テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
前回の事件から数日。町に出没する百々目鬼の数は、葵たちの嫌な予感通り、日に日に増えていた。
放課後、葵と正一は学校の許可を得て、町の人々の安全を守るための「巡回」を兼ね、あの奇妙な鍔の正体を探るべく町へ出ていた。
「うーん……やっぱり、町の人たちに聞いてもこの模様には見覚えがないって」
瓦斯灯が並ぶ大通りを歩きながら、葵は懐から取り出した例の鍔を見つめて溜息をついた。 その隣を歩く正一は、周囲の路地裏に鋭い視線を走らせ、妖の気配を警戒しつつ答える。
「町の人や僕たち学生が使う妖術は、身一つか、せいえい符や教科書を媒介にするものだからね。こんなに立派な鉄の鍔が必要になる『術の形』なんて、そうそうないはずだよ」
「そうなんだよね。この世界における【刀】は、妖術を何倍にも増幅させて放つ最高の触媒。厳しい修行を乗り越えて城の殿様に仕えた、特別な武士だけが持つことを許される特権なのに、どうしてあんな凶暴な妖の体内に遺されていたのかしら」
葵が首を傾げた、その時だった。
「おい、お前たち! そこで何をしている!」
威厳のある低い声が響き、二人は振り返った。 そこに立っていたのは、腰に立派な刀を差した、数人の男たちだった。彼らは今もこの町の治安維持のために「巡回」を行っている、城の武士たちだった。
「あ、巡回のご武士様。私たちは学校の者です。最近、百々目鬼の出る数が多すぎるので、様子を頼まれて……」
葵がそう言って、説明のために手に持っていた鍔を何気なく彼らに見せた。 その瞬間、武士たちのリーダー格の男が、目を見開いて息を呑んだ。
「……っ! お前、その鍔をどこで手に入れた!?」
男のただならぬ様子に、正一が瞬時に葵の前に一歩出ながら、冷静に答える。
「数日前、路地裏で赤と紫の百々目鬼を倒した際、その場に残されていたものです。何かご存知なのですか?」
武士は、わななきながら自身の腰にある刀の根元――『鍔』へと手をやった。
「一致している……。そんな馬鹿な、なぜそれが妖から……」
男が提示した自身の刀の鍔。そこには、葵が持っているものと「まったく同じ特殊な幾何学模様」が深く刻まれていた。
「これ、ご武士様たちの刀の模様と同じなんですか!?」
「そうだ……。これは我が藩の、城に仕える武士だけに授与される特別な刀の鍔だ。そして、その模様の鍔を持つ者は――」 武士は苦痛に顔を歪め、声を絞り出した。
「ここ数週間、公務の最中に行方不明になった、我が同胞たちのものだ……!」
「行方不明……? 城の武士が、何人もですか?」
正一の背中に冷たい汗が流れた。 実力者たちがこれほど姿を消し、その武士たちの「形見」が百々目鬼の体内から見つかった。その事実が意味する恐怖に思考が凍りつきそうになった瞬間――。
グオオオォォォン!!
町の空気を引き裂くような、悍ましい咆哮が響き渡った。 夕闇に包まれ始めた大通りの向こうから、これまでとは比較にならない、禍々しい紫と赤の霧が押し寄せてくる。
「また出た……! しかも、この数は何!? 十……いや、もっといるわ!」
葵が身構える。霧の奥から、無数の目が怪しく光る百々目鬼の群れが姿を現した。
「くそっ、お嬢さんも少年も下がれ! 刀の使えぬ学生の出る幕ではない!」
武士たが前に出、一斉に刀を抜く。彼らの魔力が刀に吸い込まれ、パチパチと凄まじい妖術の雷光が刃に纏わりついた。
113
661
naru
380
コメント
1件
もう第3話、一気に世界観が深まってきたね…! 町の巡回シーンから武士の登場、そして鍔の一致で消えた武士たちの謎が浮かび上がって、一気に不穏な空気になったよ。百々目鬼の群れが押し寄せるラストの描写がすごく緊迫感あって、続きが気になって仕方ない! 正一くんの冷静な動きと葵ちゃんの反応もそれぞれキャラが立ってて良いね〜。次回も楽しみにしてるよ!🔥