テラーノベル
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結局あれこれとハプニングに見舞われた私たちは、約束の時間ギリギリにそのさん指定の居酒屋に着いた。
飲むからということで、柳川は私のアパートにシーツを下ろしたあと、一旦車を置きに帰って。
行ったり来たりはタイムロスになるからと、そのまま車に乗せられて柳川家について行く羽目になった私は、期せずして柳川のお母様と鉢合わせしてしまった。
「まぁ! 寛道! うちに花々里ちゃんと小町ちゃん以外の女の子が来たの、初めてじゃない? もしかして……彼女?」
お母様の口ぶりから察するに、花々里さん同様、小町さんも幼馴染みかな?と思う。
嬉しそうに尋ねるお母様に、柳川が「鳴宮が怯えてんだろ。がっついてくんな」とぶっきら棒に返して。
私はペコリと頭を下げて、「初めまして。柳川くんと同じゼミの鳴宮言凛です」と自己紹介をしてから、何となく柳川の後ろに隠れる。
彼女ではないんです、と言わなきゃいけなくなりそうなのが悲しかったのと、柳川が肯定も否定もしないで居てくれたのが何となく嬉しくて。
「あっ! そう言えばクッキーくださったの、鳴宮さん?」
聞かれて、「……はい。お口に合えばいいのですが」と応えたら、
「有難うね。下の子達が大喜びしてたんだけど、お兄ちゃんったら自分が帰るまで手ぇ付けたらブン殴るって脅すもんだからしょんぼりよ〜」
クスクス笑いながらお母様が柳川を仰ぎ見て、彼に睨まれたのか「まぁ怖い! 邪魔者は退散するわね」って手を振ってお家の中に引っ込まれた。
私は柳川のムスッとした横顔をそわそわと見つめながら、2人して軒下でタクシーを待って。
鈍色の空から糸のように降り注いでくる雨を見上げながら、とりあえず柳川がクッキーを気に入ってくれたみたいで良かった、って思った。
***
「おーい、ふたりとも、こっちこっち!」
入店したと同時、障子戸を引き開けて顔を覗かせたそのさんに手招きされて、奥まった個室に近付く。
部屋前の上がり框で靴を脱いで一段高くなった室内に上がると、どうやら4人用のお部屋みたいで。
「突っ立っちょんるは落ち着かんし、2人とも早よ座りんちゃい。――あ、もちろん言凛ちゃんは俺の横ね」
そのさんにポンポン、と彼の左隣の席――位置的には奥側の壁横――を促されて、指示に従う。
付き合っている体なら当然の席順だと思いつつも、何となく落ち着かなくて。
私が座るのを見て、柳川は私とそのさんの対面、ちょうど私たちの中間になるあたりに着座した。
足元の床が掘り下げられていて、足が下ろせるようになっているのが有難い。正座とかしなきゃいけなかったらしんどかったもの。
私たちが座ってすぐ店員さんがオーダーを取りにやって来て、そのさんが「2人ともとりあえず生でええ?」と聞いてきて、私も柳川もうなずいた。
程なくお通し――山芋とオクラの酢の物――が運ばれてきて、そのさんが「なんか食べたいんある?」とメニューを差し出してきて。
最初は定番がいいよねって話になって、そのさんは軟骨のから揚げを、柳川はだし巻き玉子を、私はトマトのスライス頼んで、みんなで小皿に取り分けてシェアすることになった。
***
ビールと一緒に、私が頼んだトマトのスライスが運ばれてきて。
乾杯をしたと同時、
「――ところでさ、一緒に来たっちゅーことは……あれからずっと2人でおったん?」
何気なく。
話の流れの中で自然に聞かれたという風だったのに、そのさんがそう問いかけた途端、男性陣ふたりの間の空気が何故かピンと張り詰めた気がして、私はひとりトマトのスライスをみんなのお皿に取り分けながら、緊張する。
***
柳川が着替えに帰っている間に、私も汗でベトベトした身体をサッパリさせたくて、軽くシャワーを浴びて。
雨だし、ひらひらするスカートはやめておこう、と考える。
結局選んだのは白地に黒い小花柄のショート丈カシュクールブラウスと、細身のデニムパンツ。
足元は撥水素材のパンプスを履くことにした。
カシュクールの大きく開いた胸元は、レースのあしらわれた白のタンクトップでカバーしたから、もし料理などを取り分けたりして前屈みになっても胸元が見えたりはしないはず。
3人だから、きっと私はそのさんの隣で、柳川とは対面の席になるだろうな、と思って。
変に露出度の高い服で、柳川に悪い印象を持たれるのは避けたい。
食べている時に髪の毛が口に入るのも防ぎたかったから、サイドの髪を両側で緩く編み込んでから、ハーフアップの要領で後ろ留めに軽く束ねて、紺地のリボンがあしらわれたバレッタを飾った。
鏡の前で何度もクルクルクルクル回って、おかしくないかチェックして。
チャイムが鳴った時には、数回深呼吸をして玄関に出たくらい。
私、まるで柳川とデートにでも行くみたいにソワソワしてるなって可笑しくなった。
柳川は、白から一転、黒のプルオーバーを着てきていて。
何を着てもかっこいいな、と玄関先でときめいてしまった。
洗って水気を含んだ掛け敷きのシーツと、枕カバーを入れたランドリーバッグは思いのほか重くて、運ぶのに苦戦していたら、「貸せ」って横から手が伸びてきていとも簡単に持ち上げられてしまう。
グッと荷物を掴んだ瞬間に浮かび上がった、柳川の腕の筋肉にドキドキして、目のやり場に困って。
――柳川っ! やっぱり私、貴方ほど異性として意識してしまう対象はいないんですけどっ!
胸の中で柳川の男らしさにキュンキュンしながらドアに鍵をかけて。
コインランドリーでシーツが回っているおよそ30分間。乾燥機の扉にはロックが掛かるから、とすぐ近くの喫茶店で2人差し向かいで時間を潰すことにしたの。
やっぱり柳川はそこでもホットコーヒーのブラックを注文して。
私はコーヒーはやめて、ミルクティーを選んだ。
「――鳴宮も着替えたんだな」
コーヒーカップを口元に上げたままポツリと落とされた言葉に、私の心臓は小動物のものみたいに忙しなくビートを刻む。
「うん……。汗かいたし……」
そこでふと気になって、「変かな?」って、角砂糖を1つ、シュガートングで持ち上げながら何気ない風を装ってつぶやいたら、「いや、可愛いよ」ってサラリと言われて「ひゃー!」となってしまう。
柳川の低音ボイスが紡ぎ出す、無意識の褒め言葉のパンチ力に、思わずピクッと手元が狂った。
それと同時、湯気の燻るティーカップに、お砂糖が思いのほか上から落っこちてしまって、ポチャッと紅茶が飛び散って。
幸いさっきみたいに服には飛んでこなかったけれど、ソーサーに少しこぼしてしまった。
水羽凛
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コメント
2件
柳川くんのお母様最高(笑)
いやー、今回も胸がきゅんきゅんしたわ!柳川ママ登場からのクッキーエピソードで「手ぇ付けたらブン殴る」って柳川の兄ちゃんっぷりが垣間見えてニヤニヤしちゃった。コインランドリー後の喫茶店でサラッと「可愛いよ」って言う柳川、無自覚イケメンすぎん?そのさんの前での張り詰めた空気も気になるし、続きが待ちきれないよ🔥