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目の前には、整えられた髭が印象的な人物。正にダンディーーそんな言葉がぴったりの風貌をした紳士が座っていた。
ガブリエル・アーレンハイム公爵、カリーヌの父親だ。一見髭に誤魔化されそうだが、かなり綺麗な顔立ちをしている。
(まだ30代だろうか? お髭剃ったら、もしかして童顔? 年齢より若く見えそうだわ。うーん……髭……髭……髭が、無かったら? あっ!)
ガブリエルはヒロインの攻略対象だ。スチルでは髭が無かったから、すぐに気がつかなかった。奥さんは確か……お亡くなりになっている筈だ。
自分ではやったことのないゲームのストーリーを、頭の中で必死で手繰り寄せる。どうも、中学の一件から恋愛に忌避感があったせいか、友人の説明を軽く流してた。
(もっと真剣に聞いておけば良かった……)
そんな事を考えていたら、カリーヌの話を聞いたガブリエルが話しかけてきた。
「サオリ様、此度は娘のカリーヌを助けていただき、感謝しております」
年上のイケメンおじ様に『様』の敬称をつけて呼ばれると、何だか身の置き場に困ってしまう。
(私はただの高校生でしかないのに。カリーヌやステファンには大丈夫だったけど……)
「あの、公爵様……。目上の方に、『様』付けて呼ばれるのに慣れていないものでして。出来ましたら、沙織とお呼びください。言葉遣いも普通にお願いします」
困った沙織の顔を見たカリーヌは、ガブリエルと視線を交わして頷いた。
「では、サオリ。貴女には、何かお礼をしたいと考えているのだが?」
「そんな、お礼なんて……。元の世界に戻れるまで、こちらに居させていただくだけで十分です」
「ふむ。では、お礼はまた考えるとして。私から一つお願いがあるのだが」と言ったガブリエル。
沙織を見つめ、言葉を続けた。
「カリーヌと王都の学園へ、一緒に行ってはもらえぬだろうか? 部外者は入れない為、編入という形を取るか、カリーヌの侍女として行ってもらうか……。出来ればカリーヌの恩人に、フリとはいえ侍女はさせたくないのだが」
(学園に? メイド服はちょっと着てみたいけど……)
「お父様っ、サオリ様に侍女はさせられません! 慣れない世界で、他の貴族に何かされたら……。行くなら絶対、安全な生徒としてです!」
「そうだな、カリーヌの言う通りだ。では、サオリ……一時的にだが、この家の養女にならないか?」
「――へ? 養女?」
「まあ! では、私とサオリ様は姉妹になるのですねっ」
キラキラと瞳を輝かせ、手を取り喜ぶカリーヌ。沙織がきょとんとしていると、ガブリエルは養女になる必要性を話し出す。
王都の学園には、貴族か魔力のある者しか入学できない。
この世界で、平民の殆どは魔力を持たないが、稀に魔力持ちの平民が生まれる。そして、特例として学園に入学し、魔力の扱い方を学ぶことが出来るそうだ。
ただ――卒業後は、公務員として国の為に就職しないといけないらしい。要は、国が学費を払う代わりに、育てた人材は国の為に働いてもらうということだ。
そして入学するにあたり、貴族の子、魔力持ちの平民の子は、身分証明書……魔石で作られたプレートを国から授与される。プレートには、持ち主の魔力量、属性、スキル、レベル、天職等が表示されるそうだ。
(ステータスプレートってやつね。これが本来の乙女ゲームなら、愛情や好感度なんてのもありそうだわ)
「サオリ、この魔石を少し触ってみてくれ」
クリスタルトロフィーのような形をした、アメジストみたいな綺麗な色の魔石が目の前に置かれた。
指紋が付いてしまいそうだな……と、恐る恐る触ってみる。触れた瞬間、紫色がみるみる薄くなり、ゴールドに輝いた。魔石はほんのり温かい。
(……うわぁ。何これ……綺麗)
――ゴクリッ。
ガブリエルの喉が鳴った。
「……ありがとう、サオリ。君は間違いなく魔力を持っている。すぐに養子縁組し、プレートの申請を行おう」
「サオリ様、凄いですわっ! 私、感動いたしました……!」
「……はぇ?」
思わず変な声が出てしまった。
(魔力? 私が、魔力持ち……? いや、無い無い無い無い! 私、普通のJKですよ?)
「サオリ様、この魔石は持ってる魔力によって、輝きが違うんですよ! あんなに濃い金色は見た事ありません。光の魔力をお持ちなんですね!」
「……光の魔力?」
(光の魔力は確か珍しい類いのヤツで、ヒロインの持っていた力では? まさか……ヒロイン被り? うゎ、最悪っ)
強い魔力にチート能力を持っているなんて、さらには、ヒロインと同じ属性で学園に入るとか――背筋が寒くなるのを感じた。
「では、この書類にサインを」
渡された書類はちゃんと読めた。世界は違うが、言葉や文字も理解できている。
サインをしてガブリエルに渡す。
これを、宮廷内の機関で受理されると、プレート申請が出来るらしい。
(なんだか役所みたい)
そんな遣り取りが終わった頃、扉がノックされた。
「父上、よろしいでしょうか?」
澄んだ声――扉の向こうには、城から戻ったばかりのミシェルが立っていた。