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新川崎駅から降りてきた人々は、いつもと変わりなく家路へと急ぐ。東京ジェノサイドが発生してからというもの、自粛や規制で飲食店の多くが倒産し、世の中は閉塞感に包まれていた。
ホテル グランドハイアット エイジアの煌びやかな外観の装飾は、この土地の住人にしてみたら日常の風景に他ならないのだろう。
ありふれた、あたりまえの存在なのだ。
三反園は、そんなことを考えながら腕時計に目をやった。
『20:00』
エイガと別れて既に3時間が過ぎていた。
未だに連絡は無かった。
助手席のひよりは、
「危険過ぎます。乗り込みましょう!」
と、何度も提案したが、三反園はエイガの諜報員としての腕を信じ切っていた。
その時、遠くからサイレン音が聞こえて、1台の救急車がホテルの前で停車した。
反対方向からは、パトカーのサイレン音も聞こえている。
慌しくストレッチャーを降ろし始める救急隊員と、ホテルから駆けつける従業員の姿を見て、三反園は車を降りて、大通りを渡って行った。
行き交う車のクラクションが鳴り響く中、ひよりもその後に続いた。
東京特別区とは違う、日常の世界が此処には存在し人々は生きている。
ひよりは一瞬、そんな風に考えたが、
「あいあいさあ!」
と、悪戯っぽく笑っていた青年の顔が、脳裏から離れないでいた。