タクトとミカエルがカーネイジ・ハイドラを倒したその瞬間、リリスは背後で冷静に手をひらひらと動かしていた。その姿勢がいかにも落ち着いているのは、すでに次の手を打っているからだ。
「やっぱり、予定通りだね…」リリスはゆっくりと呟きながら、何かを召喚する準備を整えていった。
彼女の周囲に、次々と魔法陣が浮かび上がり、空気がひんやりと変わる。タクトとミカエルが警戒し始めたその時、リリスは満足げな笑みを浮かべた。
「さあ、来ておくれ…」リリスが呟くと、魔法陣が爆発的に光り、その中心から異形の悪魔が現れた。
それは、マデスを模したような存在だった。しかし、何かが違う。その姿はどこかぎこちない、不完全な模倣だった。
偽マデスが現れると同時に、タクトとミカエルの戦闘態勢がピタリと止まる。目の前に立つのは、明らかに神に近しい存在だが、その動きには明らかな不自然さが見て取れる。
「こいつが…コピー?」タクトが眉をひそめる。
ミカエルもその顔をしかめながら、「だとしても、こんな不完全なもの…倒せるだろう。」と強気な態度を崩さなかった。
だが、リリスの目が一層鋭く光る。「いや、タクト。あれはただのコピーじゃない。」リリスはにやりと笑い、手を振った。「見せてあげるよ。『コピー術式』の真の力を。」
偽マデスが手を広げると、光を放つようにその体が膨張し始める。その一部が、実験体の悪魔に注入されていく。まるで人間の体内に強大なエネルギーを流し込むような儀式が進んでいく。
その悪魔は、すぐに強大な魔力を得て、暴れ始めた。まるで神のような力を手に入れたかのように、彼は周囲の空間を歪めていった。
「今度こそ、終わりよ。」リリスは笑みを浮かべながら言う。偽マデスはその魔力を制御し、今度は自分自身をさらに強化する。
「リリス、お前…何をした…」タクトの声に少しの驚きが混じった。偽マデスの力は、確実に自分たちを上回っている。
「ただのコピーじゃない。マデスの神の力を注ぎ込んだ、進化した『悪魔』よ。」リリスは語りかける。「さあ、タクト。試してみるといい…あんたたちの力を。」
偽マデスが動き出すと同時に、空気が一変した。その力は本物の神のようで、タクトとミカエルは瞬時にそれを感じ取る。
「くっ、これは…!」タクトが剣を握りしめ、再び身構える。しかし、偽マデスの速度は予想以上に早く、その一撃はあまりにも強力だった。
ミカエルが間一髪でタクトをかばい、その攻撃を受ける。「くっ!そんなに強い…!」
「もう一歩早ければ、終わっていたぞ。」タクトは息を吐きながら言う。「だが、今度は俺たちが行く番だ!」
二人は意を決して、再び偽マデスに向かって攻撃を仕掛ける。だが、偽マデスはそのすべてを軽々とかわし、反撃を繰り出してきた。
その攻撃を受けた瞬間、タクトは膝をつく。「これは…簡単には倒せないか。」
「いや、倒さないと…」ミカエルが立ち上がり、目を燃え上がらせた。「だろう、タクト?」
タクトはその言葉を聞き、再び立ち上がる。「お前の言う通りだな。諦めるなんて選択肢はない。」剣を振るいながら、タクトの目に宿ったのは怒りの炎だ。
「さあ、始めようか。」偽マデスがその冷徹な目で二人を見つめ、手を掲げる。
その時、リリスが口を開く。「お前たちにその力で勝てるわけがない。マデスの力を手にした私に…挑むなんて、無謀よ。」
タクトとミカエルは無言で目を合わせ、決して後退しないと心に誓った。
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