テラーノベル
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好きなだけ滞在していいという水無瀬の好意に甘え、九人は割り当てられた部屋へと戻って来た。
夏音の件は一旦、ここで終わった。けれど、まだまだ確認しなければならないことが山ほどあるから。
その中心になるのは当然、阿部。
阿部をソファの中央に座らせ、囲むように座る。阿部の隣には目黒と岩本。簡単には逃げられない布陣になっていた。
正面に座っている深澤の目が、阿部を捉えて離さない。
💜「さ、阿部ちゃん。懺悔タイムだよ」
💚「うっ。いやまあ、そうなるんだけど……えーと……一人で突っ走って、すみませんでした。ちゃんと帰るには、もうそれしか方法がなくて……」
そう言って頭を下げた瞬間、ほぼ全員から大きなため息が聞こえた。
正直なところ、問い詰めようと思っていた。何でそんなことをしたんだ、どうして一人で勝手に判断してやったんだ、と。
当然のことながら、説教する気満々だったのだ。時間がなかったことも分かっている。阿部じゃなきゃできなかったこともある。だからこその行動だったのだろうから。
けれど、阿部はリスクを承知で行い、自身の非も認めている。それでも、帰るという選択肢を取った故の行動だった。
咎められるはずがない。
💜「もう分かったよ。阿部ちゃんが自分を犠牲にするつもりがなかったのは分かってる」
💛「ま、忠告無視して理由も告げずに強制送還したことは、許してねえけど」
💚「ごめんって。あそこで説得する時間なかったんだよ。めめを送った後、すぐにアルカナムから異能がどんどん使われてって……みんなの歌がなかったら、俺、帰って来れなかったんだ」
そうなのかと納得しかけて、けれど、岩本はその言葉を逃さなかった。
💛「待て、阿部。歌がなかったら帰って来れなかったって、どうするつもりだったんだ」
💚「え? みんなを送った後に、飽和暴走を止めたら送電流で俺も帰る予定だったよ。めめを送った時までは。でも、アルカナムの暴走で送電流が切られて、夏音ちゃんの誘音で繋がってた陽ヶ瀬石の道も切れて……多分、夢幻ノ杜の崩壊で空間が歪んで、切れちゃったんだろうね」
💛「切れちゃったんだろうね、じゃないだろ。お前、一回、詰んでんじゃねえか」
💚「まあ、結果としては、そう」
参ったよね、と苦笑を浮かべる阿部に、鋭い視線を向けたのは何人いただろうか。
今にも、感情を抑えられず阿部のところに行きそうな渡辺を、隣に座っている宮舘が止めている。ゆり組が隣同士だったおかげで、命拾いをしたようだ。
そこで、阿部は左隣の目黒を見上げる。
💚「でも、めめの歌が聞こえてきたから」
🖤「……聞こえてたんだ」
💚「うん。タペストリー。みんなで歌ってくれたでしょ?」
そう言いながら、阿部は皆を見回す。
💚「歌い繋いでくれて、でも、俺のところは歌わずにおいてくれて、それが、なんかすっごく嬉しかったんだ。俺の居場所はそこだって、言ってくれてるみたいで」
🖤「阿部ちゃんのパートは阿部ちゃんのものだから。音で繋がってるって言ってたから、歌ならいけるかもって思って」
💚「夏音ちゃんも言ってた。音が重なったら誘音で道ができるって。俺が自分のパートを歌って、それで道ができたんだって。だから、帰って来れたのはみんなのおかげだよ。ありがとう」
届いていた。
聞こえなくてもいいと思って歌っていた。でも、阿部にちゃんと聞こえて、届いて、それが道になっていた。それが何だか、嬉しかった。
阿部一人を残して、強制的にではあったけれど戻って来て、何もできないことが辛かった。苦しかった。それは、皆が感じていたこと。だからこそ、歌に託した。一縷の望みを。それに賭けることしかできなかったから。
そこで、ふと、ラウールが気づいた。
🤍「そういえば、阿部ちゃん。どうやって飽和暴走、止めたの? 前みたいに他の異能、使ったの?」
雪月❄️
268
#あべさく
めかぶぷりん
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楪羽*yuzuriha*
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それは、当然の疑問だと思う。
また、話さなければならない。電脳総命の話をしたのはそう遠くない出来事だというのに、それを覆すようなことをしたのだから。
けれど、前の時とは違う。反応が怖いわけではない。ただ、事実として受け入れるのが少し、自分の中で怖いだけ。
決断はした。自分で、受け入れた。けれどそれが現実として降りかかるのはまた、別の話だから。
ふうっと、息をついた。
💚「照もふっかも、警察からきてた資料は見たよね。その中に、CLOSEって異能があったの、憶えてる? 眠り姫シンドロームの被害者の方」
💜「ああ、うん、見た。一通り、異能の情報は見るようにしてたし」
💛「CLOSEって確か、封印? 詳しくは書いてなかったけど、異能を封じることができるって……まさか」
💚「そう。クイーンっていう名前の人形だった。その子と夏音ちゃんが、封印したら異能が使えなくなるから、それで飽和暴走が治まるって。だから、受け入れた」
それは衝撃でしかなかった。
今回の眠り姫シンドロームで、被害者たちから異能が消えてなくなるという現象を目の当たりにした。実際、岩本と向井は異能がなくなった人物から話も聞いている。そしてそこで、自分たちから異能が切り離されてしまったら、なくなったらというところまで考えていた。
