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3ヶ月前の投稿ですが、ブクマ失礼します
ブクマ失礼します! なんか、こう、雰囲気とか書き方とか全て刺さりました。続き楽しみです(*´∇`)!
最高でした🥲連載ブクマ失礼します🥲❤️
兄とは、どういう存在なんだろうか
よく世間では頼られる存在、だとか、兄弟の中で1番優れている、だとか、優しい、完璧、優秀、尊敬、憧れ、怒ってくれるし褒めてくれる
そう、言われているだろう
俺の兄、なーくんもそんな存在だ
頼もしくて、憧れで、尊敬で、優しくて、怒る時は怒ってくれて褒めてくれる時はとことん褒めてくれて、完璧で
この世の『兄』という存在の良い所だけを取り入れた様な、そんな存在
それに対して次男である俺は『凡』
普通なのだ
勉強も毎日しっかり勉強しないと授業には着いていけなくて、少しでもサボれば一気に崩れてしまう
運動だってそうだ
兄であるのにも関わらず頼りなく、不甲斐ない、優しく出来ているのか、優秀で要られているのかさえ分からない
唯一出来るのは家の家事
それだけだ
家事だけが出来る兄
なんでも出来る兄
みんなはどっちを取るだろう
俺は間違いなく即答で後者を選ぶ
小さい頃、よく言われた
『”完璧な兄”の残りカス』
実際その頃から自覚はしていた為、否定はしなかった
嘘じゃないから
でも弟が増える度、それは変わっていって
いつからか『”完璧な兄弟”の残りカス』と言われる様になった
なんでもストイックにこなす三男
やる気は感じないがスポーツが大得意な四男
面白くて一緒にいると楽しいし、頭がいい五男
入学早々生徒代表となり、生徒会長を務める事となった末っ子
みんな、優れた才能がある
なのに俺は、何もないのだ
次第に兄とは何か考える様になって、俺の中に『お兄ちゃん』が出来た
みんなが求めている存在
辛いところなんて見せちゃダメ
迷惑をかけちゃダメ
常に笑顔でいる
家事をきちんとこなし、弟たちの世話をする
いけない事をしたらきちんと叱り、良い事をしたらとことん褒める
そんな『お兄ちゃん』
俺はお兄ちゃんだから、と心の中で呪文をかければ自然と体は動いた
いつからだろうか、泣かなくなったのは
いつからだろうか、何も感じなくなったのは
いつからだろうか
________みんなを愛せなくなったのは
無機質な機械音が部屋中に響き渡る
意識が途切れる前に置いた場所へと手を運び、アラームを止めた
むくり、と体を起こす
「……………」
落ちくる左サイドの髪を耳にかけ、冷たい床に足を下ろした
ドアを開け、階段を降りる
不意に見えた玄関のところに一足靴がなくて、あぁ、なーくん出たんだ、と他人事のように感じながら、リビングへと行き、キッチンへ進む
まるで機械の様に決められた動きをしてお弁当を作っていき、朝ごはんを作る
全てが出来上がった頃には6時30分を回っていて、4人を起こさなくてはとリビングを出て階段を登る
1番手前にあるさところの部屋の前に立ち、ノックを3回
予想通り返事が返ってくる事はなく、ドアを開けてベッドへと歩み寄る
上の階に寝ているころちゃんの肩を揺すった
「ころちゃん、朝だよ」
「………ん、…ん…?」
珍しく1回目で目を開けたころちゃんはむくり、と体を起こし、目を擦る
「おはよう」と笑うところちゃんはいつもの様に顔を少し顰めた
「ん?」と首を傾げると、「なんでもない」と少しガラガラした声でヘラっと笑った
「ちゃんと顔洗って歯磨くんだよ」
「分かってるよ…」
そう言ってぶーと頬を膨らますころちゃんの頭を撫で、部屋を出ていくのを見送る
「…さとみ、朝だよ」
ベッドに視線を戻し、下の階で眠っている大きな塊に声をかける
モゾモゾと動いた後、姿を現すピンクの癖のある毛
開かれた藍色の瞳はゆっくりと俺を見捉えた
「おはよ」
「……あぁ」
「早く降りてきなね」
そう言って笑い、踵を返すがある違和感に振り返る
どうやらさとみが俺の袖を掴んだらしい
「…どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
ハッとした様にさとみは俺の袖から手を離し、頭をかいた
「早く朝ごはん食べな」
軽く頭を撫で、部屋を出る
そして奥にあるジェルるぅとの部屋に行き、ノックを3回
珍しく返事が返ってきて、ドアを開けると2人とも今日の時間割りを確認していた
「おはよう、ご飯できてるから冷めないうちに食べて」
