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ミルシェに知らせたことに関しては問題無いし、想定通りの反応だ。しかし問題は奴だ。会話の流れからして、何かしらのちょっかいを出してくることは間違いない。
「アックさま。その滅亡公国へは、素直に行くことが可能なのかしら?」
「魔物がはびこっているだろうが、行くだけなら問題は無いな。何か気になることでも?」
「……いえ、先程の男の様子が気になったものですから」
ミルシェの監視スキルは相当に鋭いな。おれのお目付け役などと言っていたが、一瞬で奴の気配に気付く辺りがさすがだ。
確かに奴の言葉には何か含みが込められている。おれがこの街に来たという時点で、すでに何らかの手を打っているのは違いないだろう。嫌な言葉をもっと並べてもおかしくなかったが、すぐに警備に行くのも妙だ。
「ふぅん……イスティさまは貴族だったなの?」
「起きていたのか、フィーサ」
「ウトウトしていたところだったけど、聞こえてきたら目が覚めてしまったなの」
「ふん、食えない小娘ですわね」
「それはお互い様だもん!」
やはりというか、フィーサとミルシェも仲が悪いようだ。だからといって憎しみ合ったりするわけでもないが。
「二人とも落ち着け。で、フィーサが言うようにおれは貴族の国の生まれだ。貴族になるつもりは無かったけどな」
「やっぱりそうだったなの! わらわを引き当てたのは必然だったなの~!」
「どういう意味だ?」
「わらわは宝剣だったなの。ガチャで引き当てるのも、きっとイスティさまには資格があったからだと思うなの」
家柄だとかそういうので出るものが決まっていた?
だとすれば、レア確定以前のガチャの結果は相手次第だったとも考えられる。だが今となってはその辺を気にしても仕方がないことだ。
「とにかく、アックさま。この街が安全かどうかはまだ何とも言えないことかと思いますわ」
「あぁ。分かっている」
事を荒立てずに行きたいところだ。
「アック~! ポカポカふわふわなのだ~!! ウニャ!」
「こっちに宿がありますよ~! 早くおいでください~!!」
二人でどこかに走って行ったかと思っていたら、宿に案内されていたらしい。ルティとシーニャは狼耳型の防寒具を身に着けて、暖かそうにしている。
「ふぅ……、アックさま参りましょう」
「そうしよう」
あの二人の様子を見るだけでため息をついてしまうのはミルシェらしいな。
「イスティさま、わらわはしばらく大人しくしているなの」
「人化しないままで?」
「はいなの! その方が多分いいと思うなの」
「……分かった」
空が白く周りは雪景色ということもあり、正確な時間は分からない。しかしあちこちの家や詰所に火が灯《とも》されているのを見れば、夜に近いと言えるだろう。
宿の入り口までたどり着くと、ルティが嬉しそうに声をかけてくる。
「えへへ、アック様! どうですか、どうですか~?」
「……何が?」
「もこもこしてて触りたくありませんかっ!」
「その耳のことか?」
「あのぅ~そのぅ……ぜひとも!!」
防寒具越しに触ったところで分かりづらそうだが、ここは素直にしておくか。おれはルティの頭に手を近づけて、そのまま耳を撫でてみた。
「これでどうだ?」
「何だか不思議な感じで、アック様の温かさを感じます~」
「よく分からないが……狼の耳も中々いいな」
おれの前に屈《かが》みながら、ルティは狼の耳を触らせ続けている。それにはミルシェも呆れて、さっさと宿に入ってしまった。
しばらくなでなでしていると、いつの間にか別の耳に変わっていることに気付く。
「フ、フニャウ~……」
「シーニャ!?」
「あれれ? えぇぇ!?」
「アック、触れるならシーニャの耳に触れていいのだ! 狼の耳なんて駄目なのだ!!」
「あ、あぁ、うん……」
寒さよりもルティへの対抗心の方が強かったらしい。それはともかく宿に入るとベッドは人数分あって、それなりに広い作りだ。それぞれで割り当てられた部屋に入って、ベッド脇の椅子に腰掛けようとした、その時だった。
「イスティさま、何か来たなの」
フィーサの言葉の直後、何の意図なのかおれの部屋に奴が訪れて来た。
「イスティ。いるか? ルーヴだ。入るぞ?」
「――何の用だ?」
「なに、他愛ないものに過ぎんさ」
嫌な予感は大体的中する。一人になるのを見計らって訪れる辺りがこの男の嫌な所だ。とはいえ、鞘にフィーサがいる時点で全くの一人では無いわけだが。
ベッドを挟んで、おれと奴とで椅子に腰掛けながら対峙する。
そして、
「イスティがここに来た目的は、故郷に行く為だろう?」
「……それがどうかしたか?」
「今さら戻ってどうするのかと思っただけだ。滅んだ国を再生でもするつもりか?」
「だったら?」
ふん、分かってるくせにそれをあえて聞くのか。
「そういうつもりがあるならば、騎士団長として見逃すわけにはいかないってことを伝えたくてな」
「――お前には関係ない。邪魔をするな!」
「邪魔はしないが、騎士としての務めは果たさせてもらう。お前には練兵場に来てもらうぞ! いいな?」
戦闘訓練という名の始末、か。