テラーノベル
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行為を始める前
竜牙さんは必ず、まるでお決まりの儀式であるかのようにそう言って部屋を真っ暗にする。
最初は、大人の男らしいムード作りか
あるいは俺に恥ずかしい思いをさせないための気遣いなんだろうと思っていた。
でも、五ヶ月も付き合っていれば流れる空気で分かる。
違う、そうじゃない。
竜牙さんは明らかに、自分の体を“俺に見られること”を、意図的に、徹底的に避けているのだ。
遮光カーテンのせいで一寸先も見えない暗闇の中でも竜牙さんは優しくて
いつも通り完璧なスパダリだ。
それに、言葉の代わりに吸い付くような深いキスをたくさんくれる。
だけど。
どこか、限界まで何かを我慢しているような気配が伝わってくるのだ。
漏れそうになる声とか。
必死で耐えているような表情とか。
それらをすべて、暗闇に紛れ込ませて、俺から必死に隠しているみたいで。
「……暗くて何も見えない。もっと、竜牙さんの顔見たいのに」
「見えてるだろ」
「バカ言わないでよ、真っ暗じゃん。もっとちゃんと見たい」
「これくらいの方が、雰囲気あっていいだろ」
「そういう問題じゃないってば!」
どれだけ俺が食い下がっても
竜牙さんは困ったように苦笑するだけで、絶対に首を縦に振ってはくれなかった。
それが最近、どうしようもなく寂しかった。
自分ばっかりが竜牙さんのすべてを求めて、はしゃいで、剥き出しの感情をぶつけているみたいで。
竜牙さんの方は、俺に対してどこか一線を引いて
綺麗な部分、完璧な恋人としての部分だけを見せようとしているみたいで。
「ねえ……竜牙さんってさ」
「ん?」
「本当に、俺のこと好き?」
「は?」
その問いに対してだけは、遮るような即答だった。
暗闇の中でも、竜牙さんが目を見開いたのが気配で分かった。
「好きに決まってるだろ。なんで今更そんなこと聞くんだよ」
「じゃあ、なんでそんなに自分のことを隠すの? お風呂も、着替えも、夜だって……」
口をついて出た言葉に、竜牙さんが息を呑んで固まる。
「俺は、竜牙さんの恋人なんだよ?もっと竜牙さんのいろんなところを知りたいし、見たいのに……」
「……」
「なんかさ……ずっと、一枚厚い壁がある感じがするんだよ。完璧な彼氏の仮面を被られてるみたいで、寂しい」
重苦しい沈黙が、二人の間に流れる。
竜牙さんはしばらくの間
何かを言いかけるように唇を動かしたけれど、結局は視線をふいっと斜め下に逸らした。
「…考えすぎだ。……ほら、もう遅いから寝よう」
また、それだ。
またそうやって、大人の余裕で、優しい言葉で、俺の核心をはぐらかして誤魔化す。
俺は繋がれていた手をそっと解き、小さく息を吐いた。
「……もういい。おやすみ」
拗ねたように背を向けてベッドに潜り込むと
背後で竜牙さんが「あ……」と少し焦ったような声を漏らした。
抱きしめて引き留めてくれるかもしれない、と微かな期待を抱いたけれど───
結局、竜牙さんがそれ以上、何かを言葉にすることはなかった。
その夜
背中越しに伝わってくる、隣で眠る竜牙さんの大きな体温を感じながら
俺は暗闇の中でぼんやりと天井を見つめていた。
この人は、絶対に俺に何かを隠している。
決して見せようとしない、触れさせようとしない、頑なな秘密がある。
それが、一体どんな秘密なのか。
この時の俺は、まだ、何も知らなかった。
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#ざまぁ