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「おーい!
そっちの建材はランドルフ帝国エリアへ
運んでくれー!!」
「大ライラック国行きの鉄道はどこだ!?
まだ今日の便は残っているか!?」
「お前ら、早く食っちまえよー。
午後からまた大量の物資が届くからな」
クアートル大陸、その大陸中央の森、
共同開拓地区―――
そこはすでに一つの都市を形成し、
開拓に従事する労働者や関係者で賑わっていた。
ランドルフ帝国・ドラセナ連邦・
モンステラ聖皇国・大ライラック国の
四ヶ国で発された共同声明……
先に聖皇国が、森にいるであろう大精霊様の
許可を得なければならないという事で、
開発スタートはやや遅れたものの、
辺境大陸の『鉄道』技術を各国が導入、それが
共同開拓地区まで開通した後はピストン輸送で
物資が絶え間なく送り込まれて来ており、
今では人口五十万規模の、ウィンベル王国王都・
フォルロワをしのぐ大都市となって―――
大盛況の様相を呈していた。
その一角で、定食屋らしき施設に入った
男たちが話をしていて、
「しっかしよぉ、未開拓地の森っていうから、
どんな辺鄙なところか覚悟していたんだが」
「ああ。下手すりゃウチの首都よりも
暮らしやすいんじゃねえのか?」
「メシも酒もみんな美味いもんなー。
何でも、共同開拓だからって事で、
各国がいろいろ見せつけようとして、
こんな事になっているらしいが」
出て来る料理に舌鼓を打ちながら、
労働者たちは雑談に興じる。
「ドラセナ連邦の、生魚料理には驚いたな」
「ランドルフ帝国のボーロってヤツもなかなか」
「モンステラ聖皇国産の牡蠣か?
あのフライも極上だったぜ」
「俺のところの大ライラック国の料理も、
味付けが全然違う。
多分、各国から仕入れた調味料をどんどん
導入しているんだろう」
各国の労働者が入り乱れる中、それぞれの国の
料理を評価する。
基本、それはウィンベル王国のシン……
もしくは和食の血を引く鬼人族や天人族の料理が
ベースであったが、
例えば聖皇国産の牡蠣はベッセルギルドマスター=
アウリスの猛プッシュで養殖されたものであり、
そのような形でいろいろと各国に浸透していた。
「でかい風呂にも毎日入れるし―――
この前まで、熱を出す魔導具と羽を回す
魔導具とで……
泊まる場所が寒いなんて事も無かったからな」
「夏になったら、あの羽を回す魔導具と、
氷で冷やす事になっているってよ。
賃金も悪くねぇし、一ヶ月に一度はあの
『鉄道』ってヤツで、家族に会いに帰る事も
出来る」
「至れり尽くせりで怖いくらいだよな」
彼らは口々に待遇の良さを語る。
実はこれも、シンが冒険者たちと契約する際、
様々な近代の労働条件を反映させていたのを、
ウィンベル王国が知識層に命じて、それを
体形的にまとめ上げ、
『労働効率を上げるマニュアル』として、
各国に売りさばいていたのであった。
事実、それを導入したところは作業効率の
アップと事故率を激減させ、
また長期契約は安定した収入を提供し、
個々のモチベーションも上昇したのである。
「そういや―――
あの噂、知っているか?」
「あぁ?」
「何の事だ?」
一人の男の話に周囲が食いつき、
「フラーゴル大陸の話だよ。
何でもあそこのメナスミフ自由商圏同盟が、
ちょっかいをかけて来ているって」
それを聞いた他の面々は首を傾げ、
「ちょっかいって、まさかクアートル大陸の
どこかの国にか?」
「モンステラ聖皇国以外とは、普通に交易
していたんだろ?」
「今じゃこうやって共同開拓もやってんだし、
大陸間で戦争でもやろうってのか?」
さすがにスケールの大きな話に、周囲は
眉に唾を付けてかかるが、
「いくら何でも四大国と対峙はしないだろう。
問題は、ランドルフ帝国やドラセナ連邦と
国交を結んでいる、辺境大陸を狙っているって
話らしい」
すると彼らは互いに顔を見合わせ、
「それならわからないでもないが」
「だがそれで、帝国も連邦も黙って
いるのか?」
「けどよ、辺境大陸ごときで戦争の引き金に
なるくらいなら、って―――」
彼らは意見を出し合うが、少し離れたところで
それを耳にしている一団がいた。
「そういえば、ザハン国の使者が
ランドルフ帝国に来ていたという話ですが」
「辺境大陸に『交渉』に行くと……
それはこちらも耳にしています」
「やれやれ―――
商売の邪魔になるような事は、して欲しく
無いんですけどねぇ」
こちらは未開拓地の労働者が好待遇なのを
聞きつけ、それを相手にするためにやって来た
商人たちで、
当然、情報には人一倍敏感であり……
関連の情報も入手していたが、
「で、どのように考えております?」
「どのように、とは?」
「あのザハン国―――
そしてメナスミフ自由商圏同盟が、辺境大陸に
勝てるかどうかですよ」
すると彼らは値踏みするように、他の顔を
一巡して、
「辺境大陸の商品、そして情報は仕入れて
おります」
「亜人・人外に寛容であり、そして文化としても
戦力としても取り入れている」
「あちらは数で押せるでしょうが……
それだけで勝敗が決まるとも思えません」
腹の探り合いをするように、表面上は
慎重な意見が行き交うが、
「じゃあこうしませんか?
