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アリエッタ……の体を借りたエルツァーレマイアが、その手を頭上に掲げた。
『【青橙の重槌】』
手の先に現れたのは、青と橙がマーブル状に混ざり合った球体。
(アリエッタをいじめる者は、母として女神として許せません! おしおきですっ!)
「アリエッタがキレ散らかすのよ」
「キレ散らかすとどうなるの?」
「知らないのよ? 結局可愛いのよ」
「そんな事聞いてないから! あの虹色の髪とかどうなってるの!?」
アリエッタに起こった現象に、見たことのないムームーは大慌て。
ミューゼとパフィは、アリエッタが我を忘れる程まで感情が大きく揺れ動いた時、その髪が虹色に輝き、母親と同じ理解を超えた力を発揮すると考えている。
真実は、アリエッタの精神に住みついている実りと彩りの女神エルツァーレマイアが、アリエッタと入れ替わって能力を使っているだけなのだ。その事を知っているのは、イディアゼッターに話を聞いたネフテリアとピアーニャを含めた数名のみ。
「……なんか大きくない?」
「きっとアレで、あいつら潰すのね」
「なにそれ怖い」
エルツァーレマイアの能力は、色によって意味や効力が変わる。青色は重さ、橙色は硬さの効果を持っている。つまり、重くて硬い球体がアリエッタの頭上に浮かんでいるのだ。
先程から展開と話についていけず、オロオロしていたツインテールの少女達が、なんとか話の意味を一部理解して、慌て始める。
「あああああれ投げつけられるの?」
「ひいいいい!? マジかよどーすんだよどーなるんだよ!」
「もうダメだぁ、おしまいだぁ……」
この一帯だけ、戦闘行為で荒してしまったと思いきや、いきなり木々が生い茂るという意味不明な現象が発生し、さらによく分からない不気味な球体が出現してしまった。
彼らは虹色に輝く少女と不気味な球体という未知なる恐怖によって、正常な思考を失っている。そもそも生き物でもないのに丸いという事が、物質は全て四角で出来ているサイロバクラムにとっての異常事態。天変地異や世界の終焉に見えているのかもしれない。
「ちょっと、アリエッタちゃんを止めなくてもいいの!?」
ムームーがミューゼ達に止めるよう促そうとするが、2人は声を揃えて言い放った。
『アリエッタに危害を加える奴が悪いのよ』
「ですよねぇ!」
実に無情である。
そしてその時、エルツァーレマイアは軽い枝を振るかのような速度で、球体を思いっきり地面に叩きつけた。
ずごおおおんっ
『おわあああああっ!』
一体どれだけ重いのか。球体を中心に大きな地響きが起こり、前方のみ地面が割れる。衝撃と亀裂に巻き込まれ、木やビルが崩壊していった。
やっている事は滅茶苦茶だが、自分やミューゼ達を巻き込まないように、しっかり配慮していたりする。
「いやああああ大惨事いいいいい!!」
目の前で起こった光景に、ツインテールの少女が絶叫していた。
混乱する少女の下に、ムームーが困った顔をして駆け寄って、声をかけた。
「それで、なんで争ってたの?」
『その前に気にするトコあるんじゃないの!?』
ムームーを味方だと思っていたグループの人々が、声を揃えてツッコミを入れた。
それにムームーは申し訳なさそうに答える。
「ごめんね、流石にあの子の事は教えられないよ」
『そこじゃなくて! いや気になるけど!』
横から見ていたパフィが、ムームー達のやり取りを見てポツリと呟いた。
「仲良い連中なのよ」
「そんな事よりアリエッタ、もう大丈夫よ。ドカンドカンしなくていいからねー」
ミューゼが声をかけると、アリエッタは振り向き、頷いた。ミューゼとパフィはそれを見てニッコリ。
そのやり取りを見た周囲の者達は、ホッと安心し、警戒を解いた。
そして、アリエッタは腕を振り上げ、落とした球体を浮かび上がらせ、もう一度地面に叩き込んだ。ちょっとだけ位置をずらして。
ずごおおおん
『なんでーーーー!?』
容赦ない追い打ちに、争っていた者達はもちろん、コロニーは大混乱。地割れや倒壊が拡大した。
「……通じなかったね」
「……通じなかったのよ」
(2人が『だいじょうぶ』って言ってくれたお陰で、安心して背中を任せてアリエッタの仇を討てるわ)
ちょっとした意思疎通のすれ違いである。普段アリエッタの精神世界にいるエルツァーレマイアは、アリエッタほど言葉を覚えていないのだ。
「まぁアリエッタに危害を加える街がちょっと滅びるだけだし……」
「誰も気にしないのよ」
『気にするよ! なんなんだテメーらはっ!』
こちらは敵対していたグループから総ツッコミを受けた。
その時、ツッコミに驚いたエルツァーレマイアが、再度球体を落とした。
「なんか、おおきなオトがしなかったか?」(まさかアイツらじゃないよな?)
