テラーノベル
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その優しい夫婦から、子が失われた。
ニュースにも乗るような、凄惨で不遇の事故によって。
夫婦は絶望の中で、亡骸を見送った。
もう二度と、決して癒えることのない悲しみを背負って。
現場には人々によって、せめてもの慰めにと、花束が積まれていった。
その場限りではない、それぞれの悲哀を込めて。
――せめて、天国に行けますように。
――ご遺族が、いつか報われますように。
――叶うなら、悲しみに呑まれてしまわないように。
しばらくして、夫婦は夢を見るようになった。
失われた子どもの夢を。
元気な姿で、屈託なく微笑みかけてくれる夢を。
最も悔やんでいるだろう我が子が、幸せそうに微笑む夢を。
それはまるで、元気な姿を見せているように思えた。
それはまるで、幸せの中にいる様に思えた。
それはまるで、夢ではないように思えた。
ただそれだけの夢。
でも――。
夫婦は常に、共にその夢を見る。
それには、意味があるのだと思えた。
「会いたい」
その願いは、遠く叶わないけれど。
夢の中の我が子は、とても幸せそうに微笑んでいる。
いつの夢も。
夫婦どちらの夢も。
いつも、いつも。
それは屈託のない、心からの微笑みだった。
「会いたい」
――その願いは、今は叶わないけれど。
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