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「エミリー! 来てくれたのですねっ」
「お嬢様! ご無事で……本当に、良かったです!」
このメイド服のお姉さんは、カリーヌの侍女らしい。沙織見ると深々とお辞儀をした。
「サオリ様ですね? ステファン様からお聞きいたしました。お嬢様を助けていただき、本当にありがとうございます」
「いえいえ、助けたと言うほどでは……」
「それで、あの……。ステファン様に言われましたお召し物を、こちらにご用意したのですが。今のお召し物では、外へ出られないでしょうからと」
(あ……。さっきのステファンの反応は、これだったか。もしかして、ここでは下着扱いなのかも?)
「ありがとうございます! 着替えさせていただきます!」
「では、私が」と、メイドのエミリーは手際良く、派手ではない淡い色合いのドレスを着せてくれた。
着替えが終わると、髪も編み込んでハーフアップにしてくれる。窓に映る姿は、先程とは別人だった。これなら、宮殿内を彷徨いても大丈夫そうだ。
「お美しいですね。先程、ステファン様からお聞きした方とは思えません」
(ステファンよ……お前は何とエミリーに説明したんだ?)
「そうでしょう、エミリー! サオリ様は素敵でしょ!」
褒められたことを、カリーヌは自分の事のように喜んでくれた。
(本当に良い人だ、カリーヌは)
「では、ステファン様をお呼びします」
エミリーは扉を開け、ステファンを呼び入れた。ステファンは中に入ると、なぜかキョロキョロしている。目が合うと、先程の姿を思い出したのか頬を染め、カリーヌの方を向いた。
「あの、カリーヌ嬢……サオリ様はどちらへ? こちらの方は?」
「「…えっ?」」
カリーヌとエミリーは、驚いた顔でステファンを見る。
「私、沙織ですが? ……ステファン様、その目は節穴ですか?」
――ポカン。
「えええぇっ!? サオリ様ですか??」
(サウナスーツ姿、そんなにヤバかったのか?)
もうアレでジョギングはやめようと、心の中で誓い、気を取り直して話題を変える。
「それでっ! カリーヌ様の状況と、王太子とスフィアはどうなりましたか?」
「あっ」と思い出したかのように、ステファンは説明を始めた。
カリーヌについては、スフィアの証言を王太子が鵜呑みにしていただけの為、決定的な証拠は出なかった。物的証拠も簡単に偽造可能だったので、それも不可となったそうだ。
そして、スフィアとアレクサンドルのイチャイチャぶりは学園でも有名で、匿名で証言した者も出てきているとか。国王と、まだ王太子のアレクサンドルと、どちらにしっぽを振った方が賢明かは一目瞭然なのだから。
スフィアが渡していたお菓子については、今日も持っていたそうだ。没収し調べた結果、やはり媚薬が検出された。詳しい成分については、まだ調べている最中らしい。
いったい何人に渡していたのか。その辺も、徹底的に調べる事になったそうだ。取り敢えずアレクサンドルは、薬の効力が抜けるまで軟禁されるらしい。
「では、スフィアが捕らえられて、カリーヌ様は無罪という事ですね?」
「はい! 見事にそうなりました!」
ホッとした。カリーヌやエミリーも嬉しそうだ。
「ただ……あの場に現れたサオリ様が、何処かの高貴な方の影ではないかと、すっかり噂に……。急に消えたので、カリーヌ嬢が他国へ連れ去られたのではないかと、皆が心配しています」
「えっ、えぇ!? 私、誘拐犯ってこと!?」
「で、ですが、カリーヌ嬢が戻れば問題ないはずです! 今のサオリ様と、あの黒い格好の人物が同じ人間だとは、誰も気が付きませんからっ」
「…………」
私の無言の反応を見て、エミリーが助け舟を出す。
「宮殿の前に、馬車をご用意しております。急いで公爵邸へ戻りましょう」
誰かと違い、準備に余念が無いエミリーはさすがだ。
「そうですね。お父様に無事を報告して、早急に国王陛下へ連絡していただきましょう!」
カリーヌの父親ガブリエル・アーレンハイムは、公爵の中でも血筋も政治的にも力を持つ、トップクラスの存在だそうだ。今回の件は、王太子の突然の暴走だったが故に、カリーヌを守る事が出来なかったらしい。
エミリーは騒動後に、この宮殿へカリーヌの弟ミシェルと共にやって来たそうだ。カリーヌが消えたと知らせを受けたガブリエルが、直ぐに状況を確かめる為に来させたらしい。
ミシェルはステファンからカリーヌの無事を聞き、エミリーとステファンにカリーヌを任せた。
そして、ガブリエルから言われた事を確かめる為、まだ王宮内を探っているのだそうだ。
(ミシェル……その名前も聞き覚えがある。ヒロインの攻略対象だったかも)
例のお菓子を食べてないか不安になってくる。馬車の中で、カリーヌにミシェルがスフィアのお菓子を貰っていないか尋ねた。
「どうかしら? 心配だわ……」
心配そうなカリーヌの代わりに、エミリーがキッパリ答える。
「ミシェル様は、絶対に受け取りませんし、食べないと思われます」
「……絶対?」
何故言い切れるのかと首を傾げる。
「サオリ様も、ミシェル様にお会いすれば理解できます」
エミリーは、含みのある笑みを浮かべた。
(意味ありげ……なんだろう?)
ミシェルがどんなキャラだったかは、スチルでしか見たことないから分からない。うーん……と考えていたら、ふと気がつく。ステファンて魔導師キャラは――知らないと。
(まぁ、ヒロインの攻略対象外ってことなら)
モブかもしれないと納得してみる。けれど、中身はどうであれ、あの顔立ちだ。少し引っかかった。
そして――。
いつの間にか馬車は、アーレンハイム公爵邸の敷地へと入っていた。大きな門をくぐった先には、美しい薔薇が咲き誇る庭園に、噴水まである。公爵って地位は、やはり凄かったのだと改めて思う。
(先に宮殿見てなきゃ、お城って言われても信じちゃうわよ、こりゃ……)
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