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121 - 第121話 七の罪状 ~後編⑨ 奥義のぶつかり合い。そして……

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2025年06月17日

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「ね、ねえルヅキ? 互角なんだよね、幸人お兄ちゃんは」



超高速域の攻防は、傍目には全く分からない。勿論、悠莉には状況が掴めていないので、戦況は琉月に頼るしかない。



「このままでは……雫さんは殺られます、確実に」



贔屓目に言っても仕方無い。琉月は有りの侭の状況を伝えた。



「えっ? そ、そんな……。じゃあ早く加勢に行かないと!」



焦った悠莉の『加勢』という進言に、琉月は躊躇した。



悠莉の護衛を頼まれた者として、それは彼への信義に反する。



しかしこのままでは遅かれ早かれ、確実に雫が敗れる事は明白。



迷っている暇は無い。だが悠莉を危険に晒す訳にもいかない。



「くっ……」



加勢に出向くか否か、その迷いを決断に固める――次の瞬間だった。



「――細々と……うぜぇ!!」



防戦一方となっていた雫。だがエンペラーが連撃の中に突きを選択した瞬間、それを待っていたかのように雫は身体を反転してかわし、そのまま遠心力を利用した回転斬りを放っていた。



「――何っ!?」



そしてそのまま、返す刀で鞘による同時追撃。



エンペラーはその一撃を、刀の軌道を強制変更する事で受け止めたが、付加された鞘の追撃による加重を吸収しきれず、そのまま大きく後方へと弾き飛ばされた。



「なっ!?」



“あの彼が弾き飛ばされた!?”



琉月も思わず出足を挫かれた。一気に状勢がひっくり返ったかに見えたから。



大きく弾き飛ばされたエンペラーだったが、刀をブレーキ代わりに地へ突き刺す事で――止まった。



「この私の予想を上回るとは……。幸人、君って奴は本当に」



エンペラーは己に起きた不測の事態を見回しながら、不思議そうな顔を見せる。一瞬とはいえ、決して埋められない筈の経験の差を、気力で上回られたのだ。



「はぁ……はぁ……。何時までも舐めてると、殺す前に死ぬぞ?」



雫は満身創痍なのか、直ぐに追撃へは向かわず。



「いや済まない。本来、君は此処までやれる筈は無いのだが、どうやら想像以上に成長しているようだ。それも闘いながら、とてつもない速度でだ。うん、実に興味深いね」



「お前の戯れ言等どうでもいい。これで――終わりにしてやる」



代わりに雫は刀を鞘に納めた。そして居合いの構えを取る。



「――『神露・蒼天星霜』か……。いいだろう」



それを受けてエンペラーも、刀を鞘に納めた。



「これで見極めよう、君の真価を」



恐らくこれが、両者決着の一撃。そして繰り出されるのは、かつて雫と時雨の融合異能をあっさり打ち破った、かの一撃。



「見極めだ? なら、そのまま死ね。自分の技で――」



エンペラーは当然として、雫も全く同じ技を放とうとしている。



「…………」



辺りの空気が張り詰めていく。まるで凍り付くような――冷気と共に。



「やばいっ――『ソニック・ブーム』が来るぞ! 早くもっと離れるんだお嬢!」



「えっ? ソ、ソニック?」



危機を察知したジュウベエが叫ぶ。



「急いで悠莉! 私の後ろへっ――」



琉月にはジュウベエの言葉は理解出来ないが、これから両者の間に何が起きようとするかは理解出来る。



二人が更に大幅に距離を取る最中、両者は同時に動いた――鞘より放たれる刃の煌めき。



“星霜剣奥義――神露・蒼天星霜”



――それは超高速の鞘引きから生じる鞘鳴りが音の壁を破り、ソニック・ブーム――所謂、超音速の衝撃波を生み出す。



※星霜剣奥義――神露・蒼天星霜。この技の正体は、不可視なる音の刃。ゆえに避ける事も防ぐ事も不可能。



そして何より、星霜剣の極意は特異能との複合にある。



音の刃に付加される極低温の冷気は、一瞬蒼白の光の奔流となって全てを呑み込み、轢き裂く凍牙となる。



その想像を絶する威力と質量は、一人で融合異能を放つにも等しきもの。



――両者技を放ってより、それは一秒にも満たない間。衝撃は一瞬で過ぎ去った。



全くの同時発動だったので、衝撃は拡散しなかった。相殺し合ったのだ。



“一体……どちらが?”



衝撃が此方まで及ばなかった事に胸を撫で下ろす琉月だが、それ以上に重要なのは勝敗の結果。



雫とエンペラーは技発動後、微動だにしない。



両者共、固まってしまったのかと思われた――が。



「がっ――はぁ!」



直ぐに動き出す。



単純に勝敗を別けたのは――



「幸人お兄ちゃん!」



悠莉の悲痛な叫びが響き渡った。



技の破壊力――相殺した結果、雫だけが上回れず。その身体からは裂傷と共に鮮血が吹き上がり、同時に凍結が始まっていく。



「ぐおぁぁ……」



雫は刀を着きながら、両膝を地に落としていた。



「勝負有り――だね。どうやら杞憂だったようだ。まあ、ここまでこの技を使いこなすとは大したものだが、そもそも君に技を教えたのは誰だい?」



決着を見て取ったエンペラーは刀を消し、ゆっくりと歩み寄りながら――



「当然、師と弟子の間では、技の威力も精度も大きく異なる」



勝ち誇った訳でもなく、雫を見下ろしながら真理を突き付けていた。



「まっ、まだだ! まだ終わってねぇ!」



既に誰の目にも敗色濃厚は一目瞭然。それでも雫は膝を着いたまま、睨み上げながら否定した。



雫は刀を支点に立ち上がろうとするも――立てない。深刻なまでに多大な損傷。



「おぉぁぁぁっ!!」



それでも抗って立ち上がろうと、闘おうとしていた。



「……まだ諦めないみたいだね。その双瞼の光を消すのは容易ではないか。幸人、君を見ていると本当に……」



何故かエンペラーは止めを刺そうとはせず、見下ろしながら暫し、感傷にでも浸っているかのよう。



「――まあいい。これ以上は無意味だ。それでも抗う君には、本当の絶望を味わって貰おう」



エンペラーは雫へ向けて、左手を翳す。



“フリーズ・ジェイル――”



次の瞬間、雫の身体に異変が起きた。



「ぐぉぁ!? てっ、テメェ何を……」



動かないのだ。まるで全身の筋肉が硬直してしまったかのように、指一本動かす事も出来ない。



これは正に、全身を覆う凍結――エンペラーは左手で雫を捉えたまま、右手で大きく十字を切る。



“ーークルス・クルセイド”



次の瞬間、雫の両腕は大きく――強制的に水平を差して広がり、そして身体ごと上空へ浮遊していく。



「ぐあぁぁぁっ!!」



そして視覚でも顕になっていく。雫の身体を支点とした、氷の――十字架の柱が。



雫はまるで、磔られた咎人のように――



“フリーズ・ジェイル――クルス・クルセイド ~氷結檻:縛咎十字包陣”

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