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「じ、実践?」
「はい、実践です♡」
嬉しそうに笑うゆず君の顔が怖かった。
実践? 何の? 痴漢の?
と、ぐるぐると回る頭を置いてけぼりにして、ゆず君は俺を窓際まで追いやった。シャッと慣れた手つきでカーテンを開けて、後ろを向かせる。窓に手をついてしまった罪悪感を覚えながら、そこから見える夜景が凄く綺麗だと目を奪われてしまう。
(――じゃなくて)
「ゆ、ゆず君、これって」
「だから、実践ですよ。さすがに、電車のセットは今からじゃかして貰えないだろうし……色々言われるのは面倒だから」
ぼそぼそと何かを言っていたが、そこまでは聞き取れなかった。でも、本気だというのだけは伝わってくる。
「擬似的に、電車の中を再現するんですよ」
「いってる意味がわかんないんだけど!?」
ゆず君はどうにかなりますから、ね、とでも言うように、俺を見てくるけど、俺にはさっぱり分からなかった。ゆず君が何をしたいのか。やろうとしていることは理解できても、それが現実的に可能なのか、俺には分からなかった。
でも、ゆず君は僕に任せてください、と目で訴えかけてくる。その笑顔と自信はどこから、引き出されるのかと。
「さっ、朝音さん、『俺』と演《ヤ》ろ?」
「……っ」
スッと、周りの空気が変わった気がした。いや、ゆず君の気が変わったのだ。これまで出ていた愛らしいオーラは一瞬にして消え、身体の自由を全て支配されているようなそんな感覚に陥る。説明は難しいけど、ゆず君の舞台に無理矢理あげさせられたような、そんな感覚。
「朝音さん、手、ついて」
ゆず君に促されるまま、俺は、窓ガラスに手をつく。すると、何故かここが電車の中だと脳が錯覚し始めた。今日の朝、同じように、出入り口に追いやられて、そこで手をついて……
そう思っていると、後ろからヌッと手が出てき、俺の尻を撫でた。
「ひっ」
「シー静かに。声出したら、バレるぞ?」
と、後ろから、少し低いゆず君の声が聞える。でも、雰囲気が全然ゆず君じゃなくて、俺の身体は震えてしまう。後ろに、痴漢がいるって錯覚してしまっている。実際にいないとは分かっていても、朝のこともあって、フラッシュバックして身体が過剰に反応した。
あの気持ち悪い息づかいも、後ろから聞えてくるようで、身体の自由が利かなくなった。ガタンゴトンと、揺れていないはずなのに、俺の身体は、電車が走るの似合わせて、揺れている。
(うわぁ……これ、ヤバい……)
ゾワゾワとした感じが背中を走る。ゆず君の手が、俺の臀部を何度も往復する。割れ目をなぞるように、ゆっくり触られてしまえば、俺の口からは、「んぅ……」と甘い吐息が出てしまう。
「可愛いな……もっと、聞かせろ」
「だ、めぇ……ゆず、くん……だめだって」
ダメだと、口に出してみるが、後ろにいるゆず君の手は止ってくれなかった。本当にゆず君? って、後ろにいるのがゆず君だって確証が持てなくなってくる。本当に、痴漢がいるんじゃ無いかって。痴漢そのもので。雰囲気とか、場の空気とかが、全部違った。
ここまで、再現できるものなのかと。
「抵抗しないの? ハッ、それとも、こうされることを望んでる?」
「ちが……」
「なら、何で勃ってんだよ」
耳元で囁かれる。
ビクッと肩を揺らすと、ゆず君は俺の股間をギュッと握ってきた。そして、そのまま、揉んでくる。服越しで、直接触られているわけじゃないのに、いやらしい手つきが興奮を煽ってくる。そこで、痴漢されているけど、ゆず君だって確信できた。だって、ゆず君以外だったらいやだっと思うから。
(でも、男として、それって――)
BLカフェよりもリアルなBLがそこにある気がした。越えちゃ行けないラインを越えようとしている気がして、俺は、それだけはダメだと、声を上げようとする。でも、声なんてでなくて、口から出るのは、ん、とか、あ、とか喘ぎ声ばかりだった。このまま、同人誌みたいにされたらどうしようなんて、何処かで期待している自分もいた。
「ほら、ガッチガチ」
「んぁ……っ」
ジーと下ろされたチャックの音にさえ反応してしまう。もう、俺は変態なんだと思う。男の手に、こんなに興奮してしまっているんだ。ゆず君に、痴漢されて、変になっちゃった。俺の身体はおかしくなった。
下着の上から擦られると、すぐに先走り液が漏れ出す。それが恥ずかしくて仕方ない。ゆず君はそれを楽しそうに見つめると、今度は直接触れてきた。
「あっ、ゆずく、だめ、さわらない、で」
「は? 何言ってんの? ここは喜んでますよ?」
「ひゃっ」
「つか、ほら、前見ろよ。アンタのドエロい顔、写ってんじゃん」
そう言って、顔をあげさせられ、目の前の窓に反射した自分の顔を見る。そこには、快楽に溺れた男がいて、その男は、ゆず君の手の動きに合わせて腰を動かしていた。
まるで、女のように。
そう思った瞬間、羞恥心が襲ってきて、一気に体温が上がった気がした。
でも、身体は正直で、ゆず君が手を動かす度に、もっと欲しいと言わんばかりに、腰を突き上げてしまう。
(やばいやばいっ! これは、さすがにっ)
俺には理性が残っていた。これ以上はいけないと。
でも、ゆず君の攻めは止まらなかった。俺の性器を握ると、上下にしごく。
「ほら、出しちまえって」
耳元で甘く囁かれれば、我慢の限界が来て、呆気なく達してしまった。
「うわぁ……マジか……朝音さん、早すぎないです?」
「……っ」
ゆず君の言葉に、カァっと頬が熱くなる。恥ずかしい。俺は、何をやってるんだろう。
ゆず君は、いつの間にか、素に戻っていたし、あの独特な空気感からは解放されていた。監督にカット! とでも言われたような感じだった。
「ゆず君って……何者?」
「ん? あっ、朝音さん、僕の演技上手かったでしょ? 本物の痴漢みたいで」
「……ん」
「確かに、痴漢って興奮しますよね~これで、良いものかけそうです」
はぐらかされた。
ゆず君はニコッと笑い、「じゃあ書いてくるので!」と言って、リビングを去って行った。俺は腰が砕けてその場でへたり込むことしか出来ず、一人ポツンと取り残された。