祐希Side
 「いやっ、違う‥」
 智君から携帯を取り上げ否定するが、返答はなく‥すぐに切れてしまった。
慌てて掛け直すが、一向に出る気配もない。
その後いくら掛けても、
 
 藍が電話に出ることはなかった‥
 
 藍の涙ぐんだ様な声が耳から離れない。
 こんなはずじゃなかったのに‥
 
 
 
 
 携帯を持ち、慌ててベッドから立ち上がり‥気が付いた。いつの間にベッドで寝ていたんだろうか‥。
 俺の記憶では、智君とワインを呑んでいたはすだ。その後は‥智君がワインがどうのって言っていた気がする。
 記憶を辿るが、そこから先は思い出せない。失う程、呑んでしまったのか。自分の失態に嫌気が差す。
 
 
 
 
 
 
 
 ベッドから降りると、瞼をこすりながら智君が話しかける。
 「祐希?‥どこ行くの?」
 「藍のところ行ってくる、電話しても繋がらない‥きっと誤解してる」
 「誤解‥??」
 不思議そうに首を傾げる智さんを見つめる。藍に嫉妬して欲しいからと協力を願ったのは俺だ‥。しかし、これは度を越している。つまり、俺の責任でもある。
 「藍に言ったでしょ?想像してる事をやったよって、あれは嘘だって伝えなきゃ。智君、協力して欲しいと言ったけど、やり過ぎだ。藍を傷付けてしまった‥」
 
 「嘘‥‥?くすっ、本気で言ってる?祐希?」
 投げかけられた言葉に思わず振り返る。妖しい笑みを浮かべる智君。こんな表情を俺は知らない。見たことがない。
 
 「‥‥この状況見ても同じ事が言える?」
 そう指摘され‥周りを改めて確認する。
 何故気付かなかったのか‥乱れたベッド、その下には脱ぎ捨てたような服が散らばっている。
 そして、智君自身。
 気怠そうに起き上がった上半身は何も身に着けていない。白い肌に所々、赤い個所も見受けられる。どう見ても情事の後にしか見えない。まさか‥
 「祐希がさ‥あんまり激しいから‥俺、びっくりしたよ、笑。俺の背中、傷がついてない?力いっぱい抱きしめるんだな‥」
 「そんな‥‥嘘だ‥‥」
 記憶が一切ない。冷や汗が流れる。慌てて自分の格好をその時になって確認すると、
身につけているのは下着だけという姿。いつ脱いだというのか‥。
 
 「残念ながら‥嘘じゃないよ、だって、まだ感覚があるもん。覚えてないの?‥あんなに俺の中に入ってきたの‥」
「待って!智君!」
 思わず言葉を遮ってしまう。冷静になりたかった。だが、どれだけ考えても失った記憶は戻りそうもない。
 ほんとうに‥?
 
 俺は‥
 智君と寝た‥?
 
 さっきの悲しそうな藍の声を思い出す。
 
 『聞いたらあかんの?』
 寂しそうに呟いていた台詞。
 
 携帯の履歴が藍で埋まっているのを見た時、正直、心配よりも嬉しさが勝っていた。
 これでもっと藍の心は俺に向くはずだと‥。
 
 でも、違う‥。
 
 
 
 この行為で、
 
 俺は逆に藍の心を深く傷付けてしまった‥。
 
 
 一番大切なものを遠ざけてしまった‥
 
 
 
 「智君、ごめん‥どうしても‥思い出せない。本当に‥俺‥やったの?」
 
 「祐希、酔ってたもんな‥ねぇ、こっち来て?」
 
 ベッドに座る智君が隣を指し示す。躊躇いながらも隣に腰掛けた。真実が知りたい一心で。
横に座ると、おもむろに顔に手を添えられ、目の前の智君が妖しく微笑む。
 
 
 「ワイン呑んだのは覚えてる?」
 「うん‥もちろん」
 「そのワインを口移しで呑んだのは?」
 「‥なんとなく‥かな‥」
 「その後から記憶ないんだな?‥残念、あんなに強引に迫ってきてくれたのに覚えてないなんて‥」
 そう告げられた後、不意に唇を塞がれる。
 「ん!?」
 突然の事に、胸を押し離れるが、そんな俺を見てニヤリと笑う。
 「なんで嫌がるの?昨日は祐希もキスしてくれたじゃん?もうさ、いくら否定したって昨日の事実は変えられないんだよ‥俺たちは寝たんだ。祐希も、俺と同罪だぜ‥」
 藍を裏切ったんだよ‥そう告げられ、再び近づき胸にもたれかかる智君を茫然としながら見つめた。
 俺は裏切った‥のか‥藍を‥
 誰よりも大切な人を‥
 
