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「ふわあ! アック様、アック様! 雪の中に街がありますよ~!!」
騎士に囲まれながら案内されたのは、氷雪都市ヒューノストの街だった。この街はおれの故郷の手前に位置し、厳しい気候の中にありながらも地盤がしっかりしている街だ。
この街には特にリーダーというものは存在しないが、騎士団が街を守っているおかげで特に問題の起きない所でもある。
それに都市といっても街の構造は単純だ。雪山ごとにトンネルがあり、その合間に街や家々が建ち並んでいるだけの規模に過ぎない。ヒューノストは十字路の街なので迷う心配は皆無だ。
街の入り口に着くと、騎士団の一人が早速ルティに目を付け、おれたちを止める。
「イスティ。すまないが、炎に守られているドワーフ娘を何とかしてもらえないか?」
「……何か問題でも?」
ルティだけ何故なのかと思っていたが、
「君も知っての通り、この街はとても暖かい。雪に囲まれていようとも住民が寒さで凍えることなどあり得ないことだ。しかし、その炎はとても強い魔法属性。ここで強い魔法は控えてもらいたい」
目に見えなくともやはり分かられてしまうわけか。
「それなら、防寒着を用意してもらえるか?」
「もちろんすぐに手配しよう。ふ、強い魔法の怖さについて君なら理解してもらえるはずだ!」
「……さぁな」
魔石が導いた属性テレポート魔法でここに来たから仕方ないが、本当なら真っ先に故郷にたどり着きたかった。騎士団が強気な態度を取っているのも、故郷で起こったことを知っているからやりづらい。そんなおれが、今では全属性魔法を使えているのも皮肉なことだが。
「あえぇ? ほ、炎魔法のご加護はおしまいですか!?」
「まぁ、待て」
「ウニャ? シーニャにも何かあるのだ?」
「そのままじゃ寒いだろ? だから、シーニャにもルティと同じものを着てもらう」
「ウゥゥ~……」
お揃いの防寒着を着ることに、シーニャはかなり不満そうだ。不満そうではあるが騎士団から渡された防寒着を二人に手渡す。用意してくれたのは、モフモフな防寒着で狼の耳のような飾りがついている。
これをルティとシーニャに着てもらった。この時点で炎魔法は解除した。
「狼になっちゃいましたよ~! ガウウ~」
「シーニャは、虎なのだ! 狼なんかじゃないのだ!!」
「ひえええ!? お、怒っちゃ駄目ですよぉぉぉ」
全く、何をやっているんだか。
「ではこちらへ。宿を用意しています。もうすぐ日が暮れることもあって住民は家にこもっています。イスティにとっては好都合だったのでは?」
「別に気にならないな」
「ふっ……そうでしょうね。さぁ、お仲間たちもこちらへどうぞ!」
いちいち気に障ることを並べてくるが、おれは気にしていない。気にしたところで時間は戻りはしないのだから。
「アックさま。お聞きしても?」
「何だ、ミルシェ」
「ここの騎士団とはお知り合いなのです? 何故アックさまのことをイスティと?」
騎士団というよりは国そのものと言った方がいいだろうな。
「……この先におれの故郷がある。それを知っている連中だからだ。もちろん、全員じゃないけどな」
「その中でも特に親し気で偉そうな態度の騎士がいますけれど、腹立たしくありませんか?」
「あぁ、あいつは――」
ミルシェにだけは先に明かしておこう。現地に行けば嫌でも現実を目にすることにはなるが……。噂をすれば、奴の方かおれにら近付き声をかけてくる。キザな金髪の髪を隠すことなく見せ、面倒くさそうな片手剣をぶら下げながら。
「イスティ。こちらの女性は? 獣人やドワーフ娘とは違うようだが……?」
「フフフッ。あなたこそ無礼極まりないお方ですわね。あたくしはアック・イスティさまのお目付け役、ミルシェ・オリカですわ。あたしたちが慕うこの方の何を知っているのか、隠しても無駄ですわ!」
「これは失礼した。我はヒューノスト白狼《はくろう》騎士団が一人、ルーヴ・イスティと申します。以後お見知りおきを」
「――イスティ? え?」
名前ですぐ分かるのは仕方がない。
「……この男はおれの身内だった男だ。それだけだ」
「そ、そうでしたのね。これは失礼しましたわ」
「何だ、紹介してくれないのか? イスティ」
紹介するまでもなく、今となっては関係の無いただの騎士。そう思うしか無かったが、ミルシェには隠さずに話すしか無さそうだ。
「お兄様……ということで合っておりますかしら?」
「ミルシェさんの言葉通りで合っているな! しかし、そうでないとも言える。その辺のことはそこのアック・イスティにでも聞いてくれまいか? 我は警備に行かねばならない。ではまたな、イスティ」
余計なことをベラベラと言う男だ。だから嫌だったわけだが。
「えっ?」
「ミルシェにだけ先に話しておく。あの男はかつての身内だった者に過ぎない。それも故郷にいた頃までのな」
「アックさま、もしかして故郷は今……?」
「あぁ、滅亡している。この都市の先の方にある公国だ。親は既にいないが、奴とおれだけが生き残っただけの話だ」
「め、滅亡……そ、そんなことが」
まぁ、驚くよな。
「そういう意味でこれから国づくりしやすい場所ってわけだ」
「そ、そうですわね」