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雪月❄️
268
#あべさく
めかぶぷりん
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楪羽*yuzuriha*
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部屋から出た九人は支配人の許を訪ねた。そして、「夏音ちゃんに会わせて下さい」と深澤が真正面から言うと、支配人は驚いたような顔をしていたが、それでもすぐに「こちらです」と案内してくれた。
向かうのは、一般の客が乗らないであろう奥まった立ち入り禁止エリアのエレベーターで、階数表示が20しかなかった。つまり、20階へ直通となっている。
どうして、と思っているであろう支配人はそれでも、理由を訊ねてはこなかった。
20階に到着すると、フロアの廊下に出、角を曲がった先にある他の客室よりもひと回り大きな両開きの扉の前に立つ。
深い色合いの木材に、装飾らしい装飾はほとんどない。ただ、縁をなぞるように施された細い彫り込みと、鈍い金色の取っ手だけが、そこが他の部屋とは違うのだと静かに主張している。
ドアをノックする支配人。
「失礼いたします。特務調査局の皆様が、夏音様にお会いしたいと来られています」
すると、中から威厳のある重低音が響く。
「何故、連れて来た。許可は出しておらん」
「しかし……」
そこへ、少女の声が響いた。
「おじいちゃん待って。ボクのお友達なの。中に、入れてほしい」
その声を、九人は知っている。
高すぎない、よく通る澄んだ声。少女らしい柔らかさの中に、どこか少年めいた響きがある声。
その声に導かれるように、両開きのドアが部屋の中へ向かって開かれる。広い部屋の壁際、中央に置かれた一台のベッド。
一人で使うには随分と広い、白い木製のベッドで、緩やかな曲線を描くヘッドボードには、植物を象った控えめな彫刻が施されている。
整えられた寝具は、向日葵の色をそのまま淡く溶かしたような柔らかな黄色。掛け布団には生成りの細いレースが縦にあしらわれていて、華美ではないものの、どこか可愛らしい。
そのベッドに座っているのは、淡いクリーム色の寝間着を纏っている、点滴に繋がれた少女。皆が見ていたよりも色白だけれど、こちらを見てふわっと笑うその顔は、夢幻ノ杜で見た夏音そのものだった。
その傍に置かれた椅子に座り、こちらを睨むように見ているのが、夏音の祖父―――水無瀬。水無瀬が下がるように支配人に言うと出て行き、この場には夏音、祖父、特務調査局の九人だけとなる。
「これは一体、どういうことか、説明願おうか」
問われ、深澤が息を吐き出す。言わなければならない。それも、夏音本人の目の前で。それでも覚悟をしてここまで来たのだから、今更、躊躇はできなかった。
💜「今回の件……」
「おじいちゃん。ボクがね、異能を奪った犯人なんだよ」
深澤の言葉を遮るように、夏音が告げた。ベッドの奥側にいる水無瀬が驚いたように夏音を見、それから特務調査局九人の方を見る。
「どういうことだ。何故、夏音が」
「それは」
💜「夏音ちゃん。説明は俺達が」
深澤と夏音の目が合い、首を横に振って、それ以上は言わなくていいと告げる。
すると夏音はコクンと頷いた。説明をするために九人は夏音のベッドの周りに立つ。囲まないように、深澤と岩本以外は少しだけ距離を取って。
💜「先ず今回の件は、夏音ちゃんが故意に起こしたものではないということは、先にお伝えしておきます。様々な条件が重なって起こった、というのが正しいので」
「……わかった、話を聞こう」
💜「ありがとうございます」
そこから、深澤は今回の事件の推理を語った。
💜「発端は、夏音ちゃんが描いた一枚の絵。その絵を、夏音ちゃんの異能《映し鏡》が別空間として映し出しました。それが、夢幻ノ杜です。その夢幻ノ杜では、夏音ちゃんのもう一つの異能、《誘音》によって、人の精神だけが来るという現象が起きました。そしてその時に、夏音ちゃんが持っていた人形に偶然にも、誘われて来た人が触れてしまい、その人の異能の一部が人形に流れ込み、人形が動きました。これが、この茜波以外の、陽ヶ瀬地区全体で起こっていた《異能隠し》の真相です」
「なんと。陽ヶ瀬地区全体で起こっていたのか……」
💜「ええ。およそ二年前からです。ただ、広範囲だったので、噂程度でしかありませんでしたが。その後、また偶然にも茜波にいたスタッフが夢幻ノ杜に来てしまい、そこでできた人形は全ての異能をもらう形で命を吹き込まれました」
「グローリー、ソフィラ、出てきて」
夏音の声に反応するように、ベッドの下から出てきたグローリーとソフィラは、高くジャンプすると夏音の傍に立つ。
「おじいちゃん。この子たちが、ボクが夢幻ノ杜で暮らしてる時にお世話をしてくれた、男の子のグローリーと、女の子のソフィラだよ。挨拶、できる?」
〔初めまして。グローリーと申します〕
〔ソフィラです〕
手を胸に当てて頭を下げるグローリーと、スカートの裾をつまんで頭を下げるソフィラ。その姿に、水無瀬は驚きを隠せないでいる。
「……その子らが、異能を奪った人形なのか?」
