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天井の歪んだ配管から、不規則に、しかし確実に、温かい水が噴き出していた。
ルナティックたちを退け、命からがら逃げ込んだのは、旧時代のオフィスビルの地下にある、フィットネスクラブの残骸だった。
数ヶ月に及ぶ荒野の逃避行で、彼らの五感は完全に麻痺しかけていた。
しかし、奇跡的に生き残っていた自家発電機と大型給水タンクの駆動音が、この場所が「天国」であることを告げていた。
「嘘だろ……。本当に水が出る。それも、凍りつきそうな泥水じゃない、本物の温水だ」
エリオットはアサルトライフルを脱衣所のベンチに置き、信じられないといった様子で、曇ったガラス扉の向こうを見つめた。
いつもならどんな過酷な戦場でも絶やさない彼の「ビジネススマイル」も、今はその仮面を外し、ただ一人の疲れ果てた青年の顔に戻っている。
彼の長い金髪は、ゾンビの返り血と硝煙の煤で黒ずみ、束になって細い肩に張り付いていた。
「……ぐずぐずるな、エリオット。機械の息があるうちに、その汚れをすべて削ぎ落とせ」
ピザガイが、ショットガンを壁に立てかける。
「ルナティックの体液が肌に沈着すれば、それだけで細胞が壊死する」
2人が服のまま足を踏み入れたシャワールームは、一人用の、あまりにも狭いタイルの檻だった。
ザァァァァァッッ!!!
天井のシャワーヘッドから温水が、2人に一気に叩きつけられる。
強烈な湯気と共に、こびりついていた地獄の残滓——硝煙の苦さ、凝固した古い血の臭いが、一気に洗い流されて床の排水溝へと吸い込まれていった。
水を含んだ赤いシャツが、エリオットの細く引き締まった肉体へと張り付いていく。
はだけた襟元から覗く白皙の鎖骨、そして水分を吸って濃い金色の紐と化した髪が、彼の輪郭を浮かび上がらせていた。
ピザガイのサイズ違いのシャツを着ていた時とは違う、自分自身の身体の線が剥き出しになるその瞬間。
ピザガイは無言のまま、エリオットの正面に立ちはだかった。
大柄な岩のような肉体が、シャワーの狭い空間のほとんどを占有し、エリオットへの熱水を遮るようにして影を作る。
ピザガイの手が、自らの制服シャツのボタンを、引きちぎらんばかりの力で乱暴に外した。
そして、エリオットの濡れたシャツの襟元をも、大きな手のひらでガシリと掴み上げる。
「……脱げ」
「あはは……。そんなに生き急がなくても、水はまだ止まらないよ、ピザガイ」
エリオットは痺れるような、しかしどこか狂おしいほどの熱を帯びた微笑を浮かべ、自らシャツのボタンを外していった。
濡れて肌に吸い付く赤色の布地を互いに剥ぎ取り、タイルの床へと脱ぎ捨てる。
その瞬間、2人の視線が、立ち込める濃密な湯気の向こうで絡み合った。
ピザガイの黒い瞳には、ルナティックの核を狙う時よりも鋭く、剥き出しになった「飢え」が宿っていた。
衣服という最後の防壁を失ったエリオットの胸元や、冷たい水に晒されてかすかに粟立つ脇腹のラインを、男の視線が貪るように這う。
「エリオット……お前は、本当に……」
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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ゆ(旧「ゆゆゆゆ」)
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地獄の底から響くような掠れた低音が、激しい水音に掻き消されそうになりながらも、エリオットの鼓膜を直接灼いた。
ピザガイの大きな、ザラついた両手が、エリオットの濡れた細い腰をガシリと掴む。
その指先から伝わってくるのは、天井から降り注ぐ熱水よりも遥かに高温の、男自身の圧倒的な体温だった。
「いいよ、ピザガイ。……僕の名前を呼んで、もっと、壊れるくらい強く」
エリオットは上目遣いに男を見つめ、青い瞳にドロドロとした深い執着を灯しながら、ピザガイの太い首筋に両腕を回した。
濡れた金髪が、ピザガイの無骨な銀髪と複雑に絡み合い、2人の境界線を完全に消失させていく。
壁を叩く激しい水音。
その圧倒的なノイズの真っ只中で、2人は互いの名前を、狂ったように呼び合い、その唇を乱暴に重ね合わせた。
「ピザガイ……っ、ん、うあ……!」
「エリオット……!」
単なる愛撫ではない。
それは、今日まで生き残ることができたという奇跡を、そして互いの肉体がまだ冷たい死体(ゾンビ)に変わっていないという絶対的な現実を確かめ合う、狂気の世界の儀式だった。
ピザガイの不器用で、しかし暴力的なまでのホールドが、エリオットの身体を冷たいタイルの壁へと激しく押し付ける。
