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瓦礫の山を掻き分け、山城の肩に掴まりながら地上へと這い出した俺たちを待っていたのは
かつての新宿の喧騒ではなく、静まり返った廃墟の風景だった。
陥没したアスファルト、へし折れた街灯。そして、降り止まない冷たい雨。
「……終わったのか」
山城が呟く。
目の前には、公安の包囲網を内側から食い破った志摩が、ずぶ濡れの姿で立っていた。
その足元には、手錠をかけられ、泥を啜る影山の姿がある。
「終わっちゃいねえ。……だが、『100日後の更地』っていう最悪のシナリオはゴミ箱行きだ」
志摩はタバコに火をつけようとしたが、雨で湿気って火がつかない。奴はそれを苛立たしげに投げ捨てた。
「和貴、お前の脳が書き換えたコードのおかげで、組織の裏金口座が凍結された。今、政財界の『百合の狗』どもは、互いの首を絞め合ってる最中だ」
俺はふらつく足で一歩、影山の前に進み出た。
情報の濁流で焼き切れた脳が、まだズキズキと痛む。
「影山……。お前が言った『ノイズ』が、お前らのシステムを壊したんだ。どうだ、計算外の気分は」
影山は笑った。
血を吐きながら、不気味に、楽しそうに。
「……黒嵜君。君はまだ、自分たちの『宿命』を分かっていない。システムを壊したところで、芽吹いた種は止まらない」
その時
新宿のビル群に設置された巨大なデジタルサイネージが一斉にノイズを走り、復旧した。
映し出されたのは、逮捕されたはずの閣僚でも、ニュースキャスターでもない。
漆黒の背景に、白く輝く「黒い百合」の紋章。
そして、音声合成された無機質な声が、街中に響き渡る。
『新宿全域の住民に告ぐ。暫定統治期間は終了した。これより、「第2段階:共振」を開始する』
「……なんだと?」
志摩の顔から余裕が消える。
新宿の街中に、突如として奇妙な「音」が流れ始めた。
それは地底で聞いた、あの不気味な心拍音に似ているが、より高く、より鋭く、脳を直接揺さぶる周波数。
逃げ惑っていた住人たちが、一人、また一人とその場に立ち止まり、虚空を見つめる。
そして、信じがたい光景が広がった。
彼らの瞳が、あの「守護者」たちと同じように、赤く発光し始めたのだ。
「…兄貴、何ですかこれ……みんな、様子が変です!」
山城が震える手で周囲を指差す。
組織は、物理的な破壊を諦めたのではない。
生き残った人間たちそのものを、組織の「部品」へと書き換える暴挙に出たのだ。
残された時間は、あと85日。
新宿は、生きた人間が彷徨う「巨大な回路」へと変貌を遂げようとしていた。