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――数日後/同研究区外周廊下
任務報告を終えた帰路。
隊長の足は、無意識に研究区画の方角を選んでいた。
カ「……」
理由は不明。
ただ、あの狂気の研究者がまた問題を起こしていないか――
確認する必要があると判断しただけだ。
――そう、任務の一環。
扉前に立ち、数秒。
中から物音はない。
カ「……静かすぎるな」
警戒を強め、扉を開く。
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室内は薄暗く、 いつもの機械音も半分ほどしか稼働していない。
そして――
床に散乱した器具の中央。
白衣の男が、椅子にもたれたまま動かなかった。
カ「……博士?」
反応なし。
近づく。
呼吸はある。
だが浅い。
カ「過労か……それとも薬品暴露か」
呟きながら手を伸ばした瞬間――
がしり、と。
手首を掴まれた。
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ド「不用意だな、隊長殿」
薄く開いた仮面の奥。
愉悦を含んだ声。
ド「寝ている研究者に無防備に触れるとは」
カ「……起きていたのか」
ド「半分はな」
力は弱い。
だが離さない。
ド「珍しいな。君から私の区画へ来るとは」
カ「巡回だ」
ド「嘘だ」
ド「君はもっと合理的に動く男だ」
ゆっくり上体を起こしながら、
手首を掴んだまま距離を詰める。
ド「……私を確認しに来たんだろう?」
沈黙。
否定しない。
博士は喉で笑った。
ド「やはり興味深い」
掴んだ手首を引き寄せ、
鎧越しに脈を測るように指を当てる。
ド「心拍、わずかに上昇」
カ「離せ」
ド「嫌だと言ったら?」
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数秒の力比べ。
だが今回は――
隊長は振り払わない。
その選択に、博士の声色がわずかに低くなる。
ド「……抵抗しないのか」
カ「体調不良なら拘束の必要はない」
ド「優しいな」
ド「合理判断だ」
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博士は笑う。
そしてそのまま、
隊長の腕を引き――椅子の肘掛けへ軽く押し付けた。
力は弱い。
だが主導権は完全に向こう。
ド「なら少し付き合え」
試験灯を一つ点灯。
淡い光が二人を照らす。
ド「君は私を危険視している」
カ「事実だ」
ド「だが同時に、放置もしない」
沈黙。
博士は指先で、鎧の表面を軽く叩いた。
ド「その矛盾が面白い」
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顔を寄せる。
仮面越しでも分かるほど近い距離。
ド「君は私を止めたいのか?」
カ「……必要なら」
ド「それとも」
囁く。
ド「理解したいのか?」
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その言葉に、
初めて隊長の呼吸が揺れた。
博士はそれを逃さない。
ド「私はね、隊長殿」
手首を掴んだまま、低く続ける。
ド「君のような存在を“壊す”研究には興味がない」
カ「……」
ド「むしろ――」
指先で脈をなぞる。
ド「どこまで壊れないのかを観察したい」
数秒。
静寂。
やがて隊長は低く告げる。
カ「……好きにしろ」
博士の動きが止まった。
ド「ほう?」
カ「だが」
低く続く。
カ「越えるな」
その一言に、
博士は短く息を漏らす。
ド「安心したまえ」
手首を解放し、
代わりに胸甲へ軽く触れた。
ド「境界線の観察も研究の一部だ」
距離を離す直前。
囁きが落ちる。
ド「だからこそ――」
ド「君は長く観察したい」
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隊長が何か言う前に、
博士は白衣を翻し背を向けた。
ド「次は実験ではなく、任務同行を提案しよう」
ド「より長時間、データが取れる」
扉へ向かいながら。
ド「もちろん拒否権はある」
足を止め、横目だけで振り返る。
ド「――隊長殿?」
沈黙、数秒。
そして低く。
カ「……任務内容次第だ」
博士は笑った。
ド「交渉成立だな」
扉が閉まる。
残された廊下で、隊長は小さく息を吐く。
カ「……観察対象はこちらのはずだがな」
だがその声には、
僅かな熱が混じっていた。
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