一つ、賭けといこうじゃありませんか。
私は辺境大陸が勝つ方に賭けます。
ザハン国、メナスミフ自由商圏同盟が
勝つと思う方は―――」
そう一人が切り出すと、他の商人たちは
黙り込む。
「賭けにならないじゃないですか」
先に提案した男が肩をすくめると、
「当たり前です。
あの商品や技術を一目見れば、敵対する事の
愚かさは分かります」
「それが理解出来ねば商人ではありますまい」
「今回、ザハン国やメナスミフ自由商圏同盟は、
大きな損をしましたなぁ……
とだけ言っておきましょうか」
そこで彼らは苦笑とも嘲笑とも取れない
笑みを浮かべ―――
「お待たせいたしました」
そこへウェイトレスらしき女性が二名、
手に料理をそれぞれ持って来て、
「お! 来た来た!
騎士団セット!」
「ボーロと冷やし蕎麦セットは私だな」
「チャーシューメン大盛はこっちです」
「ミックスフライ定食はこちらで」
と、運ばれた料理を前に、今度は満面の
笑みに変わった。
「……珍しいですね。
あなた様が私に会いに来るとは」
ランドルフ帝国、帝都グランドール―――
その兵器開発省関連の施設で、
皇族を前に、三十代後半と思われる
グリーンの短髪にいかにもな研究者といった
眼鏡をかけた男が静かに会釈する。
「わたくしもなるべくなら会いたくなかったの
ですけれど……
陛下のご命令でもあり、また極秘という任務の
性質上、他に適任者がいなかったのですわ」
背中まで伸びたパープルの長髪に、前髪を
眉毛の上で整えたティエラ王女が―――
アストル・ムラトに告げる。
「それで、陛下直々の極秘命令とはいったい?」
「すでに耳にしているとは思いますが、
ザハン国が辺境大陸に対し、一千隻の戦力で
圧力をかけに行くようです。
それで、逐一情報をそちらに上げますので、
ザハン国の戦力分析及び、戦術や魔導兵器の
性能を推測、対策を立てて欲しいとの事」
彼女から書類を受け取った兵器開発省・
新機軸技術部門主任はそれに目を通して、
「……ファルコン部隊……
それに、合同軍事演習の情報はあちらも
入手しているため、当然対応はしてくるとの
想定ですか……
まあ、我が国で着手しているものは、
ザハン国でもやっている、と考えるのが
自然でしょうね」
そしてアストルはパラパラとページを
めくるように書類を一通り確認し、
「ただ、一つ言える事は―――
恐らく水中戦力は用意出来ますまい。
あれはラミア族や人魚族、ロック・タートル
などの亜人・人外がいて初めて成立するもの。
そしてフラーゴル大陸が人間以外の種族に
寛容だとは、聞いておりませんからな」
それを聞いたティエラ王女は、表情を一瞬
暗くするが、
「……わかりました。
では今後、あなたは帝国武力省にて、
アルヘン将軍・ロンバート魔戦団総司令と
共に、ザハン国の戦時分析を担当して
頂きます。
お二人にはすでに話を通してありますので」
それを伝えると、彼女はそのまま兵器開発省の
一室から姿を消した。
「ふぅむ―――」
残された彼は、置いていかれた書類に
改めて目を通す。
「対空はファルコン部隊……
数さえ揃えればドラゴン・ワイバーン部隊とも
互角に戦えるはず。
対空飛翔体も当然あるでしょうね。
あれも数を揃えて面の制圧という手法なら、
圧倒的な優位を持たれる事も無い。
それに水中でも扱える魔力探知機があれば、
あとは防水性の魔導爆弾させ用意すれば
いいだけの話なので―――」
そこでアストルは書類から顔を上げ、
