テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
演劇の授業が進むにつれ、クラスの期待値は最高潮に達していました。そして迎えた、待ちに待った衣装合わせの日。
藍林檎学園の演劇小道具室から用意されたのは、物語の舞台となる少し昔の時代の、清楚な白いワンピース。レースがあしらわれたその衣装を身にまとった元貴が、更衣室のカーテンをそっと開けました。
「……あの、ひろと。……変、じゃないかな?」
カーテンの隙間から、おずおずと顔を出した元貴。
白く柔らかな布地が、元貴の透明感をさらに引き立てています。少し長めの髪を耳にかけ、はにかむように微笑むその姿は、病を抱えながらも清らかに生きる少女そのものでした。
その瞬間、教室内の空気が凍りついたように静まり返りました。
「…………っ」
教壇の横で台本をチェックしていた滉斗は、持っていたシャープペンシルを床に落としました。
視線が元貴に釘付けになり、喉の奥がカッと熱くなるのを感じます。
(……は? 待て、これ……想像の100倍はやばいだろ……)
「おい、滉斗! 少年役、セリフだぞ! 『君は、今日も綺麗だね』って言うところ!」
クラスメイトの男子に肩を叩かれ、滉斗はようやく我に返りました。しかし、一度火がついた動揺は収まりません。
「……っ、き……きれ、……」
「滉斗、声震えてるぞー!」
「顔、真っ赤じゃん!」
いつもはクールで、どんな時も元貴を冷静に守る騎士の面影はどこへやら。滉斗は耳まで真っ赤に染め上げ、台本を持つ手が目に見えて震えています。元貴のあまりの可愛らしさに、脳内の語彙力が「かわいい」と「直視できない」の二文字に埋め尽くされてしまったのです。
そこに、どこから聞きつけたのか、涼架が「資料の届け物」という名目で教室を覗き込みました。
「おーっ! 元貴、最高だよ! まさに僕がイメージした通りの可憐さだねぇ」
涼架は手を叩いて大喜び。固まっている滉斗の背中をバンバンと叩きます。
「ほらほら滉斗! 主役がそんなに鼻血出しそうな顔してちゃダメだよ。もっと優しくエスコートしてあげなきゃ」
「……涼架さん、うるさい。……今は、授業中だ……」
消え入るような声で反論する滉斗でしたが、視線は結局、落ち着きなく元貴の方へと吸い寄せられてしまいます。
休み時間になり、衣装のままの元貴が滉斗のそばに寄ってきました。
「ひろと……やっぱり、変だった? ずっと顔、見てくれないから……」
不安そうに上目遣いで覗き込んでくる「ヒロイン」に、滉斗はついに限界を迎え、顔を両手で覆い隠しました。
「……変じゃない。……逆。可愛すぎて、授業どころじゃないんだよ、バカ……」
「えへへ、よかった」
元貴が嬉しそうに笑うと、滉斗は心の中で(本番まで俺の心臓がもたない……)と、切実な悲鳴を上げるのでした。
NEXTコメント×2
コメント
2件
いつも読ませてもらってます!大好きですこのお話!