「まぁこのコロニーじゃ昔から時々あるんですよ。ちょっと規模の大きな小競り合いが」
「それ小競り合いじゃないんじゃ……」
予感が的中しかけたピアーニャだったが、クォンの説明が気になって、詳しく聞く事にした。
「このトランザ・クトゥン……トランザってみんな呼んでるんですけど、最近になって世界抵抗軍っていう組織ができたらしいです」
「ん? その分かりやすい名前からして、リージョン外交の反対派じゃない?」
「よく分かりましたね、そうなんですよ。って言っても、クォンはまだ見たことないですけど。ファナリアにいる事多いし」
「あーそっかー」
「まぁよくあるハナシだな」
ピアーニャは納得。ネフテリアも頷いた。
というのも、リージョンが見つかり交流を持つ時、不安を募らせた者達が反対運動をするというのは、珍しい事ではないのだ。
それまで存在の認識すら無かった異世界は、自分達に何を及ぼすのか想像も出来ない。人種も違えば、食べ物や生態すら違う事もある。もしかしたら凶悪な異世界の生物が襲い掛かってくるかもしれない。そういった不安を身内同士で話し合い、悪い方向に想像を膨らませ、暴走するのである。
そういう事を経験済みのピアーニャは、慌てずにむしろ当たり前だという気持ちで話を聞いていた。ネフテリアは初めての経験だが、ピアーニャから聞いていたので心の準備は出来ていた。
一通りレジスタンスの話を聞いて、ネフテリアに疑問が浮かんだ。
「最近になって? 小競り合い?は前からあったんだよね?」
小競り合いは昔から時々あると、クォンは言っていた。つまり、レジスタンス以外にも何かがあるという事である。
「そっちは正体不明なんですよ。ただ、裏で大きな派閥が動いているとしか分からなくて」
「おおう、意外と物騒ね。サイロバクラム」
「まぁクォンもブソウしてるくらいだからな。そうかんがえるとヘイワなほうだろ」
「クォンも何度か接触はしてるんですけど、全然詳しい事は教えてくれなくて……」
小競り合いをしている者達の正体は、一般には知られていないと、クォンは言う。勧誘されてもなんとなく断っていたので、何も知らないようだ。
今の仕事に就いてから、勧誘がさらに増え、いっそ自分で捕まえてしまおうかと思っていたところで、ネマーチェオンに落ちてしまったのだ。それ以来、接触は無いらしい。
3人はアームズショップを出て、先ほどから聞こえる大きな音の原因を調べる為に、その方向へと歩き始めた。
「今分かっているのは、このトランザには最低でも3つの過激な集団がいて、争いが時々起こるって事ね」
「巻き込まれたら危ないですけど、基本的に一般人を巻き込むような事はしてないみたいです。一応暴力沙汰だから取り締まってますけど」
「なるほどなぁ。……うしろのレンチュウは、どのハバツだろうな」
「え?」
ピアーニャに言われて全員が振り向くと、そこには眼鏡をかけスラッとした青年が立っていた。最低限のアーマメントを装着して、礼儀正しくお辞儀をした。そして、クォンを見つめながらすました顔でポツリと呟く。
「素晴らしい……」
「え?」
クォンの警戒心が一気に上がった。
「ごほん。申し訳ございません。私は──」
「ごめんなさい、クォンにはムームーさまという、心に決めた方がいるんです」
「名乗る前に振ったー!?」
ネフテリアが衝撃を受けているが、名乗ろうとした青年もショックな様子。
なんとなく気まずい雰囲気になり、少しの間沈黙が4人を支配した。遠くからは大きな音が響いてくる。
「ごほん。申し訳ございません。私はスレッド。今回はお話があってお声がけしました」
「あ、しきりなおした」
ピアーニャがスレッドと名乗った青年に呆れる横で、クォンも申し訳なさそうに口を開く。
「ごめんなさい、クォンにはムームーさまと──」
「そっちは仕切り直さなくていいよ!」
クォンに主導権を持たせると話が進まない気がしたネフテリアが前に出て、話を聞くことにした。
「何かご用ですか?」
「お気遣い感謝します。実は、貴女方を同志としてお誘いに来たのです」
「同志?」
「ええ、そちらのクォンさんは我々と同じですが、お二方は違うリージョンからやってきた方ですね?」
「そうですよ。いま案内してもらっている所です」
「でしたら、是非とも我らが派閥に協力していただきたい。レジスタンスの排除を──」
「危ないっ。【防魔陣】!」
説明を始めたばかりの所で、ネフテリアが魔法で半透明の防御壁を貼った。すると、壁に魔力の弾がぶつかり、連続で散っていく。
「んなっ」
「ひええっ」
この魔法は魔力そのものを防ぐ防御系魔法。先程エーテルガンを見て、この魔法なら防ぐのに有効そうだと当たりをつけていたネフテリア。
その想像は正解で、純粋な魔力の弾丸は簡単に防ぐ事が出来た。
「ちっ、なんだそりゃ」
すぐに姿を表したのは、長めの髪をツーサイドアップにまとめた20歳くらいの見た目の女性。
(おー、クォンと同じ髪型なんだ)
ネフテリアが、ヘアスタイルでなんとなく感心していた。
「貴女もレジスタンスでしたか……」
「たりめーだろ。異世界なんて信じられっかよ」
「ガラわるいなー」
ピアーニャは口調の方に感心している。
「ソレがどーゆーアーマメントかわかんねーケド、アタイがブチ破ってやるよ」
女はネフテリアを睨みつけ、問答無用で戦闘態勢に入った。武器を持ち、背中のウイング型パーツを展開。不意打ちを仕掛けてきた事も含め、話をする気は無いようだ。
ピアーニャはその事に気づき、そっと『雲塊』を出した。
「くたばりなっ」
そう吠えると、女はエーテルガンを4丁、両手両翼に構えて突っ込んできた。