背中に走る鈍い衝撃と、正面から押し潰してくる男の強固な胸板の質量。
首筋を伝うのが、天井からの温水なのか、それとも互いの目元から溢れた熱い雫なのか、もう判別すらつかなかった。
ただ、ピザガイの大きな手がエリオットの金の髪を指に絡め、その頭部を固定して、さらに深く口づけを交わし続ける。
タイルの壁を伝う熱水は、2人の熱によって一瞬で蒸発し、狭いシャワールームは完全に視界を奪うほどの白い霧で満たされていった。
「あ……、ガ、……ピザガイ……ッ!」
エリオットの口から漏れる声は、もはや生存者の街で振りまく軽薄な愛嬌の破片すら残っていない。
ただただ、己の肉体を限界まで蹂躙してくる巨大な質量への、狂おしいほどの歓喜と追従の悲鳴だった。
背中の冷たいタイルと、正面から押し潰してくるピザガイの硬い胸板の熱。
その極端な温度差が、エリオットの脳髄をドロドロとした快楽の渦へと叩き落としていく。
ピザガイの大きな、ザラついた手のひらは、エリオットの濡れた細い腰をガシリと掴んだまま、肉を抉らんばかりの強固な力で自分の方へと引き寄せていた。
特殊部隊の重火器兵として、かつて数多の命を奪ってきたその「壊すための手」が、今はエリオットという唯一のトッピングを、この世界のあらゆる脅威から隠匿し、独占するためだけにその怪力を振るっている。
激しい水音がタイルの床で反響し、2人の境界線を曖昧に融かしていく。
ピザガイの荒い呼吸が、エリオットの濡れた首筋へ、ダイレクトに熱風となって吹き付けられた。
銀髪から滴る水滴がエリオットの鎖骨を伝い、赤く腫れ上がった胸元へと落ちていく。
男の黒い瞳は、湯気の向こうで獣のようになおも飢えており、目の前で呼吸を乱し、自分にすべてを委ねている金の髪の恋人を、世界の終わりごと呑み込もうとするかのように見つめていた。
「エリオット……、俺を、見るなと言ったはずだ」
地鳴りのような低く掠れた声が、エリオットの鼓膜の奥深くまで侵入する。
「見てるよ、ピザガイ……。君以外に、僕が誰を見るっていうのさ……あははっ」
エリオットは上気した顔で、長い金髪を首筋に張り付かせながら、狂おしいほど甘美な微笑を浮かべた。
青い瞳には、恐怖を遥かに凌駕した深い愛着と執着が満ちている。
エリオットは細い腕を伸ばし、ピザガイの分厚い首筋に爪を立てるようにしてしがみついた。
男の背中に刻まれた無数の古い傷痕が、濡れた皮膚を通じて手のひらに生々しく伝わってくる。
その傷のすべてが、かつてこの男が地獄を生き抜いてきた証であり、そして今、自分の隣で生きて鼓動を刻んでいるという、何よりの証明だった。
ピザガイはそれ以上言葉を返さなかった。
ただ、掴んだエリオットの顎を強引に上向かせると、その赤く熟れた唇を、再び乱暴に、深く、息の根を止めるほどの質量で塞いだ。
「ん、ぅあ……ッ、ん、んん……!」
それは口づけというよりも、互いの命を貪り合うための儀式だった。
天井からの熱水が2人の顔を容赦なく叩き、どちらのものか分からない吐息と水音が、激しく交わされる。
ピザガイの大きな手がエリオットの髪の中に深く指を潜り込ませ、逃げ場を完全に奪う。
エリオットはただ、その不器用で、しかし圧倒的な愛の重さに押し流されながら、男の肉体に必死にしがみつき続けた。
外の世界では、自家発電機の鈍い駆動音の向こうで、まだゾンビたちの飢えたうめき声が、死んだ街の風に乗って這い回っているかもしれない。
明日になれば、また錆びついたデリバリー・カーに乗り込み、硝煙と泥にまみれた戦場へ戻らなければならない。
けれど、この白い湯気と激しい水音に支配された狭いタイルの檻の中だけは、外の地獄から完全に隔離された、2人だけの冷めない聖域だった。
やがて、極限まで高まった熱量がシャワールームのなかで静かに弾け、2人の荒い息遣いだけが、タイルの壁に反響して残った。
ピザガイはエリオットの細い身体を、まるで自分の肉体の一部として同化させるかのように、しばらくの間、無言のまま強く、強く抱きしめ続けていた。
ザラついた指先が、エリオットの背中を、壊れやすい生地を確かめるようにゆっくりと愛おしそうに撫でる。
「……冷める前に、出るぞ。お前が風邪を引いたら、明日の配達(シフト)が回らん」
ぶっきらぼうに呟かれたその低音に、エリオットはピザガイの胸に顔を埋めたまま、クスクスと嬉しそうに喉を鳴らした。
「いいよ、ピザガイ。でも、もし僕が冷えちゃったら……その時はまた、君のその熱いトッピングで、僕を芯まで焦がしてよね」
エリオットは潤んだ青い瞳で男を見上げ、最高に蕩けるような微笑みを残すと、床に落ちた、水を吸って重くなった2人の赤い制服シャツをゆっくりと拾い上げるのだった。