「前回、ランドルフ帝国からの『訓練航海』は、
水中戦力などという想定はしてなかったため、
効果を上げる事は出来ませんでしたが……
今回はその対策をしているはず。
もしそれでザハン国が敗れる事があると
すれば―――
見せて頂きましょうか、辺境大陸の
お手並みを」
そして彼は書類を整理すると……
ティエラ王女経由で来た皇帝陛下の命令に
従うため、荷物をまとめ始めた。
「え? 何人?」
「11人」
「もう一度言って?」
「いえ、何度言っても変わらないと
思うのですが」
ウィンベル王国公都『ヤマト』、
その中央地区の児童預かり所へ行く途中で、
私は短い茶髪をした青年と久しぶりに
会っていた。
彼の名前はカート君。
かつて、バン君とリーリエさんと一緒に、
三人組で私の護衛をしてくれていた
冒険者の若者だ。
確か今は、ミナハというラミア族の彼女が
いたはずで―――
(■144話 はじめての ぷろれす参照)
そして私が彼と話していた人数はというと、
「バン君の奥さんたち……
11人が一気に妊娠、かあ」
そりゃバン君についていった女性陣、
三十人はくだらないって話だったからなあ。
その三分の一に子供が出来ただけでそうなるか。
しかし十一人ってサッカーチームや
ハムスターじゃないんだから、
と思っていると、
「で、未婚のまま子供が産まれるのは、
ちょっと、という話になりまして―――
この機会に俺たち3人も結婚しようかと」
「おお!
それはおめでとうございます。
……って3人?
えーとバン君やカート君はわかりますが、
それってつまり」
すると彼は頭をかきながら、
「ええ、リーリエのヤツもです。
シンさんが助けた魔狼の一団の中にいた子供の
一人が彼女の相手で、
今は人間の年齢でいえば13・4才くらいに
なっていますから」
そういえばリーリエさんの彼氏、魔狼って
話は聞いていたな。
(■108話 はじめての しょうゆ参照)
それに彼ら魔狼たちを迎え入れてから、すでに
四年は経過している。
その時に十才くらいだとしたら、この世界の
人間年齢で、成人していてもおかしくはない。
そもそも、成人未満の年齢でもナイアータ殿下を
始め、クロート様、ファム様も結婚しているし。
そうなると問題は無い、か。
「そ、それでですね。
シンさんに結婚式に出席して欲しくって。
あの、合同でやっちゃおうって事で、
俺たち話し合って―――
そ、それで生まれ故郷の村でやりたいって
事になったんですけど」
言い辛そうに声のトーンが落ちていく。
多分、今では立場上私に頼みにくくなって
いるのもあるのだろう。
そこで私はカート君の肩を叩いて、
「じゃあ結婚式の準備は、私の方から
ドーン伯爵様に言っておきましょう。
それなら滞りなく手配してくれると
思います。
君たちにはお世話になっているから、
もちろん出席しますよ!」
「あ、ありがとうございます!!」
そして彼は安心したかのようにホッとした
表情になると、何度も頭を下げて去っていった。
「……というわけで、あの3人―――
今度結婚する事になったんだって」
児童預かり所に到着した私は、そこにいた
家族に情報を共有する。
「おー、やっとかー」
「ずいぶんと長かったのう。
しかしあのバン玉がついに結婚か。
まあ、頑張って欲しいものじゃ」
説明しよう! バン玉とは……
バンという男性を中心に、女の子たちが
寄ってたかって集まり―――
球形になった状態の事を言うのである!