それが、阿部に起こっている。今、すぐ目の前で。もし、という話から、現実になってしまった。その時に、自分たちから異能は切り離すことはできない、そうなったら困るし大変だという話までしていた。
異能がなくなったら困る、大変、辛い、哀しい。そう思っているのは当然、岩本と向井だけではない。ここにいるメンバーは、少なくとも学生の時から異能を持っている。皆、もう10年以上は異能と共に成長している。
今更、なかった頃には戻れない。
誰からも、何の言葉もなかった。けれど阿部は、それでいいと思った。自分だって、逆の立場なら何も言えない。言いたくない。
大丈夫じゃないのは明白で、どうにもできない現実しか残されていない。帰ってきたことを喜んでくれていたのは重々承知している。
あの時、帰ってきた阿部をみんなが笑顔で迎え入れてくれて、案の定、泣きそうな佐久間や向井やラウールに抱き着かれたのだから。
けれど今はもう、そんな話ではなくなってしまった。受け入れられない。それは、阿部以上に思っているかもしれない。
特に、目黒が。
左隣の目黒に視線を向ける。何かを我慢するような、そんな顔をしていた。何を、というのは分からない。
止めなかったことを後悔しているのか、帰って来てと願ったのを間違いだと思っているのか、でもその結果として阿部が無事だったことをなくしたくないのか―――想像する事はいくらでもできる。その想像が、阿部も全て痛感できるから。
だから、言葉を紡ぐのは阿部。
💚「俺もね、全部が納得できたわけじゃない。使わないのと、使おうと思って使えないのはやっぱり違うし、なくなっちゃえばいいのにってずっと思ってたけど、いざ手放したら、淋しい、哀しいって思うんだ」
🖤「……阿部ちゃん……」
💚「でもね、これだけはハッキリしてる。帰って来られたこと、またみんなに会えたこと、それが嬉しいって思えた気持ちは、嘘じゃないから」
その顔は、晴れやかだった。無理をしているのは分かっている。それでも、その笑顔も嘘ではないのだと思わせてくれる。
💚「これから、きっとたくさん迷惑をかける。今までもそうだったけど、もっと、たくさん。できないことも増える。それでも、俺にできることは精一杯やろうと思う。だから、異能が使えなくても、俺、特務調査局にいてもいいかな?」
それは多分、本当の問いではない。阿部自身、もう分かっている。異能が使えなくなったからといって追い出すような人たちではない。ここまで築いてきた絆が確かにあるから。だからそれは、みんなの心を少しでも軽くするための言葉。
皆も、わかっている。
だから。
💜「当たり前だろ! お前がいないと、誰が考えをまとめんだよ」
💙「書類のこととか聞くの、阿部ちゃんしかいねえんだけど」
🤍「僕も、クリエイトのこととか、その他のこと、ちゃんと相談できるの阿部ちゃんだけなんだよねー。他の人に訊いても、絶対、理解してくれないもん」
❤️「これで阿部が痩せなくて済むようになるのは良かったかな」
🧡「えー、でも俺、阿部ちゃんにまた新作のラテ作りたい!」
💛「それは自由に作ったらいいだろ。ついでに、タピオカドリンクも新しいの作ってくれない?」
🧡「照兄、めっちゃ個人的な願望やん。ええけど」
🩷「でもこれで、阿部ちゃんがもっと休んでくれるようになったら、休日に出かけられるじゃん! 旅行、行こうよ、旅行」
💛「あ。ダイビング行くって言ってたやつも忘れんなよ、阿部」
🖤「俺は異能があってもなくても、阿部ちゃんのことを守るのは変わらないけど」
🩷「蓮の過保護度、上がりそー」
🧡「言えてる」
🤍「四六時中くっついてそうだね」
💚「え、それはやだ」
🖤「えっ、やなの?!」
💚「えっ、やだけど」
ショックを受け、ソファの背もたれに顔を埋めてしまった目黒。
その姿に、みんなが声を上げて笑う。
ほら、もういつものみんなだ。電脳の話をしても、誰一人として重く受け止めなかった。もちろん、軽く流したわけではない。きちんと受け止めて、受け入れて、それでも大事にはしないでくれていた。
阿部が海やプールに入れなかった時もそう。誰一人として、無理強いなどしなかった。その関係が、距離感が、本当に心地いい。
💛「阿部。もう無理すんなよ。自分ができる範囲のことでいい。俺らは、そうやって助け合うのが当たり前だろ」
💚「うん。そうだね。俺一人で頑張れることなんて少ないんだ。頼れるところは頼るよ」
🩷「結果的にさ、もうこれで阿部ちゃんが狙われることもないし、危険も減るんじゃない?」
💜「佐久間、それ本気で思ってる? 阿部ちゃんの巻き込まれ体質、甘く見んなよ」
🩷「あ、忘れてた。そうだったじゃん! 阿部ちゃんだから絶対、平和なだけで終わんないじゃん!」
💙「やめろ、佐久間。フラグ立てんな」
💚「ねーえー。俺の扱い、ひどくない?」
❤️「今までの実績を見てから言ってほしいね」
💚「舘様まで。もう、いいよ。俺、荷物片づけてくる!」
🩷「あ、逃げんな! 蓮、追いかけろ!」
🖤「うす」
ドタバタと、騒がしい日常が戻ってくる。
これからの日々はきっと大変だけれど、みんながいれば大丈夫。これからの、新たな一歩を踏み出した。
夢幻ノ杜編 終
コメント
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仲間はすごいね👍 何が無くなってもその人の事尊重して 守られキャラは変わらない😅