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飛行機に乗るなんて、三年ぶりだった。
いや。
“人がいる世界”の乗り物自体が久しぶりだった。
羽田空港
蒼はターミナルの中央で立ち止まる。
人。
人。
人。
スーツケースの音。
アナウンス。
笑い声。
コーヒーの匂い。
全部が情報量多すぎて、少し頭がくらくらした。
三年間、静かな世界で生きていた体には刺激が強かった。
ニュースの影響で、周囲から視線も感じる。
「あれ……」
「もしかして」
小声。
スマホを向ける人。
蒼は帽子を深く被る。
正直、まだ慣れない。
世界中に知られている感覚。
でも今は、それより。
悠真に会うことしか頭になかった。
スマホが震える。
『今どこ?』
悠真から。
蒼は歩きながら返信する。
『空港』
数秒後。
『うわ、マジで来るんだ』
蒼は少し笑う。
『言っただろ』
搭乗口。
窓の外。
飛行機が並んでいる。
蒼はぼんやりそれを見つめる。
人が整備している。
荷物を運んでいる。
全部、“普通の世界”の景色だった。
でも。
三年間のせいで、その普通が少し遠い。
アナウンスが流れる。
搭乗開始。
蒼は列に並びながら、ふと思う。
三年前。
世界に人がいなくなった朝。
あの日、自分はこんな未来を想像できただろうか。
飛行機に乗って。
人混みの中を歩いて。
離れた場所にいる悠真へ会いに行く未来。
たぶん、無理だった。
機内。
窓側の席。
飛行機が滑走路を走る。
加速。
浮遊感。
地面が遠ざかる。
蒼は思わず窓を見る。
東京の街。
無数の光。
人がいる世界。
その景色が、少し不思議だった。
雲の上。
静かだった。
エンジン音だけ。
その静けさが、少しだけ“あの世界”に似ていた。
蒼は目を閉じる。
夜しかない街。
雪。
夕焼け。
悠真の笑い声。
三年間。
長かったはずなのに、今では夢みたいだった。
スマホを見る。
悠真から写真が届いている。
コンビニ前。
缶コーヒー。
『待ってる』
短い一言。
蒼は少し笑った。
数時間後。
飛行機が着陸する。
窓の外。
知らない街。
海。
山。
夕焼け。
アナウンスが流れる。
長崎空港
蒼は小さく息を吐く。
「……来た」
空港を出る。
少し湿った風。
知らない匂い。
遠くで車が走る音。
悠真からメッセージ。
『駅前いる』
蒼はすぐ歩き出す。
胸の奥が少しだけ落ち着かない。
三年間ずっと一緒だったのに。
数日離れただけで、妙に長く感じた。
夕方。
駅前。
人通りの中。
蒼は足を止める。
向こう側。
自販機の前。
黒いパーカー姿。
スマホを見ている少年。
悠真だった。
悠真も顔を上げる。
目が合う。
数秒。
お互い止まる。
それから。
悠真が先に笑った。
「……ほんとに来た」
蒼も少し笑う。
「来るって言っただろ」
人がいる街。
車の音。
夕焼け。
でも。
その瞬間だけは、三年前の静かな世界と繋がっている気がした。
悠真が近づいてくる。
少し照れくさそうに笑いながら。
「なんか変な感じだな」
「何が」
「人いっぱいいるのに、やっと現実感ある」
蒼は少し黙る。
それから小さく頷いた。
「……わかる」
三年間。
世界には二人しかいなかった。
でも今は違う。
周りには沢山人がいる。
なのに。
“帰ってきた”と思えたのは、今だった。