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#胸キュン
ゆき
715
失恋したあの日から
第一話 大好きなあの人へ
四月。
桜の花びらが、校庭をゆっくりと舞っていた。
高校二年生になった俺――桐谷悠真には、ずっと好きな人がいる。
名前は、水野莉奈。
幼稚園の頃からずっと一緒だった、幼なじみだ。
家が近くて、登校するときも一緒。
昼休みにはくだらない話をして、放課後には一緒に帰る。
それが俺にとっては、当たり前の日常だった。
「悠真、早く!」
校門の前で、莉奈が手を振っている。
「今行くって」
俺は走って莉奈のところへ向かう。
「遅い」
「お前が早すぎるんだよ」
「だって、遅刻したくないし」
「去年何回遅刻した?」
「……それは言わない約束でしょ」
莉奈が笑う。
その笑顔を見るだけで、俺も自然と笑ってしまう。
――ずっと、この時間が続けばいい。
そう思っていた。
でも。
高校二年生になった頃から、俺は気づいてしまった。
莉奈と話すだけで嬉しい。
莉奈が他の男子と話していると、なんとなく嫌な気持ちになる。
莉奈が笑っていると、もっと笑わせたくなる。
そして何より――。
莉奈が好きだった。
友達としてじゃない。
幼なじみとしてでもない。
一人の女の子として。
俺は、莉奈のことが大好きだった。
その日の放課後。
俺は教室に一人で残っていた。
机の中には、一枚の小さな紙。
そこには何度も書き直した言葉がある。
『好きです』
たった四文字。
なのに、何度書いても震える。
「……情けないな、俺」
紙を握りしめる。
今日、伝える。
絶対に。
何度もそう決めた。
だけど、怖かった。
もし断られたら。
もし今までの関係が壊れたら。
今まで一緒に笑っていた時間まで、全部なくなってしまったら。
そう考えると、足が動かなくなる。
そのとき。
「悠真?」
教室の扉が開いた。
莉奈だった。
「まだ帰ってなかったんだ」
「……ああ」
「どうしたの? なんか変だよ」
「別に」
「嘘。顔、めちゃくちゃ緊張してる」
莉奈が俺の顔を覗き込む。
近い。
心臓がうるさい。
「……莉奈」
「ん?」
「今日、一緒に帰らないか?」
いつもと同じ言葉。
いつもなら何も考えずに答えてくれる。
「もちろん」
その一言に、俺は少しだけ安心した。
二人で校門を出る。
夕焼けが街を赤く染めていた。
いつもの帰り道。
何度も歩いた道。
なのに今日は、まるで別の場所みたいだった。
「ねえ、悠真」
「ん?」
「今日、なんか変だよ」
「……そうか?」
「うん。静かすぎる」
莉奈が笑う。
「いつもなら、もっとくだらないこと言ってるじゃん」
「……今日は大事な話があるんだ」
「大事な話?」
俺は立ち止まった。
莉奈も立ち止まる。
夕方の風が吹いて、桜の花びらが二人の間を通り過ぎた。
「莉奈」
「うん」
俺は拳を握った。
怖い。
逃げたい。
でも――。
今日言わなかったら、きっと一生後悔する。
「俺……ずっと、お前のことが好きだった」
莉奈の目が大きくなる。
「幼なじみだからとか、友達だからとかじゃなくて……」
声が震える。
それでも、言葉を止めなかった。
「一人の女の子として、莉奈が好きだ」
沈黙。
長い。
怖いくらいに長い。
そして。
莉奈がゆっくりと口を開いた。
「……ごめん」
その瞬間。
胸の奥が、音もなく崩れた気がした。
「私……悠真のこと、大切な幼なじみだと思ってる」
「……うん」
「だから、嫌いになったわけじゃない」
「……分かってる」
「でも……好きな人がいるの」
その言葉だけで十分だった。
俺は無理やり笑った。
「そっか」
笑えているかは分からない。
たぶん、変な顔をしていた。
「……ごめんね」
「謝るなよ」
俺は莉奈から目を逸らした。
「莉奈は悪くないだろ」
本当は泣きたかった。
本当は「誰なの?」って聞きたかった。
本当は「俺じゃ駄目なの?」って言いたかった。
でも、言えなかった。
莉奈が困った顔をするのが嫌だった。
だから笑った。
「じゃあ、帰ろうぜ」
「……うん」
二人で歩き始める。
いつもと同じ帰り道。
いつもと同じ二人。
なのに――。
もう、昨日までとは何かが違っていた。
家に着いた。
「じゃあ、また明日」
「……ああ。また明日」
莉奈が家の中へ入っていく。
俺はその姿を見送る。
ドアが閉まる。
その瞬間。
笑顔が消えた。
「……はは」
小さく笑ってみる。
でも、涙が一滴だけ頬を伝った。
「……無理だろ」
誰もいない道で、俺は呟いた。
「そんな簡単に……諦められるわけないだろ……」
何度も一緒に笑った。
何度も一緒に帰った。
何度も名前を呼んでもらった。
その全部が大切だった。
だからこそ――。
苦しかった。
俺は空を見上げる。
夕焼けは、もうほとんど消えていた。
「……大好きだったよ、莉奈」
いや。
違う。
過去形にはできない。
今だって好きだ。
明日になっても。
一週間経っても。
きっと、すぐには変わらない。
俺はポケットから、昼間書いた紙を取り出した。
そこには、震えた字で書かれている。
『大好きなあの人へ』
その下には、伝えられなかった言葉が続いていた。
俺はその紙をゆっくり折りたたむ。
そして――。
胸の中で、最後にもう一度だけ伝えた。
――大好きだ。
それが、俺の初恋が終わった日だった。
そして。
俺の高校生活が、大きく変わり始めた日でもあった。
コメント
1件
うわあああ読んだ読んだ!!😭💕 悠真くんの一途な想いが切なすぎて胸がぎゅーってなった…!幼なじみだからこそ壊したくない気持ちと、それでも伝えたい気持ちの葛藤がリアルすぎて泣ける。告白シーンの空気感とか、莉奈の「ごめん」の一瞬の静けさがもう…エモすぎて言葉にならないよ…! 最後の「大好きなあの人へ」の紙、まだ伝えきれてない思いが詰まっててズルいよ〜😢✨ つばささん、この切なさ全開の第一話、めっちゃ好きです!次が気になりすぎる!!