「……グローリーは聖雨、ソフィラは煌線銃。それぞれ、異能が使えるの」
💛「眠り姫シンドロームになった人が持っていた異能で間違いないです。警察の記録と照合できました」
夏音の説明を、岩本が補う。
「……では、本当に夏音が……だが、何故……」
少しだけ、夏音が俯いた。
布団の上でぎゅっと拳を握り締める。その姿を見た阿部は、夏音に近づいた。ベッドに膝をついて身を乗り出し、夏音の手に自分の手を重ねた。ハッとしたように阿部を見る夏音に、阿部はそっと頷く。
大丈夫だと、そう言うように。
だから夏音も頷いてから、祖父を見つめる。阿部は決意した夏音からそっと離れた。
「ボクね、淋しかったの……おじいちゃんはボクのこと可愛がってくれる。なんでもくれる。でも、なかなか会いには来てくれない。ボクがこの部屋から出られなくなってから、物だけが増えた」
部屋の中には、隅の方に棚が置かれており、その上にはいくつかのドールハウス。そのドールハウスの一つに、ダフネに似たおさげの小さな人形が置かれている。
大きな花瓶に飾られた生花は、夢幻ノ杜で見た花とそっくりだった。
「お父さんとお母さんは、ボクの病気がわかってからずっとケンカしてるの、ボク知ってるんだよ。お部屋に来た時には仲良くしてるけどね。だからずーっと淋しくて、淋しくて、絵を描いたら夢幻ノ杜に行ってて、人形が出来て、友達が増えてくのが嬉しくて……それが他の人の迷惑になってるって、知らなかった」
「夏音……」
「おじいちゃん。ボクね、おじいちゃんのこと好きだよ。だから、忙しくても、もっと会いに来てほしい。もっとお話、聞いてほしい。いっぱいいっぱい、抱きしめてほしい。ボク、それだけでいいから……っ」
ぼろっと、夏音の目から大粒の涙が零れた。
とめどなく溢れてくる涙を、止められなかった。
それを見た水無瀬は慌てたように夏音へと近づき、腕を広げると、夏音は点滴に繋がれたままだというのも忘れて布団から出ると、水無瀬に抱き着いた。声を上げて泣く夏音を優しく抱きしめる水無瀬。
「すまなかった、夏音……何不自由ない生活をしていると、思い込んでいた……すまなかった……」
泣きじゃくる夏音と、うっすらと涙を浮かべている水無瀬の姿を、九人は微笑ましく見ていた。これで、溝が消えてくれたらいい、と。そして、夏音の淋しさがなくなってくれたらいい、と。
暫く泣いて、気持ちが落ち着いた夏音が水無瀬から離れた頃、水無瀬は立ち上がって九人に向かって頭を下げた。
「ありがとう。君たちのおかげで、夏音の想いを知ることができた。警察へは、私が事情を話す。咎も受けるつもりだ」
「おじいちゃん」
「夏音に悪気がなかったとはいえ、責任は取らねばならない。それが保護者の務めだ」
💜「今回の件、夏音ちゃんもしっかり受け止めていました。そちらは、水無瀬さんにお任せしようと思います。ただ、不幸中の幸いですが、異能を取り戻したい、戻って来てほしいと願った被害者は、いませんでした。同じ音を持つ陽ヶ瀬石の所有者という条件の他にも、人選には何かあったのかもしれませんね。それと、みんな夢幻ノ杜は楽しかったみたいだよ」
最後の言葉は夏音に向けて告げ、深澤はニコッと笑った。
驚いたような顔の夏音は、すぐに微笑んだ。良かったと、夢幻ノ杜を嫌なものだと思ってなくて嬉しいと、その表情が物語っている。
🤍「あ、はいはい! ちょっと提案」
話が一段落したのを感じ取ったラウールが、勢いよく手を上げた。
🤍「夢幻ノ杜で見た人形、さすがに全部は無理なんだけど、僕が憶えてる範囲の子だったら作れるんだけど、夏音が嫌じゃなかったら作ってもいい? えっと、ダフネはあそこにいるから、ダンデ、ミスト、マグノリア、ルピン、ロータス。あと、鎌を持ってた子と、斧を持ってた子。この辺りならちゃんと憶えてるから再現できると思う。どう?」
「……みんな、戻ってくるの?」
🤍「もちろん、異能はないし、動かないよ。でも、夏音はあの子たちのこと好きだったでしょ? だから、形として残せるならって思って。僕にはそれができるから、夏音にプレゼントしたいの。夏音は、夢幻ノ杜も好きだったから、忘れたくないのかなって」
瞬間、ぱあっと夏音の表情が、向日葵が咲き誇ったように明るくなった。
「嬉しい! ボク、夢幻ノ杜がなくなったことは後悔してないの。良くないことをしちゃったから。でも、やっぱり忘れたくない。忘れられない。だからすっごく、嬉しい」
そう言った夏音に、傍にいたグローリーが夏音の体に触れ、ソフィラはそっと顔を寄せている。
人形たちにとって、夏音が大事にしてくれること、忘れないでいてくれることは、きっと何より嬉しいことなのだろう。
夏音の返事を受けてラウールは、クリエイトで人形たちを作った。元の大きさではなく、置いてあるドールハウスに馴染む、両手のひらに収まるくらいの遊びやすい小さなサイズにして。
それを受け取った夏音は大切そうに抱きしめ「ずっと大事にするね。ありがとう」とまた、顔を綻ばせていた。
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物を与えればその子は喜ぶ 浅はかな考えが呼び起こした事件 笑顔が戻って良かった。