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ベッドの四方の支柱には鎖が繋がれてあって、エイガの長い両手両足には、ビニール製のロープが巻き付けられていた。サディストの韓洋は、エイガの拘束された裸体を楽しみ、その吐息や反応する身体に快楽を求め弄んだ。
エイガは、韓との行為に慣れていた。
身体を大袈裟にくねらせて、苦悶の表情さえ浮かべていれば何ら問題は無いし、我慢さえしていれば、韓はひとりでに果ててくれるから、他の一般の客よりも楽だった。
しかし、
「…ンぁ、ダメだって…」
と、演技しながらも、韓洋の愛撫に反応する身体も忌々しく、いっそのこと切り落としてやりたいと思った時期もあった。
妹が立派に大学を卒業したら、貯めた金で性転換手術をするのがエイガの夢だった。
水々しいエイガの裸体を這いずる、ヒルのような韓洋の舌が止まる。
エイガは仰け反りながら言った。
「やめないでよ…」
韓洋は身体を起こし、エイガの唇に指をあてながら囁いた。
「今日はもっとイジメてやるよ」
韓は、エイガの口を布テープで塞いだ。
そして、笑いながらエイガの顔を撫でた。
「ドラマチックにさ、いいだろ?」
韓の言葉にエイガは頷いた。
もうしばらく耐えて、その後で色々聞き出せば良いのだ。
コトが済んだら自然な流れで、いつものようにコーヒーを飲みながら、
「東京ジェノサイドな発生した日、韓さんはどこにいたの?心配だったんだから…」
と、質問する予定でいた。
すると、頭上のテレビの電源が入って、1時間前のこの場所の光景が映し出された。
韓の鞄をあさるエイガの姿とシャワーの音が、呪文の様にエイガの脳裏に響いていた。
韓は、リモコンを手にしながら言った。
「いったい、何が知りたいのかな?残念だよ、こんなに美しいのに…布施!」
ベッドルームの扉が開くと、布施と呼ばれた長髪の男が現れた。
その手に見える注射器からは、透明な液体が漏れている。
全裸で大の字に縛られたエイガの身体は、小刻みに震えていた。
自由の効かない若い肉体を見詰めながら、韓はスーツに着替え始め、その隣の布施は、無表情のままでエイガを見下ろしていた。
エイガは頬を膨らませながら、口を覆う布テープを剥がそうと必死にもがいていた。
ーチンケなクソみたいな世界ー
そんな世の中でも、生きていたいと思った。
韓の言葉が聞こえる。
「布施!顔は傷付けるな。身体もだ!いいか。出来るだけ早く死体は見つけてもらうようにしてくれ。せめてもの礼だ。今まで彼には随分と楽しませて貰ったからな」
「はい」
韓は、顔をエイガに近付けて囁いた。
互いの鼻先が擦れるくらいの距離で、
「大丈夫。痛みは全く感じない。布施はプロフェッショナルだ。このホテルの505号室が君の終の住処って訳なんだが…布施!」
「はい」
「万全なんだろうな」
「はい」
布施は頷いた。
韓は、エイガの股間を弄りながら再び話し始めた。
「こんな時でも、君は正真正銘の男なんだな」
エイガは泣いた。
全人格を否定されたのが悔しかった。
韓洋の言葉は続く。
「君は、酒を飲んで風呂場でスマホを見ながら溺死するんだ。なに、その前に眠らせてあげるから痛くも痒くも無いよ。ちょっとチクっとするだけだ、直接動脈に麻酔を打ってあげるよ」
韓の生温かい指先が、エイガの首筋とちいさな喉仏をなぞる。
エイガの脳裏に妹の顔が浮かんだ。
「問題ないさ、世間はただの変態男が、風呂場死んだとしか受け止めないから」
韓は、笑いながらエイガの塞がれた唇を舐めまわした。
布施が近付いて、その唾液まみれになったエイガの顎をひねり、首に浮かび上がった頚動脈に注射針を突き刺した。
エイガ意識は遠のいていった。
妹と、最後に交わした言葉が思い出せないまま、意識の混濁が加速する。
「ランドに…たいな…」
妹の声が聞こえた気がした。
エイガは思った。
最期の感覚が、全身を駆け墜ちる瞬間、
「死にたくない!いやだ、まだなんにもしていないじゃないか…死にたくないよ…」
と。