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閑静な住宅街の中に颯太と紬の家でもある前より少し大きめのマンションがあった。2人は、
エレベーターに乗って、移動した。
まだ引っ越したばかりで片づけは全然終わらせてない段ボールが積み上げられた部屋の中を颯太は、美羽を案内した。
想像以上に広かった。美羽はドキドキしながら中に入る。
シューズ棚が玄関に入ってすぐに取り付けられていた。長く広い廊下からリビングのドアを開けた。
紬は、ソファでくつろいでテレビ画面に映る映画をそのままに眠っていた。ふわふわのハリネズミのクッションを抱っこしていた。ニコニコと出迎えてくれるのを想像したが、引っ越しで環境が変わり、疲れがたまっていたようだ。美羽は、口角を上げて、紬の顔を見てから、大きな窓をのぞくと、都内の夜景が見えた。
地上から10階にある部屋からの景色は綺麗だった。
「……綺麗だね」
「あ。ごめん。カーテンまだ、取り付けてなくて……サイズ間違いで買ってしまったから」
颯太は引っ越しの片づけのことで頭がいっぱいでそれどころじゃなかったようだ。
足元に広がるカーテンを広げると10センチ以上短いカーテンだった。
「あー、颯太さんらしいね」
カーテンのサイズを確かめると窓が見えてしまっている。
「そ、そうかな。今、お茶入れるから。ソファ座ってて」
台所に行って、電気ポットに水を入れてスイッチを入れた。数分で沸くケトルだった。
「どうしてここに引っ越そうと思ったの? 前よりだいぶ広いよね。部屋数も多いし」
「前のところは会社で用意してくれた単身者向けのアパートだから、子どもが一緒だと引っ越さないといけない決まりだからさ。一応、次のところ決まるまでは引き延ばしてくれたんだよ」
「そうだったんだ。結構、急だったよね」
「そう、今月あたまにはこっち来たから。買い物もろくにできてない。段ボールからの荷ほどきもまだ終わってなくて……
ホテル住みみたいにキャリーバックに必要最低限のもの入れてたん…。ごめんね、散らかってて」
「ううん、大丈夫」
颯太は、紅茶を入れたマグカップをテーブルに2つ乗せた。
「紅茶飲むんだね」
「最近、紬が紅茶飲みたくなったって。テレビで出てくるアニメで紅茶好きな探偵の話で、興味出たみたい。俺も、特にこだわりなく飲める……あれ、カフェインとか気にしてた?」
「……あ、うん。ごめん。そう、カフェインレスにしてた。今、コーヒーも控えてたんだ。」
颯太は、台所に戻っては、ルイボスティーのパックを取り出して、お茶を入れなおした。
「これ、いただきものなんだけど、こういうのあるから。さっき自販機でルイボス飲んでたよね」
「うん。ありがとう。せっかく入れてくれたのにごめんなさい」
「いいよ、別に。夜、眠れないからカフェイン抜くの?」
ルイボスの入ったマグカップを持って、ゆっくり飲んだ。
「……うーん、そういうわけじゃないんだけど」
少し沈黙になると、同時に話し出す。
「あのさ」と声が重なった。
「美羽からいいよ」
「ううん。颯太さんから」
「……んじゃ、聞くんだけど、会社倒産したって美羽の勤めてたテナントビルで情報入ってさ。大丈夫だったの? 俺の話ばかりで全然、美羽のこと考えてなかったなって思って、悪かった」
「ううん、全然、私が颯太さんに考え事させるのが申し訳なくて言えなかっただけで、いいの。私がやりたくてやったことだし、紬ちゃんのことも。そこは大丈夫」
「そっか。でも、次からは美羽の気持ち言ってくれていいから。気にしないで」
「……でも、今の生活大変で、軌道に乗るまでに時間かかるなって思ってるの。個人経営してるもんだから、仕事案件もらうのもインターネットで募集してるんだけど、今までは会社におんぶにだっこだったなって実感してる。苦しいけど、やってることは楽しいから続けていきたいんだ。忍耐かな……」
「そうなんだ。会社ってありがたいよね。給料を毎月一定で払ってくれるんだもん。安定してるよ。上司とか経営者になるとさ、社員だけじゃなくて、社員の家族のことまで考えてあげないといけないからさ、本当、愛がないとやっていけないよ。経営者が損しても守って行かないと離職率が高くなっちゃうからさ。お疲れさまだよ」
颯太は、カップをおさえて、美羽と同じルイボスティーを飲んだ。
「え? 颯太さんって社長でもやってるの?」
「全然、違うよ。平社員だけどさ。社長の近くにいれば、いろんなところ見えてくるじゃない。大変だなぁって思うんだ。俺は隣でいて、上司を支える役割で間に合っているよ。到底できない。上で仕切るなんて。ほら、父親としての役割なんて
全くできてないのにできるわけがないよ」
美羽は目を大きく見開いた。
「上を仕切る? 上司を支える役割って、結構重要な役割与えられてるんだね」
「まぁ、おかげさまで、紬が来てくれたことで会社のイメージアップにつながるって言われてさ。育児休暇取得率をあげたいからよろしく頼むって、社長がさ。めっちゃ、ホワイト企業で助かったよ。前の部署でこうはいかなかった」
「そうなんだ。颯太さん、良いご縁に恵まれたんだね。良かったね」
「うん、そうだね。美羽にも会えたしね。そうだなぁ、美羽に会ってからいろいろ状況変わったから、紬も来たし。感謝してるよ。不思議なんだよなぁ。過去のこと、あまり引っ張りだしたくないけど、昔があったから、今があるんだよな。あの時からフラグが決まっていたかもしれないな」
「うん、私もそう思う」
「だろ?」
台所の冷蔵庫からビール缶を2本取り出して、美羽に渡した。無意識に受け取った。
「颯太さん、聞いてほしいことがあって……」
ビール缶のプルタブを開けて、一口飲んだ。
「ん?」
「実は……カフェイン取れない理由があってさ」
「うん」
「お腹に……」
「ん? トイレ? そっちだけど」
「違うの。そうじゃなくて……」
息を吸って思い切っていう。
「お腹に赤ちゃんいるの」
「嘘?!」
「本当」
「そんな、冗談みたいな……話。嘘、本当??」
「うん」
「え、俺の子?」
「うん」
「あれは? 拓海くんは関係ないの?」
「うん」
美羽は条件反射でうなずいた。
「マジか……。それは、顔がにやけるわ……」
ビール缶を片手にぐびぐびと飲む。美羽は、渡された缶をテーブルに置いた。
「喜んでくれてるの?」
「ああ、もちろん。でも、何かね、間違ったみたいになっちゃってるのが申し訳ないっていうか順番違うっていうか……そこは、本当ごめんなさい。でも、マジでうれしい。元気な赤ちゃん生んでください。これからもよろしくお願いします」
うれしすぎて、テンションが上がった颯太は、美羽の両手を握って、願った。カーテンがない窓から見える少し遠くでスカイツリーが青く光っていた。美羽は、反対されるのではないかと少し不安だったが、颯太のにやにやとはにかむ顔を見て、安心した。
紬は、ソファの上でずっと朝まで起きなかった。