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麗太
#女主人公
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眩しさを感じて目を開ける。
青年はゆっくりと上体を起こし、辺りを見回した。
彼はベッドで寝ていた。カーテンの隙間から朝日が差し込んでおり、それが顔にあたっていた。
「カイトさん!」
少女の声が響いた。
たしか、タニアと呼ばれていた少女だ。
彼女がこちらに駆け寄ってくる。
「あたしのこと、わかりますか?」
カイトと呼ばれた青年は、少し考えを巡らせた後に言った。
「タニアさん、という名前だけなら……」
タニアの表情が悲しみに染まる。
両目も潤むが、無理やりに笑みを浮かべてみせた。
「……まずは、助けて頂いてありがとうございます。カイトさんのおかげであたしは助かりました。村の人たちも誰一人として死ぬことはありませんでしたよ」
青年──カイトは、何とも言えず沈黙するしかなかった。
自分が何者で、なぜ人助けをしたのか、まったく記憶になかったからだ。
「お礼を言われても戸惑っちゃいますよね……」
タニアは、これまでのことを説明してくれた。
しかし、それらを聞いても、カイトの記憶が蘇ることはなかった。
赤の他人の話を聞いているような心地だ。
それゆえ、
「そうですか……」
と返すことしかすることができなかった。
「話を聞いても思いだせませんか?」
「ええ、まったく……」
タニアは俯いてしまった。
その様子を見ていると胸が痛んでくる。
沈黙が漂う中、カイトは口を開いた。
「実は眠りながら、みなさんの話をおぼろげながら聞いていました。何でも俺が、五百年前に魔王を倒した勇者カイトだとか……」
タニアがはっとした表情を浮かべた。
期待のこもった眼差しを浮かべるが、カイトはすぐにかぶりを振る。
「たしかに特徴は一致しています。でも何かの間違いでしょう。俺がそんなすごい存在だなんて、俺自身が信じられません」
タニアは苦笑を浮かべた。
「たしかにそうですよね……。あたしもカイトさんが伝説の勇者だなんて……失礼ですけど、信じられません」
「そうでしょう」
カイトも笑みを浮かべて同調した。
「ただ……」
タニアは、まっすぐにカイトを見据えてくる。
「実はカイトさんが本物の勇者であるか、調べられるかもしれません」
* * *
カイトはタニアとともに家を出た。
そのとき。
「ガウッ」
銀色の毛の大きな狼が駆け寄ってきた。
思わず身構えるものの、狼に害意はなさそうだった。
「くーん、くーん」
と甘えた声を発しながら近づいてくる。
狼は期待のこもった眼差しで見てきた。
撫でてほしそうに耳が後ろに垂れている。
カイトが戸惑っていると、
「この子はモフモフ。カイトさんのお友だちですよ」
タニアが説明してくれた。
「モフモフ!?」
カイトは思わず聞き返した。
「なんですかその変な名前は……」
すると、タニアはプッと吹きだした。
「カイトさんが名付けたんですよ!」
タニアは声を上げて笑いだした。
カイトは顔が熱くなるのを感じた。
ただ、タニアの笑顔を見ることができて、悪い気はしなかった。
カイトは、自分が名付けたらしいモフモフと呼ばれる大きな狼を撫でてやった。
モフモフは、嬉しそうにキューンと鳴いた。
* * *
タニアに案内されながら、カイトはアルヒ村を歩いていた。
モフモフもカイトの隣に並ぶようについてくる。
チラチラとカイトを見上げてくるのが可愛らしい。
歩きながら、カイトは村の様子を観察した。
緑あふれる土地、流れる小川、石造りの井戸、木造の家々……。
派手さはないが、落ち着いた雰囲気の村だと思う。
ただ現在は、そこかしこに魔物襲撃の痕跡があった。家や家畜小屋の一部が破壊されていたり、地面に焦げた跡があったり、血の痕跡らしきものもあった。
死人が出なかったというのは、奇跡だったのだろう。
しばらく歩を進めていると、タニアが話しだした。
「先ほどお話しした、カイトさんが勇者かどうか調べられるかもしれないってことなんですけど……その方法については、つい最近まで忘れていたんです」
「ということ?」
「あたしが幼い頃に聞いた話だからです。おとぎ話みたいなものだと思って、これまでずっと忘れてました」
でも、とタニアは続ける。
「神父さまのお話を聞いて、ふと思いだしたんです。あたしが子どもの頃、ルシオお兄ちゃんがしてくれたお話を」
タニアは、その内容を語りだした。
それは、タニアの母の家系に語り継がれている話だった。
はるか昔、彼女の祖先はこのアルヒ村で、勇者パーティの一人と『とある約束』を交わしたらしいのだ。
その約束とは……。
──いつかアルヒ村に勇者本人が現れるかもしれない──
──それは遠い未来のことで、いつになるかはわからない──
──だからこの約束は、子ども、孫、ひ孫と語り継いでいってほしい──
──そしていつの日か、勇者が現れたら──
──あの場所に導いてやってほしい──
「なるほど……。それでその約束がタニアさんに回ってきたわけですね。それで、ある場所というのは?」
タニアは立ち止まり、前方を指差した。
その指先は、教会前の広場にある、勇者像を指し示していた。
「ご先祖さま曰く、もし本物の勇者さまが勇者像に触れれば……奇跡が起こるらしいんです」