 執着してしまったから‥‥?。
 
 貪欲に愛を乞うてしまったから‥?。
 
 超えてはならない一線を越えてしまったのだろうか‥
 
 
 
 「俺‥藍に謝らなきゃ‥」
 「いまさら?他の奴と寝てごめんって?それで許してくれると思う?そんな能天気でもないだろ?藍も‥」
 
 「‥智君の言う事が事実なら‥しっかり話してくる。許してもらえなくても構わない」
 
 「祐希!?」
 胸にもたれる智君を押しのけ、立ち上がる。一刻も早く、藍の所に行かなきゃ。
 
 「藍のところに行くの?ねぇ、もう藍は怒って許さないかもよ?行く必要ないだろ?」
 「智君‥ごめん‥勝手かもしれないけど、俺は藍に会いたい」
 「それなら、俺は!?」
 「智君?」
 
 先程までの笑みはどこに消えたのか‥。今度はすがるような目で俺を見る瞳に、戸惑ってしまう。
 
 「智君?‥どうしたの?おかしいよ?」
 「おか‥しい?俺‥が?」
 「おかしいよ‥だって‥それじゃ‥まるで‥」
「俺‥祐希が好きっ!」
 俺の事を‥そう告げる前に、智君が叫ぶように言い放つ。
にわかには信じがたい言葉に、反応できず沈黙が続く。
 
 
 
 「‥なんとか言ってくんない?‥告るの‥勇気いるんだけど‥」
 「あっ‥ごめ‥でも、智君、小川と付き合ってるんじゃ‥」
 「‥ああ、そうだよ。でも、今はお前が好き。勝手だって分かってる。小川の事を裏切ってココにいるって言うことも重々承知してる‥」
 
 「それなら‥なんで‥」
 「それ聞く?俺だってまさかこうなるとは思わなかったよ‥ただ、お前が藍にもっと愛されたいって言うから‥協力してって言うから‥だから、気付いたんだ‥」
 
 座っていた智君が急に立ち上がり、抱き着く。その腕は‥小刻みに震えていた。
 
 「お前に愛されたらどんな気持ちだろうって‥考えれば考える程、お前が気になって‥気付いたら好きになってた‥藍に渡したくないって‥」
 「智‥君‥」
 「なぁ?俺、どうしたら‥いいの?小川も‥藍も‥裏切って‥お前しか‥いないんだよ‥それなのに行くの?藍の‥ところに?俺を‥置いて‥‥」
 
 智君の声が‥途切れ途切れになる‥泣いている。
 嗚咽するように泣く智君を‥
 
 どうしていいのかわからず、立ち尽くしてしまう‥。
 
 だが‥俺の心は決まっている。それだけは事実なんだ。変わることはない。
 「智君‥ごめん‥それでも‥俺は‥」
 「藍が好き?」
 「‥うん‥」
 「お前が協力してって言わなければ俺はこんなに苦しくならずに済んだのに‥そんな俺を置いていくんだね‥」
 「ごめん‥智君‥ごめん」
 「‥のせい‥」
 「えっ?」
 「祐希のせいだろ‥こうなったのも。責任取ってくれるよね?」
 責任‥。そうだ、俺は受け止めないといけない。
そもそも、人に協力を得ようとしたのが間違いなのだから‥
 「責任取るよ、どうしたら許してくれる?」
 「‥俺、元々祐希と一緒になれるとは思ってなかったんだ。昨日来たのも今夜だけだって分かってた‥だから、今日一日だけでいい。藍のところに行かないで、俺といて‥?」
 「智君‥」
 「今日一日いてくれるだけでいい。そうすれば諦める。小川にもちゃんと伝える。お願い‥今日だけは俺の‥祐希でいて欲しい‥」
 
 
 そうすればもう他にはなんにも要らない‥
 
 
 そう呟き、抱きつく腕に力を込める智君を‥
 振りほどけなかった。
 
 これは‥
 俺の罰なんだと思う。
 
 智君を巻き込んでしまったのだから‥
 
 
 藍から
 もっと愛されたいと‥
 
 欲を出してしまったのが
 間違いだった。
 
 『普通に愛してあげればいいのに‥』
 いつだったか‥
 太志に言われた言葉を思い出す‥
 
 『大変なことになるぞ』
 アイツは俺と藍を気にかけて言ってくれていたのに‥
 もっと早くに気付くべきだった。
 
 いまさら後悔しても遅いのに‥
 
 
 
 
 
コメント
10件

らんらんのとこに行ってあげてよ、
今回も安定に泣きましたね、 早く藍くんのところに行ってくれとか思ってたけど智さんの気持ちもわからなくもない気がして、 まぁ一番かわいそうなのは藍くんと小川くんね?^^

ともさん、ずるい! いいからゆうきさんは藍くんのところへレッツゴー!