コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「お待たせ。休日だしラフな感じで、これはどう?」
そう言って涼さんは布団の上にデニムとシンプルなグレーのTシャツを置く。
けれど私は知っている……。両方ともYSLの物だという事を……。
(普段着のハードルが高いな!)
「コーヒーを淹れてるから、ゆっくり準備しておいで。基礎化粧品は洗面所に置いてあるから、そっちも使って」
「はい」
涼さんは爽やかに言って、寝室を出て行った。
「はぁ……」
私はとりあえず大人が四人は寝られそうな、幅広のキングサイズベッドから下りる。
服に手を延ばしたところ、Tシャツとデニムの間からポロッとノンワイヤーのブラジャーが落ちた。
「わっ、わっ!」
慌てて下着を隠して廊下の向こうを見たけれど、涼さんが来る気配はない。
(……っていうか、私パンイチなんだよ……。下着のほうを恥ずかしがってどうする)
私は自分に突っ込みを入れ、溜め息をつく。
下着はいま穿いている物とお揃いで、繊細な花びらのレースが幾重にも重なった美しいデザインだ。
ひとまず昨日の下着スタッフさんの手つきを思い出してブラジャーを着けると、また私の胸元に山と谷が現れた。
私はしばらく自分の谷間を見て、下着越しに胸に触り、その存在感を確かめる。
(昨日までBカップだったのに、いきなりEカップになるとは。人生何が起こるか分からない)
そのあと恐る恐るTシャツを被ってデニムを穿き、手洗いに行ってから洗面所で顔を洗った。
高そうな基礎化粧品が沢山あって、何をどう使ったらいいか分からないので、とりあえず同じブランドの化粧水と乳液を塗って終わりにしておく。
(こうなるなら、朱里の講座をまじめに聞いておけば良かった……)
少し反省してからリビングに向かうと、適度なボリュームでカフェミュージックが流れていた。お洒落……。
「何か手伝う事ありますか?」
キッチンを覗き込むと、涼さんは冷蔵庫からソーセージやベーコン、卵に野菜を出して朝食を作ろうとしている。
「丁度良かった。じゃあ、手伝ってくれる?」
「はい!」
役目を与えられて安心した私は、彼に渡された赤いカフェエプロンをつけて手を洗った。
……と、私はピタリと動きを止める。
「……もしかして、このエプロンも買いました?」
「おや、よく分かったね」
涼さんはなんでもない事のように返事をし、ニコリと笑う。
「姉と妹はほとんど料理をしないんだ。家政婦さんは自前のエプロンを使っているしね。……やっぱり恋人同士でキッチンに立って、一緒に料理を作るって楽しいじゃないか。ほら、俺もお揃いなんだ」
そう言って、涼さんはクルリとこちらを見てデニム地のカフェエプロンを示す。
エプロンは有名デニムブランドの物で、私の赤い物もデニム生地でできていてお洒落だ。
「……意外とお揃いが好きですね。乙女だ」
「初恋みたいなもんだから、そりゃあウキウキするよ」
「外出する時のペアルックは遠慮しておきます」
先に言っておくと、涼さんはあからさまにガッカリした表情をする。
「……恵ちゃんって意外と恋人になったあとも塩対応だよね? メロメロにさせ甲斐があるからいいんだけどさ……」
「……そりゃあ、初めての彼氏で嬉しいですけど、気の進まない事は先に言っておかないと。あとになってから『実は我慢してました』って言われるほうが悲惨じゃないですか」
「確かにそうだけど……」
少しショボンとしている涼さんが可愛くて面白い。
「で、何をすればいいですか?」
質問すると、涼さんは本題を思いだしたらしく、レトルトのコーンスープのパウチを示した。
「これ、湯煎してくれる?」
「了解です」
そのあと、私たちは手分けして朝食の準備を進めた。
三十分後、私たちはキッチン内にあるテーブルに向かい合わせに座っていた。
フィンランドの食器ブランド、イッタラのシリーズ、ティーマの青いプレートの上には半分にカットされたトースト、ベーコンとソーセージ、エッグベネディクト、ベビーリーフとミニトマト、アボカドのサラダがのっている。
エッグベネディクトのソースは涼さんのお手製だ。
同じ青いボウルの中にはコーンスープがあり、ホカホカと湯気を上げている。
私と涼さんの間にはバスケットがあり、その中にはクロワッサンをはじめ、色んな種類のパンが入っていた。
目覚めた時に彼は私の隣に寝ていたけれど、あれは一度起きて早朝に人気のパン屋さんで買い物をしたあとだったらしい。なんという行動力。