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空くんと初めて出会ってから次の週。たまたま三人の休みが一緒になった俺たちは、久々にどこか出かけようかと朝からリビングで相談していた。
そんな最中、ふいにインターホンが鳴った。
「朝はっや。誰やねん」
優雅にお紅茶を飲んでいる可愛い洸くんの邪魔をさせるわけにもいかん。俺はすぐに振り返り、インターホンのカメラのモニターを確認した。
「うわ、画面に金髪のクッソイケメン映ってるねんけど。もしかして……空くんの中身ちゃうん?」
「空くんの中身ってなんやねん。言うならパーカーの中身やろ」
秀太がソファからぼやいた声を背に、急いで玄関のドアを開ける。
モニター越しでも凄かったが、実物を目にすると、朝の太陽を浴びて神々しい程に光り輝いたそのビジュアルに、思わず絶句した。
「あ、おはようございます。これ、お借りしていた物を返しにきたんですけど。僕、隣の蜷川……」
「知ってる! 空くんやろ!? ええっ!? もしかして、夜はあんなに黒ずくめで廊下にうずくまってんのに、朝は太陽の光浴びてそんなシャキッとイケメンになんの!? ジキルとハイド的な!? ──どうぞどうぞ、中入って! 入って!」
クリーニング店の袋に入れられたクッションと膝掛けを受け取り、俺は勢いそのままに彼の手を引いて家の中に招き入れた。
リビングで優雅にお茶をしていた秀太と洸が振り返り、大きく目を見開いたままフリーズしている。
「え……誰?」
「誰って、空くんやろ?」
「いや、弦。空くんはもうちょっと甘めの顔してたで?」
「ええ……めちゃくちゃ甘めやん? 秀太が見たん、高校生の時の空くんやろ? そりゃ二十歳超えたら垢抜けるって」
俺がガハハと笑いながら「なぁ?」と同意を求めると、その金髪イケメンは、もの凄く気まずそうな顔をして首を横に振った。
「……あの、すみません。僕、蜷川さんの所のお手伝いにきている、野中新(のなかあらた)といいます。お兄さんの陸(りく)さんが長期の海外出張なさるので、その間、空さんのお世話をさせていただく事になっていまして」
「……へ?」
「あと、これ、お礼の品です」
野中さんはそう言いながら、品のある桐箱に入った高級メロンを手渡してきた。
「うわ! 知ってるこれ、千疋屋の高級メロンや! ありがとうございます、イケメンのお兄さん!」
さっきまで呆然としていた洸が、自ら進んでメロンを受け取りにトコトコとやってくる。俺が少しお節介を焼いただけで、甘い物大好きな洸がこんなに喜んでくれて俺としても鼻が高い。
「……喜んでいただけて、よかったです」
洸の目の前で、その甘いマスクをさらに、とろ〜んと蕩けさせている野中さん。
洸の笑顔は魔性の笑顔やからな。この笑顔にやられんやつはおらん。血の繋がっている俺らだって毎日とろとろに溶かされてるんやから、初対面の男なら一撃なのも無理はないが……。
そんな野中さんの前に、秀太がスッと割って入った。さすがはブラコン長男、洸に近づく不審な気配への警戒心が鋭い。
「わざわざすみません。うちの愚息の勘違いで、家の中まで引き込んでしまって」
「おい、愚息ってなんやねん! 俺、秀太の息子になった覚えはないぞ!」
文句を言う俺をスルーして、野中さんは秀太をじっと見つめた。
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「あ……秀太さん……お兄様、だったんですね? あまりにお綺麗だったので、てっきりお姉様かと」
「え……あ、そう、かな……?」
洸に近づくイケメンを牽制するつもりやったんやろけど、少し顔を赤らめながら、秀太が秒で金髪イケメンの言葉に落ちた。
チョロすぎる。早すぎるやろ。ほんで、なんで女性に間違えられてちょっと嬉しそうにしとんねん。
「でも、残念やったな。空くんの中身が見れたと思ったのに」
少し項垂れてリビングの椅子に座ると、俺の真横に野中さんがすっと膝をついた。
「あの、この機会にお兄様達にお願いが……」
床に膝をついた彼の佇まいが、あまりにもリアル王子様のようだったので、俺は思わずうっとりして耳を寄せてしまう。
「実は空くん、大学受験の失敗からずっと心を閉ざし、引きこもられていて。陸さんからのミッションで、時間はいくらかかってもいいから空くんを外に連れ出して欲しいと言われているんです。是非、お兄様方のお力をお借りできないでしょうか?」
胸の前で両手を組み、俺たちのことをまるで神様かのように見上げて祈りを捧げる野中さん。
「……そっか。あ、俺は別にええよ。ジムトレーナーやから仕事は定時で終わる日も多いし。でも、秀太と洸は美容師で休みも少ないし、帰ってくる時間も遅いから、ちょっときついかもやで?」
あの夜の、あの暗い雰囲気にはそんな理由があったんやな。近所のよしみやし、3人でお隣さんに協力して助けてあげたいのは山々や。でも、秀太は自分の美容室のオーナーやし、洸は他の店の見習いで毎日夜遅くまで長時間拘束されてる。今日の休みだって、奇跡的に3人で合わせられた1日やったわけやし。
「……この、クッションと毛布を貸してくださったのは?」
「俺、やけど」
野中さんが俺の顔を見た瞬間、秀太がニヤリと意地悪く笑った。
「弦、ええやん。野中さんのミッション、参加してあげや。空くんの中身、見たいんやろ?」
「それに、なんかさ。弦、シンデレラみたいじゃない? 王子様の前にガラスの靴じゃなくて、クッション落としていった、みたいな」
洸が珍しくニコニコしながら、俺のことをハッピーな顔で見ている。いつもツン多めな洸にそんな風にメルヘンに可愛く持ち上げられたら、そりゃあ悪い気はせん。単純な俺のテンションは一気に跳ね上がる。
「まぁ、あの日のことも運命みたいなもんやからな! 弦くんが一肌脱ぎますか!」
「ありがとうございます! あと、僕から陸さんにお話しておきますので、リハビリの進歩に応じて、是非洸さんのお好きな高級フルーツを……」
「やった! じゃあ、俺もちょっとサポートで参加するから、イケメンのお兄さん、連絡先教えて?」
「洸くん!? 野中さんがイケメンやからって、ちょっと信用するん早すぎん!?」
洸の突然の連絡先おねだりに、秀太が必死の形相で焦り出した。それにしても、高級メロンを貰ったからとはいえ、洸がこんなに初対面の他人に懐くのは珍しい。秀太以外に、自分から進んで甘えにいくのなんて見たことないもんな。
「弦さんも、連絡先いいですか?」
野中さんが、透き通ったブラウンの目で俺をまっすぐに見つめてくる。この人、会って数分しか経ってないのに、人の懐に入るのウマすぎひんか?
「……うん、ええよ。空くん救出計画の詳細決まったら教えて」
連絡先を交換しながら、俺の頭には先週の夜、あのフリフリ毛布を指先でなでなでしていた寂しそうな黒い塊のことが浮かんでいた。
今は、自ら関わりに行ってしまったあの子の、頑なな心を救うのが先や。俺の本能が、そう叫んでた。