次の日の目覚めはあまり良くなかった。
頑張っていろいろ考えてはみたけれど、お菓子のコピーは残念ながら全く思いつかなかった。
いつもならもう少し頭が働いて、いくつか言葉が思いつくはずなのに……
気づけば一弥先輩のことまで考えてしまい、おまけに、もし本当に本宮さんが来たらどうしようかと、隅々まで念入りに掃除してしまった。
きっと本気ではないだろうけれど、万が一と思ったら、普段しない場所まで気になってしまった。
すごく恥ずかしいことをしている自分がバカみたいに思える。
このマンションは、割と最近できた建物だから外装もかなり綺麗だ。
オートロックで部屋は2階。
間取りはリビングとキッチン、洋室が2部屋。
1部屋は、両親や友達が泊まりに来た時のための客室にしている。
住みやすくて、とても気に入っている。
私は、リビングに座ってメイクを始めた。
いつもここでするのが決まりになっている。
厚くはないけれど、メイクをしないと外には出たくない。
スッピンなど恥ずかしくて有り得ない。
基礎化粧品は、添加物を含まない美容液、化粧水や乳液を使っている。
23歳を超えたくらいから肌には気を使いだした。
せめて、肌だけは……と。
ずっと自分の容姿に自信が無かった。
もちろん、今もそう。
私は美人ではないし、だからといって可愛いわけでもない。
普通の普通――
自分ではそう思う。
会社に入るまでは2人の男性とお付き合いした。
相手の見た目はどちらも普通……
2人とも向こうから告白してくれ、すごく好きだと言うわけではなかったけれど、デートを重ね、それなりに恋人気分を味わっていた。
自然に消滅する形で、残念ながらお別れすることにはなったけれど、当然今はもう何の未練もない。
『文映堂』という憧れの会社に入社して、喜びに満ち溢れている時、あまりにもまぶしい一弥先輩に出会い、胸がキュンとなって、一目惚れのような感覚に陥った。
自分でも初めてのことに驚いたけれど、これが人を好きになるということなのか――と、本当の恋愛というものを知った。今までの交際はいったい何だったのだろうか……と思えた。
もちろん、私みたいな女が、一弥先輩のような超イケメンを好きになるなんて、身の程知らずだともわかっていた。
だけれど、あまりにも素敵過ぎる先輩の笑顔を見るだけで、仕事を頑張れたし、つらいことがあっても、いつだって元気をもらっていた。
一弥先輩は、笑顔と優しい言葉で人を癒せる魔法使いのような人なんだ。
そんな先輩のそばにいて、常に一緒に仕事をしている時が、いつしか私の1番幸せな時間になっていた。
とにかく、私は会社に向かうため、メイクをしてから、背中まで伸びた髪を1つにまとめてアップにした。
毎日、同じ髪型だ。
ゆるくパーマがかかっているから、そんなに器用ではない私でも、とても簡単にヘアアレンジができる。
自分で言うのも変だけれど、この髪型は自分に合っていると思う。
20分くらいで支度を全部済ませ、さっと朝ごはんを食べた。だいたい、いつも食パンとヨーグルト、少しのフルーツ。
朝はできるだけゆっくり寝ていたいから、どうしても手抜きになってしまう。
ちゃんとしなければいけないと思うけれど……
全ての準備を整え、私は急いで駅に向かった。
マンションから駅までは結構近い。
電車の混雑は仕方ないから30分くらいの我慢。
降りたら、会社までは5分くらいで着く。
この距離はストレスなく行けてとても助かる。
会社から少し離れたところまで来た時、入口の大きな自動ドアのところに社長と本宮さんを見つけた。
2人の周りには、数人の役員のような人達がいる。
「本宮さん、今日はスーツなんだ……」
思わず声に出してしまった。
高級感溢れる細身のグレーのスーツ。
恐ろしいほどカッコ良くてため息が漏れる。
ドア付近を行き交う女子達も、チラッと本宮さんを見たり、2度見したり、立ち止まって見ている人までいた。
イケメンにスーツは最強過ぎる。
スタイル良しの高身長、髪型、顔も、全てが女性をドキドキさせる要素だ。
一弥先輩も、たまのスーツ姿がすごくカッコ良いけれど、本宮さんは何というか……
「史上最強」という言葉が相応しいと思えた。
あそこまで立ち姿がモデルのように美しい人が、まさか、今日からうちに泊まりに来る?
ううん、そんなはずがない。
現実的に有り得ない――
あれはやっぱり夢だったのだろうか。
夢だとしたら、少しはホッとできるのか?
夢と現実の区別もつかないほど、向こう側にいる本宮さんには、恐ろしい魅力が溢れている。
本宮さんは本当に実在しているのだろうか?
そんなバカなことまで想像してしまう自分を、思わず心配してしまう。
「きっと私、寝不足で疲れているんだ……。睡眠不足のせいで変なことを考えてしまってるだけ。私は大丈夫……大丈夫だから」
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