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(この人、着痩せするタイプだった……)
私の兄二人も、体育会系で鍛えているタイプだけれど、涼さんは胸板の厚みが違う。
その上肌もとても綺麗で、腋毛もない。
よく見てみると、朝陽に照らされた横顔もツルンとしていて、産毛がないように見える。
ほーっ……と見ていると、涼さんがこちらを見て笑った。
「どうかした?」
「……いえ、綺麗だなぁ……と思って」
ぼんやりしたまま答えると、彼はクスッと笑って私の頭を撫でてきた。
「ありがと。いつもはそう言われても特に何とも思わないんだけど、恵ちゃんに言われると嬉しいな」
「……あ、すみません。見た目を褒められるの、嫌でしたか?」
私は布団で胸元を隠したまま尋ねる。
ベッドから下りた彼は、上半身は裸だったけれど下はスウェットズボンを穿いていた。
……そういえば、色違いのパジャマをプレゼントしてもらったばかりなのに、着ないで寝てしまった。
「うーん、嫌だとは思わないかな。嬉しくもないし、何とも思わない。言われすぎて慣れてしまった感じだ」
普通なら容姿を褒められたら嬉しくなるものだろうけど、何とも思わなくなるぐらい言われまくった人は、こういう感じになるんだ……。
少し困惑した顔をしていたからか、涼さんはニコッと笑った。
「でも今言った通り、恵ちゃんに言われると嬉しいよ。初めて『この顔に生まれて良かった』って思えたし」
「……ならいいんですが」
ホッとして言うと、涼さんは悪戯っぽく笑ってウインクした。
「俺は恵ちゃんの顔が大好きだけどね」
「な……っ、何言ってるんですか。私の顔なんて平々凡々盆踊りですよ」
「なんで盆踊り」
涼さんは私の言葉にツボり、朝からお腹を抱えて笑っている。
落ち着いたあと、彼はサラリと私の髪を撫でた。
「恵ちゃんは自分が思っているよりずっと、魅力的だよ」
そんじょそこらの女性よりずっと美形な涼さんに言われて、喜んでいいのか分からないけれど、とりあえず「ありがとうございます」とお礼を言っておいた。
「ひとまず昨日買った服を着たら? ちょっと見繕ってくるね」
涼さんはそう言って、一度寝室を出ていった。
「はぁ……」
私はモソリと布団の中で体育座りになり、フワフワの羽根布団に頬を押しつける。
(これが朝チュンかぁ……)
雀はいないものの、涼さんと朝を迎えてしまった。
(大人の仲間入りをしてしまった)
溜め息をついた私は、「朱里も篠宮さんとこういう事をしてるのか……」と考え始め、すぐにやめた。
彼女から篠宮さんとの事を聞いているとはいえ、性事情を勝手に想像するなんて親友であっても失礼だ。
秘め事とも言われるし、本人が話したくなったら話題に乗るぐらいで丁度いい。
(……というか、私のほうが相談に乗ってもらいたいぐらいだけど)
これでもし朱里に男女のあれこれを相談したら、話を聞いてくれるだろうか。
そう思うと、今までの朱里との関係が変化したように思えて、不思議な気持ちになった。
(今まで私は一方的に朱里の恋バナを聞いていた。なのに今の私は、朱里と同じように〝彼氏持ち〟なんだ)
この気持ちをどう言い表したらいいか分からないけれど、女としてワンランク昇格してやっと〝一人前〟になった気持ちだ。
今までの自分が劣っていたわけじゃないし、それも一つの生き方だと分かっている。
(……けど、こういう感じなのか。朱里以外にも大切な人がいて、それぞれ恋人がいながらも友達を大切に想う気持ち……)
世間でも、恋人と友達の大切さは同列に扱えないと言われているし、私もそれには同意見だ。
けれど恋人を想う気持ちが理解できなかったので、『私なら友達を択るな』と思っていた。
(……今は、涼さんと朱里のどっちも選べない)
若干、なりたての恋人である涼さんに「別れよう」と言われたら、傷が浅いうちに離れられる気がする。
そういう意味では、付き合いの長い朱里のほうに今はまだ軍配が上がるかもしれない。
でもこれから付き合いが始まって本当の意味での恋人になったなら、私は涼さんも朱里も同じぐらい大切にするだろう。
その時、足音がして涼さんが戻ってきた。