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「落ちる前に受け止めてよ!」
虚空に放物線を描きながら私が叫ぶと、ホオズキは親指を立てた。
「まずは初仕事、よろしく頼んだべ!」
私は、赤信号の先頭で止まっていた大型トラックの運転手の前に飛んでいった。
落下していくとき、フロントガラスごしにみえた顔は私の好きなタイプ。
インテリ系で眼鏡をかけている男性だ。
いわずもがな、ホオズキとちょっと雰囲気が似ているから好きなのだが、ホオズキと出会う前はそれがいちばん好きな男性の顔だった。
私はなつかしい顔を目にして、うふふと微笑んだ。
捨てられても懐かしさは感じるのだから血のつながりとはおかしなものである。
運転手は目玉が転げ落ちてしまいそうなほど、大きく目を見開いていた。
「うれしいわ、ガチ視え体質だったのね。クビだけでごめんあそばせ。パパ、私よ?」
地面に落っこちながらできるだけ可愛らしく言ってみたのだが、運転手は急ハンドルで私のことを避けようとした。
「あら、紳士的。私のことを轢かないように配慮してくれたのね」
右に大きく向きを変えた大型トラックは道路からそれて葬儀場に突っ込んだ。
轟音、悲鳴、爆発音。
中で談笑していた私の親戚たちが阿鼻叫喚。
大型トラックの運転手は頭から血を流している。
ホオズキは転がってけらけら笑っている私を拾い上げてくれた。
「初仕事で花火が上がるなんて、私才能あるかも! でも落ちる前に受け止めてって言ったじゃない!」
興奮して話す私の後ろでは、爆発が起きている。
「細かいことは気にすんな。初仕事でこれだけの騒ぎになったんだ。大したもんだよ」
ホオズキもうれしそうだった。
「あなたに褒められるのって最高に快感だわ」
私はあふれる笑顔を隠すことなく、ホオズキに見せた。
ホオズキは目を細めていた。
母親には笑うと怒られたけれど、彼は私が笑っても怒らない。
「これから忙しくなるぞ。なんせお前を傷つけた人間たちはみぃ~んなあの世行きだからな、それも悲惨な死に方だ」
「私に関わった人間はどうしてみんな死ぬのかしら?」
私のまわりでは昔からよく人が死んでしまう。
なくなるのはだいたいろくでもない輩だったけど。
「死神界のことわざに、偽りと裏切りは因果応報の始まりって言葉があるんだ。ホオズキをみたら人生諦めろってのもある」
「ふぅん。でも私の人生はこれからよね?」
「そうだな。自由を謳歌することは無理だが、人間だった頃よりも楽しく過ごせるはずだ」
だったらそれで十分だ。
私のセカンドライフは始まったばかりなのだから。
蛇足……
後日、あのとき微笑んだ私の顔がとても凶悪で惚れなおしたとホオズキに真顔で告白されて結婚を迫られ、彼の両親との顔合わせでひと悶着あったことはまた別のお話。