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智絵里の荷物は驚くほど少なかった。布団以外のものはキャリーバッグに全て入ってしまった。

「よくこれだけで生活出来てたな……」

「ミニマリストってやつ? 意外と困らないのよ」

智絵里は胸を張って言ったが、恭介は眉をひそめる。なんでこんなに少ないんだろう。引越しをしやすくしているとしか思えない。これにも何か理由があるのだろうか。

「……荷物置いたら買い物に行くか。俺好みの服を追加してもらおう」

「……私の話、聞いてた?」

その時に恭介のスマホに、着信が鳴ったかと思うと、Tシャツにデニム姿の松尾が姿を現した。

「よっ、お待ちどおさん」

松尾は恭介の姿を見るなり、口を手で押さえて顔を赤く染めた。

「やだっ、篠田くんたら、再会初日からお泊まり⁈」

「……松尾さん、どうでもいいから荷物運ぶの手伝ってください」

「お前さ〜、せっかく手伝いに来てやってんだから、ちょっとくらいは茶番に付き合えよ。ねっ、畑山ちゃん!」

「今日は来ていただいてありがとうございます。助かります」

「……畑山ちゃん、相変わらず素っ気ないなぁ。っていうか二人、なんか似たもの同士?」

松尾の言葉に、恭介は嬉しそうに微笑んだ。高校時代によく言われた。だから懐かしく感じる。

松尾の黒のワンボックスに二十分ほどで荷物を積み込むと、全員が車に乗り込む。松尾は運転席に座りながら、ミラー越しに二人を見る。

「で? 昨日の今日でこういう展開になってるってことは、二人のわだかまりは解けたってこと?」

恭介は隣に立つ智絵里を見つめる。わだかまりというか、真実を知ったからこそ、自分の気持ちに気付けた。

「松尾さんのおかげでやっと智絵里と再会出来たし、本当に感謝してます」

「すごい偶然だったけどな。なんか俺ってそういうセンサーが働くみたいなんだよ〜」

「それ、ご自身にも働くと良いですね」

「そうなんだよ……なんか自分のことになると全く……ってお前、もう少し先輩を敬えよ」

「毎日敬ってるじゃないですか」

二人の会話を聞きながら、智絵里はクスクスと笑う。再会してからずっと智絵里の表情は固かった。だからようやく肩の力が抜けたようで恭介はホッとする。

二人でいると、つい言いたい放題になっちゃうんだよな。親友の雲井さんといる時の智絵里は、よくこういう笑顔を見せていた。

智絵里に心の安らぎを与えられるようになれば、俺にも自然に見せてくれるようになるだろうか。智絵里の特別を全て俺に向けて欲しいと思うのはワガママなのかな。

「で、この引越しは同居? それとも同棲?」

松尾に言われて二人は顔を見合わせるが、智絵里は照れ臭くて視線を逸らす。そんな智絵里を見て、恭介は笑ってしまっ。彼女のツンデレな性格を知っているからこそ、照れてる仕草が自分に向けられていることに喜びを感じる。

「俺は同棲のつもりでいるからね」

まだどこか友達としての感覚が抜けない智絵里は、同棲という響きが少し恥ずかしかった。

「……い、良いんじゃない? ……付き合うならそうなるんでしょ?」

窓の外を見ながら耳まで真っ赤にしている智絵里が、心の底からかわいいと思ってしまう。

俺と智絵里の間に|聳《そび》え立っていた友達という壁は相当高かったんだろうな。長い時間をかけてようやく壁を乗り越えてみたら、こんなに愛しい人に出会えるなんて思いもしなかった。

熱く甘く溶かして

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