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いつものリヴァイ兵長の部屋の一室。しかし、今日はその部屋の主ではなく、彼の恋人であるユキがベッドに沈んでいた。 リヴァイは、普段なら**「菌の巣窟だ」**と絶対に入りたがらない病室さながらの空間で、険しい顔をして立っている。
「ちっ、こんなところで熱なんか出しやがって。迷惑だ、大迷惑だ」
リヴァイは舌打ちをしながら、彼女の濡れた額に触れる。
「っつぅ……」
ユキが小さく呻くと、リヴァイは反射的に手を引っ込めた。その手のひらに感じた熱が、普段のユキの温度よりも遥かに高いことを示していた。
「うるせぇ。わかってる。だから黙って寝てろ」
ぶっきらぼうな言い方だが、彼の動きにはどこか焦りが滲んでいた。 彼はすぐに部屋の隅にあった洗面器に冷たい水を注ぎ、清潔なタオルを二枚持って戻ってきた。
一枚はユキの額に乗っている熱いタオルと交換する。もう一枚で、ユキの首筋と手のひらを丁寧に拭った。
「っ……リヴァイ、自分でやるから」
「黙れ。てめぇのその汚れた手で、部屋中を菌まみれにされたらたまらねぇ」
そう言いながら、彼は決して雑には扱わない。その指先は優しく、汗で湿った肌を丁寧に拭き清めた。 ユキは、病気のせいで鈍くなっている頭で、この潔癖症の兵士長が、自分の汗や菌を気にせずに看病をしてくれている事実に、胸が熱くなった。
「兵長が、こんなことするなんて……珍しい」
「看病なんざ、兵士のたしなみだ。体調管理もできない奴の相手をするのは、上官の義務だ」
そうは言うものの、彼の視線はユキから離れない。 リヴァイは、看病道具の傍に置いてあった皿を見て、さらに険しい顔になった。
「なんだ、これは。量が少なすぎるだろう」
皿の上には、ユキが自力で何とか食べたらしい、少量のお粥が残っていた。
「食欲……なくて。ごめんね、作ってくれたのに」
「謝るな。こんな量で回復できるわけがないだろうが」
リヴァイはため息をつくと、また部屋から出て行った。 数分後、彼は湯気の立つ皿を二つ持ってきた。一つは綺麗に具材が刻まれたお粥。もう一つは、熱い紅茶だ。
「さっさと食え。どうせ味がしねぇんだろうが、栄養は取っておけ」
リヴァイはベッドのそばに腰掛けると、ユキの背にそっと手を回し、身体を起こさせた。 ユキは、自分の手でスプーンを持とうとしたが、手が震えて上手く持てない。
「……あー、もう」
リヴァイはため息をつき、ユキの手からスプーンを取り上げた。 そして、そのスプーンにお粥を乗せると、慣れない手つきでユキの口元に持っていった。
「ほら、開けろ」
「えっ……!リヴァイ、いいよ、自分で……」
「いいから開けろ!いつまでぐずぐずしてるつもりだ。飯は冷めるだろうが」
リヴァイの有無を言わせぬ圧力に、ユキは観念して口を開けた。 一口、また一口と、ぶっきらぼうに運ばれてくるお粥をゆっくりと食べる。 リヴァイは、ユキが飲み込むのを確認するまで、決して次のスプーンを差し出さない。
「……リヴァイのお粥、美味しい」
ユキが掠れた声で褒めると、リヴァイは一瞬、耳まで赤くなったように見えた。
「当たり前だ。手を抜くことの方が気持ち悪い」
彼はそう言うと、お粥の皿をユキから離し、代わりに熱い紅茶のカップをユキの手に持たせた。
「飲み終わったら、さっさと寝ろ。回復しないと、また仕事が増えるだろうが」
ユキが紅茶を飲み終えると、リヴァイは手際よく食器を片付けた。 部屋が静かになると、ユキはリヴァイを見つめた。
「リヴァイ」
「なんだ」
「ありがとう」
素直な感謝の言葉に、リヴァイは顔を背けたまま、低い声で返した。
「……別に。貸しにしておく」
リヴァイは、ユキの頬に残った汗の跡を、薬指の甲でそっと拭う。 そして、額のタオルをもう一度冷やして乗せ直すと、ユキの髪を優しく撫でつけた。
「いいか、明日までには熱を下げろ。わかったな」
その声は、いつもの厳しい兵長の声ではなく、ユキだけが知っている、彼の優しい命令だった。 ユキは、その温かい看病に包まれながら、安心して再び眠りに落ちていった。