「「はぁい」」
重なった返事に2人は目を合わせ、笑い合った
よく2人は仲が悪いと聞くが、俺にはそれは理解できなくて頭を悩ませる
この2人のどこが仲が悪いのだろう
時折戯れ合っているだけでただただ仲がいい可愛らしい兄弟である
2人と一緒に階段を降り、洗濯をする為途中で別れ、洗面台へと向かう
昨日の分の洗濯物を洗濯機へ入れ、柔軟剤やらなんやらを入れていく
ピッとスイッチを押し、リビングへ向かう
それぞれのお弁当を各色の袋へ入れ、いつもの所へ置く
そうこうしているうちにみんなご飯を食べきったらしく、「ご馳走様」という声が聞こえた
「ん、そのままでいいよー。みんな支度しちゃいな」
立ち上がり、自分が食べた分の皿を重ねているみんなを止め、皿を受け取る
「本当ですか?ありがとうございます」
るぅとくんはニッコリと辺りに花を咲かせ、微笑んだ後困った様な表情をしてリビングを出て行った
他の3人からも皿を受け取り、キッチンへと運ぶ
袖を捲って皿を洗い、タオルで手を拭いて自身の部屋へと戻る
適当に支度をして鞄とネクタイを手にリビングへ戻り、ちょうど終わった洗濯物を干していく
すると「行ってきます」という下2人の声が聞こえて見送りに玄関へと向かった
「行ってらっしゃい」
そう言って手を振ると2人も手を振りかえして「行って来ます!」とまた元気よく言って外の世界へと足を踏み出した
ドアが閉まったと同時に階段を降りる音がして振り向くと後の2人も眠そうに玄関へと向かって来た
靴を履いて「行ってきまぁす」と気だるげな声に苦笑をしつつ「行ってらっしゃい」と見送る
手を振って、ドアが閉まる
「………………」
まるで電池が切れた様に、瞳から光が消えた
ふと玄関に置かれている鏡に映る自分を見るとさっきまでの笑顔が嘘かの様に感じられる”無”の表情に思わず呆れてしまう
「………お兄ちゃん、か」
笑えてしまう
これの何処がお兄ちゃんなのだろうか
俺はみんなから嫌われている
今朝のみんなの表情を思い出す
一瞬見せる歪んだ顔
引き攣った、少し不自然な笑顔
分かってる。こんな俺は嫌われて当然なのだ
みんなが欲しているのはなーくんみたいな存在で
俺はなーくんになる事も、なれる資格もない
分かっているのに、それを認めたくない心が何処か奥底にいて、ココロが黒く滲み、歪んで、崩れていく
ただ虚しくて、苦しくて、どうしようもないこの感情が邪魔で邪魔で仕方がないのに
どうしても、捨てる事ができない
学校へ行き、授業に励み、それなりに友達と関わり、授業に励み、帰宅する
帰宅部の俺は寄り道する事もなく、ただひたすらに帰宅路を歩き、家に向かう
家に着いて部屋に鞄と外したネクタイを放り投げ、家中を掃除する
リビングにキッチン、廊下、階段、玄関、トイレ、お風呂
ひと段落したところで洗濯物を取り込み、畳んでいく
すると玄関のドアが開く音がして、足跡が近づいてくる
「ただいまぁ」
入って来たのはころちゃんで時間を見るとまだ普段ころちゃんが返ってくる時間より3時間は早かった
「早かったね。今日は部活ないの?」
「うん。今日はね、早く帰れたの」
可愛らしい口調で喋るころちゃんは俺の隣に座ると洗濯ものに手を伸ばした
「大丈夫だよ。ころちゃん、課題あるんじゃないの?」
「ぇ……あー…うん、そうだったわ」
ころちゃんとさとみが通っている高校は進学校なこともあり、毎日必ず課題が出されると聞いた
立ち上がったころちゃんは何処か悲しそうな表情を浮かべ、唇を噛んで不貞腐れた様に鞄を持ってリビングを出て行った
これは俺の仕事だから、ころちゃんがやる必要はない
てか、やられたら困るのはこっちだ
これすら奪われたら俺は、本当に何もできない兄になってしまう
それだけは絶対にあってはならない
そう、絶対に
俺が、俺でいられる様に
洗濯を畳むのを終え、各部屋に持っていく
買い物に行く事を勉強をしているころちゃんに告げ、家を出た
その日の仕事を終わらせ、気がつけば深夜の1時を超えていた
目の前には広げられた課題
あと何が残ってるっけ、と机の隅に置かれた付箋を手に取り、後ろのソファーに寄りかかる
数学のテキストと、古文の翻訳、あと英語の長文解読、か…
英語は15分で終わらせるとして、古文は…35分あればいけるか
問題は数学
俺は文系は得意なのだが、理数となると目が回り頭がパンクしそうになるのだ
そんな事を考えながら英語を解読していく
予定より早く終わり、古文へ移る
