テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
【彼女が酔っ払ったら】
金曜の夜、会社の飲み会。
普段はお酒に強い方じゃないけど、今日はちょっと浮かれていた。
気がつけば、ビール、ワイン、カクテル……色とりどりのグラスが目の前を通り過ぎていた。
帰り道、どうしても自分の足じゃ帰れそうになくて、彼に電話をかけた。
「……りょーくん……ひま……?」
半分寝言みたいな声だったはずなのに、彼はすぐに迎えに来てくれた。
「おい、顔真っ赤じゃん。どんだけ飲んだの」
心配そうに覗き込む顔が、街灯の下でやけにきれいだった。
「……亮くん、かっこいいね……」
自分でも何を言っているのかわからない。けれど、彼は少し笑って、私の頭をポンと撫でた。
「それ、シラフのときにも言ってくれたら嬉しいんだけどな」
「……いつも思ってる……よ」
言葉がふわふわと空中に浮かんで消える。
亮くんはため息をつきながら、私の肩をそっと抱き寄せた。
「ほら、歩ける? ……無理そうだな。じゃあ、おんぶな」
あっという間に背中に乗せられて、温かい体温に包まれる。
「……亮くん、好き……」
「……知ってる」
その声は、いつもより少しだけ優しかった。
玄関を開けた瞬間、靴を脱ぐのも忘れてふらふらと中へ入ろうとする私を、亮くんがすかさず引き止めた。
「ちょっと、靴脱いで。床汚れるだろ」
「……亮くんが脱がせて〜」
「……はいはい」
苦笑しながらも、しゃがんで私の足からパンプスを脱がせてくれる。
ソファに座らされると、すぐに水の入ったグラスが差し出された。
「まずはこれ飲んで」
「えー、お酒の方がいい」
「ダメ。これ以上飲ませたら倒れるぞ」
そう言って、グラスを私の口元に持ってくれる。
水を飲み終えると、そのまま彼の膝に頭を置いて横になってしまった。
「……ねぇ、亮くん」
「ん?」
「今日ね、いっぱい飲んだの、亮くんのせいだよ」
「は? なんで俺のせい」
「だって……亮くんの顔思い出したら、酔っちゃったの」
「……それ、理屈になってないけど」
でも、彼の耳がうっすら赤くなっているのを私は見逃さなかった。
「ほら、歯磨きして寝るぞ」
「やだ〜、亮くんも一緒に」
「……子どもかよ」
そう言いながらも、結局最後まで面倒を見てくれる彼。
眠りにつく直前、額にそっと唇が触れた。
「おやすみ。明日ちゃんと覚えてろよ」
夢と現実の間で、その声だけがやけに鮮明に残った。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!