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ピーナッツ
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やわらかい、陽射しに君が
続きです
※今回嘔吐・微過呼吸表現有、重めです。気を付けてください。
今日も、風のにおいで起きて。mnとあいさつして。植物たちに水をあげて。ご飯を食べて、mnとお昼寝して。起きて。散歩して―――。そうしているうちに”その時”を迎えるんだ、としか考えていなかった。
いや、頭の片隅では、きっとわかっていたんだ。こうなることが。そして、それが予想よりちょっと早かっただけ。
わかってた。あいつが起きてきた時から。明らかに、体が動かしづらそうだった。俺が台所からかけた声も、きっと耳にあんまり届いていなかった。
今日の朝飯は、ホットケーキ。
「「いただきます。」」
フォークを口に運ぶ動きが、いつもよりゆっくり。でも、ちゃんと食べれてるみたいだ。よかった。
――――そう思った矢先。
「っはっ…ゔっあ…」
「qn⁉」
「っは、おぇ…っげほっぁ…ふ…は…」
「ちょ、え…?」
「うぇ、あ、げほ…」
床がqnの吐瀉物でどんどん汚れていく。
ああ、早すぎる。こんなに早く影響が出始めるなんて。
―せめて、俺が代わってやれれば。
同じ苦しみを感じることもできないだなんて。
「っ、ごっ、め、ん…」
「っ、しゃべるな、とりあえずここで全部吐いちまえよ」
「う、ん、」
そっと背をさする。
――――俺は、特殊体質だ。俺の血液は、栄緑病と共生している。
詳しくは、知らない。この家に来た時、伝えられた。
俺の血液では、栄緑病の細菌と赤血球が栄養を補い合っているらしい。おかげで、俺は体の深部までの影響を受けていない。だけれど、周囲の人間には細菌は広がってしまう。だから、この家に来た。それで、みんなと出会えた。
でもそれは。
自分だけが。
みんなの、”その時”を。
朝起きる。みんなを起こす。朝ご飯を作る。もう一回起こす。ご飯を食べる。散歩する。そこからお昼まで、外で遊ぶ。お昼ご飯をみんなで作る。食べる。お昼寝をする。起きる。夕ご飯を作る。食べる。お風呂に入る。ふざけあって、寝る。
そんな一日のサイクルから、一人ずつ、零れ落ちていった。
つぎは、おれの番。
ラベンダー。バラ。丁字草。
みんなはおれに教えてくれた。
ラベンダーは安らぎを。
赤いバラは情熱を。
丁字草は希望を。
おれは、?
自分に聞いてもわかるはずのない質問を繰り返し、今日も花たちに水をやる。
あの日から、四日が過ぎた。
qnと、あまり会話ができていない。qnはぼんやりとしていることが多くなった。
四日前、qnの身体は明確に食べ物を拒絶した。―――栄養を取る手段が日光を浴びることに切り替わったのだ。栄緑病は確実にqnの身体を蝕む。俺とqnの時間を削り取っていく。
泣きもしない。自分の運命を嘆きもしない。
qnは、ただまつげを伏せて、薄暗い部屋の中に、座っている。
mnとあまり喋らない日々が続くうちに、春はいつの間にか通り過ぎ、梅雨になっていた。その夜も雨が屋根をうち、空気が重く落ち込んでいた。
眠れず横になっていると、不意に喉が痛みを訴え、おれは目を開けた。
「こほ、。」
小さな咳だった。のに。
口を抑えた手と喉に違和感を覚えた。
―――こわい。―――
手を開く。
―――見たくない。やだ…。――――――――
「あ…」
開いた手には鮮やかな、赤色が散っていた。
途端に、関が切れた。
「もぅっ…むりっ…やだぁっ…!ねえ、なんでよ、っ!」
なんで。なんで俺たちだったの。
「あ、っは、ひゅ、あ゛、は、ぁ、ひぁ、ひゅ、う゛、は、」
教えてよ、みんな。会いたい。会いたい。お願いだから。あと一回、一瞬でいいから。
「ねえ゛っ、」
「―――qn。」
背にひとの体温。それで、やっと自分の身体のおかしい程の冷えに気が付く。背を覆うおれより少し大きいひと。その声に、おれの内側が溶かされてゆく。
「mn…っ、」
ずっと、我慢できてたのに。これ以上声を上げたら、自分が崩れてしまいそうで。mnの顔を見たら、今が名残惜しくなってしまいそうで。
「ほら、ふー、はー、ふー、はー、」
「っふ、はー、ん…ふ、は、ー」
嗚咽に呼吸が持っていかれる。狂うような泣き声は、そうしているうちにいつの間にか静かにこみあげる涙に変わっていた。
―――――どれだけそうして呼吸を合わせていたかわからない。
おれの頭をなでるmnの手と自分の体の境目が滲んで分からなくなって、あたたかかった。
「だいすき。」
口の隙間からこぼれた言葉は、小さくても雨の音を通り抜けて届いたみたいだった。
「俺も。」
涙の余韻で腫れぼったい瞼が、自分でも気が付かないうちに、閉じていった。
コメント
1件
ああ、第2話……重かったけど、すごく丁寧に描かれてるなって思った。qnの身体が蝕まれていく過程と、mnの「代われない」もどかしさが痛いほど伝わってきた。特に「だいすき」ってこぼすシーン、涙腺にきたわ。みんなが一人ずつ零れ落ちていく描写も切なくて、でも花の象徴が効いてた。続きがすごく気になる……!