こんな今習ったって意味もねぇもんをどうしろってんだよ、と心の中で文句を言いながら翻訳をしていく
それも終わり時間を確認すると1時50分で、数学に目を向ける
先ほどとは打って変わってスラスラと進んでいたペンがいきなり泥沼にハマったかの様に遅くなる
動画を見たり教科書を見たりして1問1問答えていく
やっと終えたと思った時にはもう3時を越えようとしていた
カーテンの隙間から刺す光に目を覚まし、体を起こす
あぁ、寝てしまった…しかもリビングの床で
いつの間にか掛けられていた毛布に首を傾げながらそれを畳んで、広げっぱなしだった課題たちを片付ける
立ち上がって毛布を片しながらお弁当を作る為、キッチンへと足を運んだ
グゥ、という腹の音に昨日を思い出す
そういえば昨日は何も食べていなかったな
適当に棚からトーストを一枚出してトースターに入れる
その間に冷蔵庫を漁り、今日の食材を出した
さぁ始めようとした時チン、と機械の音がして首を傾げる
「………あぁ、そっか」
俺は本当に食に興味がないらしい
こんな短時間でトーストを焼いている事を忘れるとは
トースターからトーストを取り、口に含む
サクっという音がしていい香りが広がる
ただ、何も味はしなかった
もう慣れたものだ、と急いで食べ終え、手を洗って再び料理を再開した
おかずを作り、あとはお弁当に詰めるだけという所で微かに足音が聞こえた
「______…るぅちゃん?」
「…おはよぅございます…莉犬にぃ」
眠そうに手を擦りながら姿を現したのはるぅとくんで、おぼつかない動きでこっちに来るるぅとくんを不思議に思った
「どうしたの?るぅとくん」
「お弁当…作らないと」
____…え、?
「莉犬にぃ?」
突然の事に、どうやら声に出してしまったらしい
キョトンとした表情で見上げてくるるぅとくんに目の前が黒く染まっていく
「……あぁ、大丈夫だよるぅとくん」
「いや、いつも莉犬にぃに作ってもらうのは…っ!?」
ガッ、と勢いよくるぅとくんの肩を掴んだ
「本当に大丈夫だから」
「いい?るぅと。これは俺の仕事なの」
「るぅとがやる事じゃない」
ダメなんだよ
るぅとくんなんかがこんな事をするのは
「それにるぅとくん今日生徒総会あるんでしょ?まだ寝てな」
軽く頭を撫でて、るぅとくんから視線を逸らす
るぅとくんは走り去る様にリビングから居なくなった
どうして、邪魔ばかりするのだろうか
昨日といい、今日といい
どうして俺の仕事を奪おうとするのだろうか
あぁ、どいつもこいつも
「……………ハ、ハハ…」
本当に
「アッハハハハッ………」
憎たらしくて
「……………ハァ…」
こんな事を考えている俺が
1番、気色悪くて、仕方がない
棚に寄りかかり、一点を見つめる
「………なんか、もう………いいや」
「あ、おはよう。さとみ」
ドクン、と心臓が動く
「朝ごはんもうすぐ出来るよ」
なんだこれは
「てか今日は珍しいね、早く起きて」
兄の声が遠ざかっていく
「ん、さとみ?どうかした?」
なんで
「____…なんだよ、その顔」
「____…え?」
ガッと肩を掴み、目を見るがその目は合っているはずなのに俺を見ていなかった
「なんだその顔はって言ってんだよ」
完璧な
「なんの話?」
気色悪い程完璧な笑顔
「その顔を…っ俺に向けるな」
唸る様な、初めて出した低い声
「…何言ってるの?ご飯出来るから顔洗ってきな?寝ぼけてるんじゃない?」
とぼけるなよ
その顔を
その笑顔を、俺に向けるな
あぁ、吐き気がする
何故こう……なにもかも上手くいかないのだろうか
「何があったんだよ…なぁ…っ」
「何で…それを俺にまで向けんだよ…!」
縋る様に、頭を兄の胸に押し当てる
頼むよ…頭を撫でてくれ…
そうしたら、きっと…まだお前を救えるから…
「……………」
「邪魔だよ、さとみくん」
目の前が真っ暗になった
頭をバッドで思いっきり殴られた感覚だ
顔を上げるとそこには笑顔の兄が立っていて
とてつもない吐き気に襲われる
「なんで…?…っ何でだよ!頼むからそれを俺に見せないでくれ……なぁっ…莉犬…」
もう、限界だ
「兄ちゃん…何がダメだった…?何が悪かった…?言ってくれれば全部直すよ…ねぇ、何が兄ちゃんをそんなにさせたの…俺たちの所為…?」
「兄ちゃんが望むなら俺は何もかも捨てれるよ」
「お願いだから…”兄ちゃん”に戻って…っ」
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