「あのバン玉の子たち、みんなついて
行ったからねー。
それに加えて比較的自由行動の出来る
冒険者のおねーさんたちも、でしょ?
そして一気に11人かー」
黒髪ショートに、燃えるような紅い瞳を持つ
娘がウンウンとうなずきながら語る。
ラッチも児童預かり所経由で、彼らとは
付き合いが長いしなあ。
「でもいいの?
そんな事、引き受けちゃっても」
「また国家規模の厄介ごとを依頼されている
最中であろう?」
対照的な東洋系の妻と西洋系の妻が、
心配そうに聞いてくるけど、
「まあ、だからこそかな。
そもそも自分は、みんなの生活レベルが
上がるように、商売したり技術開発したり
出来ていればそれでいいのであってさ。
少しは日常的な楽しみが無いと、やって
いられないよ。
それにあの3人には、ここがまだ公都じゃ
なかった頃からお世話になっていたし」
私はシンイチ・リュウイチをあやしながら、
妻たちに答える。
「そういえば、他の人たちは?」
いつもはいる、ミリアさんやルーチェさんの
姿が見えない事に気付いて質問を振ると、
「ちょっとミレーヌちゃんと、ルードちゃん、
ルフィナちゃんがぐずってね。
リベラ所長と一緒に、児童預かり所の中を
気分転換に歩いているって」
娘の答えの後、妻たちも続いて、
「ほら、赤ちゃんって一人がぐずると、
みんな泣き出しちゃうからさー。
私たちもさっきまで出歩いていたんだよ」
「それでシンイチとリュウイチはすぐに
泣き止んだのじゃが……
他の3人はぐずり続けてのう。
だからまだ、戻ってこんのよ」
赤ちゃんだもんなあ。
どうやったら泣き止むのか、機嫌が
良くなるのか―――
根気よく大人が付き合わなければならない。
いくらサポートする施設があるとはいえ、
やっぱり大変だよなあ、と思っていると、
「それでシン。
あっちは大丈夫なの?」
「ザハン国とやらに今、いろいろと備えて
いるのであろう?」
「この前は浮遊島を持っていったんでしょ?」
第三者がいないからか、家族の口が緩む。
「一応、海から来るって話だし……
人魚族に偵察してもらっている。
水中戦力の方も、例の魔力封じの腕輪で
『見えない部隊』として活動も可能に
なっているからね」
人魚族やラミア族、ロック・タートルの
オトヒメさんにも―――
例の魔力封じの腕輪を使っての訓練を経て、
それで魔力のオンオフを制御しつつ、
その条件下での行動が出来るようになって
いるのだ。
さすがに魔力無しでは能力が落ちるものの、
水中を住処としているだけあって……
最新のスクリュー船と同等かそれ以上の
速度で、水の中を動き回る事が出来るらしい。
「でも大丈夫なの、それって?」
「人魚族やラミア族は、集団での連携も
得意だからね。
相手がクラーケンやヒュドラといった
大型の魔物でもなければ勝てるし、
魔力無しでも逃げる分なら問題無いって」
「確かに彼ら、水中だと尋常ならざる速度で
動き回る事が出来るからのう」
私と妻たちがそうやり取りし、
「あー、そろそろ暑くなってきたし……
またあのロック・タートルに乗って水面を
全力疾走したいなー」
そういえばこの公都には、ラミア族専用として
作った人工の湖があり、
そこでロック・タートルの子供たちも遊ばせて、
他の種族の子供たちを乗せ、モーターボートの
ように走った事もあったっけ。
(■174話 はじめての すぴーち参照)
そんな思い出話に花を咲かせながら時は
過ぎて行き―――
偵察に出ていた人魚族から緊急連絡が
来たのは、その三日後であった。
「ザハン国の一千隻の船団……
遂に来たか」
眠たそうな半開きの目をした、大柄な鎧に
身を包んだ帝国武力省将軍が口を開く。
「このままの速度で航行すれば―――
あと10日ほどで辺境大陸の東沿岸に
到着する、と」
黄色に近いブロンドの長髪をした女性、
魔戦団総司令も続き、
「さすが、メナスミフ自由商圏同盟の一角。
威嚇のためにそれだけの船団をポンと
出してくるとは」
最後に、新機軸技術部門主任が感想を口にする。
「それで、あなた方に見解を
