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駅前の夕焼けは、あの世界の夕方によく似ていた。
オレンジ色の空。
少し涼しい風。
違うのは、人の声があることだった。
車が通る音。
誰かの笑い声。
信号機のメロディ。
世界はちゃんと動いている。
でも蒼は、その全部より先に悠真を見ていた。
三年間、ずっと隣にいた存在。
別れてまだ数日しか経っていないのに、妙に久しぶりに感じる。
悠真も同じみたいだった。
少し笑っているのに、どこか安心した顔をしている。
「……よ」
悠真が照れくさそうに手を上げる。
蒼も小さく手を上げ返した。
「おう」
そのやり取りだけで、少し笑ってしまう。
三年間も一緒にいたのに、再会の仕方が妙に普通だった。
悠真が近づいてくる。
そして。
途中でふっと立ち止まった。
「……なんかさ」
「?」
「会えるまで、ちょっと怖かった」
蒼は黙って聞く。
悠真は夕焼けを見る。
「向こうの世界、夢だったみたいになりそうで」
人がいる街。
明るい店。
車。
普通の日常。
全部が現実すぎて。
逆に、あの静かな世界が幻だった気がしてしまった。
蒼は少し笑う。
「でもいたじゃん」
「?」
「俺も、お前も」
悠真は数秒黙る。
それから小さく笑った。
「……確かに」
風が吹く。
駅前の人混みが流れていく。
でも二人の周りだけ、少し時間がゆっくりだった。
悠真が突然言う。
「確認していい?」
「何を」
次の瞬間。
悠真が軽く蒼の肩を叩く。
ぺしっ、と小さな音。
蒼は少し驚く。
「……何してんの」
悠真は笑った。
「実在確認」
蒼も吹き出す。
「意味わかんねぇ」
「だって、電話だけだと現実感なかったし」
そう言いながら。
悠真の目は少しだけ赤かった。
たぶん、安心していた。
蒼も同じだった。
そのまま二人は駅前を歩き始める。
コンビニ。
飲食店。
自転車。
全部、人がいる。
それだけでまだ少し不思議だった。
悠真がぽつりと言う。
「静かじゃないな」
「うるさいくらい」
「前なら嫌だったかも」
蒼は少し笑う。
「今は?」
悠真は周囲を見る。
歩いていく人たち。
明るい店。
夕焼け。
そして隣の蒼。
「……悪くない」
途中、自販機で缶コーヒーを買う。
三年前、夜の屋上でよく飲んでいたやつ。
悠真が缶を見ながら笑う。
「懐かし」
「まだ売ってたな」
プシュッ、と音が鳴る。
その瞬間。
三年前の夜が少しだけ蘇る。
誰もいない街。
静かな風。
二人だけの世界。
悠真が空を見る。
「なあ」
「ん?」
「俺ら、戻ってこれたんだな」
蒼も空を見上げる。
夕焼け。
ちゃんと流れる雲。
普通の世界。
「……うん」
その返事には、色んな意味が入っていた。
世界へ戻ってきたこと。
再会できたこと。
三年間を越えて、ここに立っていること。
全部。
しばらく歩いたあと。
悠真が小さく笑う。
「でもさ」
「?」
「たぶん俺、夜の世界もちょっと好きだった」
蒼も少し笑った。
「俺も」
誰もいない雪の公園。
夕焼けの学校。
雨の屋上。
静かな夜。
あの世界は終わった。
でも。
二人の中には、ずっと残り続ける気がした。
夕焼けの街を歩きながら。
二人は、やっと本当に“再会した”気がしていた。