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「樹? 料理はもうお願いしてもらってるの?」
「あぁ。もうシェフにすでに伝えてある。皆揃ったから用意し始めてると思う。あっ、ワインも二人の好きないつものやつ、ちゃんと頼んであるから」
「ありがとう」
離婚してから、それぞれとしか店は来たことなかったけど、ここで頼むワインは二人共いつも同じで。
家族で来た頃から頼んでいたワイン。
いつもそのワインを分け合って、二人で楽しそうに飲んでいた。
幼いながらにそのワインのラベルが印象的で、なんとなくそのデザインを覚えていたのだけれど。
この店に来るようになって、大人になった時、そのラベルの年柄を見ると、ある年のワインだった。
この店のソムリエにいつものワインをお願いした時に、こっそり聞いたことがあった。
その年のワインは実は二人が結婚した年のワインだったと。
それを聞いた時、なんだか少しむず痒くって、だけどなんだかほんの少し嬉しくなったのを覚えている。
「親父もそれで大丈夫?」
「あぁ。今日はお前に任せてある」
「わかった。ならそれで」
親父も今日はオレが用意した機会の場だからと、店も料理もすべてオレに任せると言ってくれた。
それはもしかしたらオレをいろんな部分でチェックしているのかもしれないけど、でも今は透子と出会って変わったオレを親父にも見てほしい。
親父の前だからじゃなく、透子といるオレの姿を。
今は透子といる時が一番オレらしくいれて、一番自然でいられる。
だから今日は余計なことを考えず、透子といる今のありのままのオレをただ見せるだけ。
「親父・・・。今日ここに来てもらった意味はわかってるよね?」
「・・・・望月さんは、うちの仕事好きですか?」
オレがそう親父に尋ねたはずなのに、なぜか透子に聞き返す。
「えっ? あっ、ハイ。会社の商品。実はずっと好きで憧れてて。持ってるだけで楽しくなったり幸せになったりする商品を今自分が作れていることが嬉しいし、やり甲斐ある時間を過ごせています」
「そうですか。では、うちの仕事を気に入って頂いてるんですね」
「ハイ。夢ある時間だなって思います。理想として描く商品がどんどん形になっていくのはワクワクするし、それをたくさんの人が手に取って笑顔になったり、私みたいにずっと好きな気持ちを持ち続けていられるモノを作れるって、すごく素敵で幸せなことだなって思います」
「うちの商品や仕事を愛してくださってると・・・」
「ハイ。学生時代からお金を貯めて一つずつここの商品を集めていくのが嬉しくて。それを手にするまでの時間もそれを手にしてからの時間も、どれも私にとって楽しい時間で。そういう気持ちをずっと大切にしていけるこの仕事に今は誇りを持っています」
「だから今うちの会社にとって、あなたは頼りになって必要な存在だということですね」
「ただ・・・私は好きな気持ちを大切にしているだけです。でも、入社してしばらくしてからは全然上手くいかなくて、思うような結果も出せず、正直ここまでの気持ちにはなれていませんでした。でもその時の支えになったのが、REIKA社長のブランドのネックレスでした」
「もしかして、前に言ってくださった自分へのご褒美に買ってくださったって言ってたやつかしら?」
「ハイ。そうです。憶えてくださってたんですね」
「ええ、もちろん」
「その時もお話させて頂いてたんですが、自分で買ったそのネックレスは私にそれから頑張る力や勇気をくれて。そしてそのネックレスが似合うような自分になりたい、自分を好きになれる自分でいたいって思えるようになりました」
「そのお話を聞いて、私もこのアクセサリーと共に届けたい想いがちゃんと届いてるのだと思えて嬉しかったわ。一人でも多く私と同じように自信を持って輝いてほしいと願って届けていたから」
「はい。なので私にとってY&Rの商品もREIジュエリーのアクセサリーも、自分を笑顔にしてくれて輝かせてくれる大切なモノです」
透子は話す相手が自分の会社の社長で父親だからとか、REIジュエリーの社長で母親だからとか、そういう見栄えなんか関係なく、本当にそれぞれの会社の商品が好きで憧れていて、感じるままにその想いを語る。
それぞれを好きだと語る透子はキラキラしていて嬉しそうで。
そんな透子を見ているだけでオレも幸せな気持ちになる。
そして、どちらの会社もこんな風に力や幸せを与えている商品を作っているのだと、改めて透子に気付かされる。
オレにとっては、父親と母親それぞれが作っていた商品。
ただそれだけの感覚だった。
だけど、父親も母親もそれぞれが離れてまで夢を追ってどんどん大きくしていったそれぞれの会社。
それは二人が離れてまでも守りたかったモノ。
今はそれもきっと意味があったのかもしれないと、透子に出会えて初めてそう思えるようになった。
今一番大切な存在である透子にとっての幸せが、それぞれの作り出したモノに、そして後にオレに繋がっていく。
透子が当たり前に普通に感じることが、オレにとっては今まで気付きもしない大切なことを気付かせてくれる。
透子がいなければ、当たり前なことも、それが当たり前で大切なことだと気付けなくて。
一人では踏み出せないことも、透子が一緒にいて背中を押して勇気づけてくれるから、オレは一歩ずつ前へと踏み出せる。
「そして今は樹さんと一緒にいれることで、自分が自分らしくいれて好きでいることが出来る。樹さんと出会えたこと本当に幸せだと思ってます」
透子・・・。
オレにとって、透子に出会えたこと、一緒にいれること、好きになってくれたこと、すべてが本当に奇跡みたいなモノだから。
ただ一緒にいれることで、透子が存在してくれることで、オレは救われて力をもらえるから。
「この人がオレが今大切に想っている人でこれから幸せにしたい人」
今はもうその言葉にすべての意味が込められている。
こんなにもオレにとって必要な人。
誰より大切で誰より幸せにしたい人。
「昔はどうしようもなかったオレが、今こうやってちゃんと変われたのは彼女のおかげ。彼女がいなかったらオレはきっとまだ親父とこんな風に向き合えてもないし、母さんの力になることさえも出来なかった。どうやっても自分を好きになれなかったオレが、彼女と出会えて初めて自分という存在を認めてやれるようになった。彼女はオレにとってかけがえのない存在」
こうやって言葉にすればするほど、どれだけ透子が大きな存在でどれだけ大切な人なのかと実感する。
透子じゃなきゃダメだから。
一生これから一緒に生きて行きたい人は、透子ただ一人だから。
「だから。・・・彼女との・・・透子さんとの結婚を、どうか認めて下さい」
今の想いをその言葉に込めて、頭を下げる。
「お願いします」
そして透子もそう言って同じように頭を下げる。
どうかこの想いをわかってほしい。
どうかオレ達を認めてほしい。