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いよいよ迎えた、国語の演劇授業の最終日。
2年A組の教室でひっそりと行われるはずだった発表会は、なぜか「表現力の交流」という名目のもと、高等部の多目的ホールで行われることになってしまいました。
目の前には、涼架をはじめとする体格も大人びた高等部の先輩たちがズラリ。
「元貴、可愛い!」「滉斗、決まってるねー!」という冷やかし混じりの歓声が飛び交う中、二人は舞台の中央に立ちました。
幕が上がると、それまでの喧騒が嘘のように静まり返りました。
白いワンピースに身を包んだ元貴が、病弱な少女として椅子に座っています。その隣には、彼の手を握り、鋭い視線で周囲を拒絶するように立つ滉斗。
「……ねえ、もしも私が、このまま遠いところへ行ってしまったら?」
元貴の透き通るような声がホールに響きます。聴覚過敏の彼にとって、大勢の視線と静寂は本来、恐怖の対象。けれど、握りしめられた滉斗の手の温もりが、彼をこの世界に繋ぎ止めていました。
台本では、ここで少年が「そんなこと言うな」と一言返すだけのはずでした。
しかし、元貴のあまりに儚げな表情を間近で見た滉斗の心に、台本を超えた感情が溢れ出します。
「……どこへも行かせない」
滉斗は台本にない動きで、元貴の前に膝をつきました。そして、元貴の両手を包み込み、そのまま額を元貴の手の甲に押し当てたのです。
「お前がどこへ行こうとしても、俺が何度でも見つけ出して連れ戻す。……神様が許さなくても、俺がお前を離さない。……ずっと、俺の隣にいろ」
熱のこもった、魂を削るようなセリフ。客席の女子生徒からは短い悲鳴が上がり、男子生徒たちもその迫力に息を呑みました。
驚いたのは元貴も同じでしたが、彼は微塵も動じませんでした。
滉斗の瞳に宿る本物の熱を感じ取り、元貴はふわりと微笑んで、空いた方の手で滉斗の頬を優しく撫でました。
「……ふふ。ひろとがそう言ってくれるなら、私、どこにも行けないね」
役名の「少年」ではなく、思わず「ひろと」と呼んでしまった元貴。
けれど、それがかえって二人の「真実の絆」を強調し、物語に圧倒的な説得力を与えました。
演劇が終わった瞬間、ホールは割れんばかりの拍手に包まれました。
「最高だったよぉぉぉ!!」
最前列で誰よりも激しく拍手を送り、ハンカチで目元を拭っていたのは涼架でした。
「あのアドリブ、何!? 二人の愛が溢れすぎてて、お兄ちゃんもう胸がいっぱいだよ! 録画したかったぁ!」
幕が降りた後、舞台袖でようやく安堵の息をついた二人。
「……ひろと、あのアドリブびっくりしたよ」
「……悪い。……なんか、お前を見てたら、言わなきゃいけない気がして」
衣装のまま、まだ熱の冷めない顔で笑い合う二人。
中等部2年生の彼らにとって、この演劇はただの授業ではなく、お互いの「かけがえのなさ」を全校生徒の前で証明する、大切な儀式となったのでした。
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