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人の言葉を話す犬を目の当たりにして、驚きのあまりポカーンと開く口に手を当てる。状況を把握できてないナナの方がおかしいと言うように、人と同じように平然と話始めるわんこ。
「お客様にその態度はねぇだろ!ほら、謝罪がてら靴を舐めろや!」
そして、『お手』をするかのように、見上げながらも見下している態度で、前足を差し出すわんこ。対するナナは腰の位置に出された『お手』を強張った顔で見下す。
「犬の分際で、お客様は神さま思考のチンピラみたいな性格してんじゃないわよ!あと、あんたの靴はどこにあんのよ、裸足で歩いてるじゃない!」
この時ナナは少しばかり恐怖でわんこから一歩後ずさる。それは犬がしゃべったことによる恐怖だけではない。そして、わんこに意識が向いたことで、先ほどまでは見えなかったものが見えてくる。相手は戦闘に長けたオオカミ犬、しかも私の体と同じくらいの大きさはあるわ。でも、犬ごときに舐められるのは、私のプライドが許さないわ。そう拳を握り意気込んでいると、わんこがリードをツンツンと引っ張り始める。
「ほら行くぞ。お客様を待たせんじゃねぇよ!人間のくせに気遣いもできないのか?」
わんこが力任せにグッとリードを引く。
「犬のくせに待てが出来てない、あんたが言うんじゃないわよ!あと、なんであんたがお客様なのよ!」
馬鹿にされたことでイラっと来た私も、力強く引かれたリードを、負けじと力で引き止める。
「電車の車掌さんと同じだよ!乗車客を無事に目的地まで運ぶことでお金が貰える。てめぇも、俺を無事に家まで送り返すことでお金が貰えるだろうが!」
「だから、今すぐここで引き返そうとしてるんじゃない、終電はすぐそこなのよ!他の駅を観光したいがために、改札を通らずに移動できる範囲を無賃乗車してんじゃないわよ」
その姿はまさに本気のぶつかりあい。お互いに命を懸けて戦うかのように、リードを綱にして、苦悶の表情で綱引きを始める。でも、わんこは首をリードに締め付けられて不利なように思わる。そのことに気づきニヤリと笑う私。しかし、わんこの執念は本物で、会話における心理戦さえ譲らない。
「俺はここら辺一帯の定期券を持っているから、許せる時間の範囲内、どこまでも移動可能なんだよ!くっ……」
わんこの首をどんどん絞めつけていく首輪。呼吸を封じられて、わんこの見ている歪み始める視界。
「残念ながら車掌である私の気分が優れないから、今回は運休になってるのよ!それに、あんたの首の方の敵がそろそろ切れそうだけど?」
しかし、私はそんな状況でも勝負に対しての一切の容赦はしない。でも、可哀想になってきたから降参させようと「そろそろ負けを認めたら」というトドメの言葉を言おうとした直後。周囲の状況が視界に入っていなかった私を、豪快な笑い声が現実に引き戻す。
「キャーハハハ~~~~~」
最悪だ。クラスメイトに動画を取られていた…………。