お聞きしたいのです」
その三人をティエラ王女が見渡し、
懇願するように問う。
「ファルコン部隊の母船、そして対空飛翔体、
水中魔力探知機らしきものを装備……
ここまではわかる」
「問題はこの部分よね。
人間・亜人・人外問わず―――
どの船も幼い子供を一隻あたり一人か二人
乗せているって」
アルヘン将軍とロンバート総司令が、その部分に
視線を送りながら語る。
「はい。
どの子供も、鎖でつながれいたという事です。
奴隷として売りに来るとしても、一隻につき
一人か二人、というのはおかしいですし……
何の用途で連れて来ているのか、見当も
つきません」
人魚族の偵察部隊の一人が、ザハン国のものと
思われる大船団を発見、その情報をまず
ウィンベル王国へと持ち帰ったのだが、
『どの船も幼い子供を1・2名乗せている』
という情報は、同盟諸国を困惑させ、
その報せはランドルフ帝国やドラセナ連邦にも
伝えられ―――
帝国では情報分析で待機していた、軍のトップ
三名に即座に持ち込まれた。
「ムラト殿。
以前、あなたは誘導飛翔体に獣人の子供たちを
乗せたという話を聞いておりますが」
(■109話
はじめての きょうどうさくせん(そら)参照)
ティエラ王女は彼に話を向けると、
「あの時、私は新生『アノーミア』連邦に
おりましたが……
その時は航空戦力などというものは
ありませんでした。
今回、ザハン国にはファルコン部隊が
確認されています。
また鎖で拘束されていたという事は、
何らかの訓練を行われていたり、軍人身分では
ないという事を示唆しております」
すでに自由に飛び回れる航空戦力がある以上、
ウィンベル王国を攻撃しようとしたような戦法は
無意味だという事、
そして子供たちは、攻撃目的として乗せられて
いるのではないとの推測を告げる。
「いくら一千隻の大船団とはいえ、
一隻につき一人二人では意味も無いか」
「扱いも酷いようだし―――
じゃあ何で乗せているの?
って話になるんだけど」
将軍と総司令、一組の男女が両腕を組んで
疑問の声を上げると、
「兵器に使うものではない……
だがまるで必需品のように、どの船も
乗せている―――
そもそも子供を戦場に連れて来たところで、
役に立つはずも無し。
となるとその使い道は」
ムラトはそう言った後に少し沈黙すると、
「使い捨てか消耗品……
保険、でしょうか」
「保険?」
ティエラ王女が聞き返すと、彼は続けて、
「海に出れば、それなりに大型の魔物も
出て来ます。
確か最近では、ドラセナ連邦の船も
襲われたとか」
(■212話 はじめての せいうち参照)
「ああ、その話は聞いた事がある」
「荷物を捨てて、何とか身軽になった後に
倒したそうだけど」
軍のトップの男女がその情報を補足する。
正確にはシンが助けに入り、その船は
助かったのだが、
シンの能力はトップシークレットだったため、
それをまだ知らないアストルの前ではぼやかして
そう説明すると、
「その用途で乗せている、としたら―――
生きて動いていた方が魔物の注意も
引けますし、
大軍に向かって来る魔物がいるとは
思えませんが、念のために保険として
乗せていると考えれば」
それを聞いた他の三人はそれぞれ顔を見合わせ、
「合理的ではあるが……
そこまで非道になれるものなのか」
アルヘン将軍がアゴに手を当てて、
眉間にシワを寄せる。
「いやぁ、アンタがいて良かったよ。
外道の考えはアタシらにゃわからんから」
「ハハハ、お役に立てたようで何より」
そして軍関係者二人は、嫌味と皮肉の応酬で
やり取りし、
「つ、つまり―――
緊急回避用のエサとして、子供たちを
乗せているというのですか!?
こ、こうしてはいられません!
すぐに辺境大陸にこの事を
報せなければ……!」
そう言うとティエラ王女は退室し、すぐさま
その足でウィンベル王国の大使館へと向かい、
『ゲート』で王都・フォルロワへ到着すると、
婚約者であるライオネル・ウィンベルにその事を
打ち明け、
ザハン国への対応・作戦内容に変更が
加えられたのであった―――