいなかったよ。それがかの人喰い衆の頭目だなんてね。笑っちゃう」


ユカリは気もそぞろに相槌を打つ。レモニカと魔導書だけではない。ユカリにはもう一つ、可能なら成し遂げたい目標がある。シャリューレに教わったクオルが行っていたという研究。『禁忌の転生』について、自身の出生について何か知ることができるかもしれない。




そうして沢山の秘密が星々からも隠された大仕事・・・の夜がやってくる。厚い雲が空を覆って、どんな夜よりも深く濃い夜更けが約束される。善き人たちから幸いをくすねることを生業とする邪な者たちが信じぬ神に感謝し、人の営みの明かりまでもが消える時を待つ。


とはいえ奇妙なことにジンテラ市は夜にこそ活気づく。もちろんジンテラ市民とて只人と変わらない昼行性の営みを送っているのだが、この街は尋常でなく巨大な建造物が立ち並ぶために、日の出と言える時間が遅く、また夜も浅い頃には無数の篝火が熾されるためにとても明るい。そのため高地の中でもジンテラ市の営みは少しばかり後ろにずれているのだった。


そんな聖都の市民でさえ深い眠りに就き、未だ現れぬ聖女に祝福された夢に微睡む頃、ジンテラ市各地の盗賊団の隠れ家から一人、また一人と太陽の下では大手を振るえない盗人たちが影に似た衣を着て夜闇に紛れ込む。


ユカリとベルニージュもまた幾分の罪悪感を胸に抱えてジンテラの罪深い夜に繰り出す。ユカリはすぐさま誕生日の贈り物に貰った外套を抱き寄せる。春も半分を過ぎたとはいえ、この高地ではまだまだ寒い。


ネドマリアは宝石店を出てすぐにユカリとベルニージュと別れた。「じゃあまた夜明けに」の一言を残して。


姉を求めて夜に彷徨い出たネドマリアを見送り、ユカリはベルニージュに確認する。「えーっと、典礼監督室の聖ターティア人道寺院に向かう、でいいんだよね? そこに魔導書がある可能性が高い」


「うん」と言って頷くとベルニージュは一息にまくし立てる。「シャリューレが四つの魔導書の在り処として想定していたのが総督院直下の四大組織。で、その内の一つ恩寵審査会の聖ヴィクフォレータの恩寵寺院から、シャリューレ自身が『珠玉の宝靴』を盗み出した。亡霊の青銅像ヒューグが『至上の魔鏡』を盗み出したのは焚書機関だ、とシャリューレは想定していた・・・・・・らしい。根拠は分からないけど、シャリューレは囮である盗賊団にこの二つの――もう魔導書がないはずの――寺院に忍び込むように命じていた。そして残りの二つの組織は共同宣教部と典礼監督室なんだけど、共同宣教部は宣教とか会計を担う組織運営の柱だから、魔導書の管理を任せるとは思い難い。なのでワタシたちは残りの典礼監督室の寺院に向かう。了解?」


「……了解」とユカリは呟く。「つまり典礼監督室の聖ターティア人道寺院に向かうんだね?」

「うん。そうだね」とベルニージュは疑惑を湛えた瞳でユカリを見つめて言った。


とにかく典礼監督室の聖ターティア人道寺院に向かうのだ。

魔法少女って聞いてたけれど、ちょっと想像と違う世界観だよ。

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