木兎さんにあんな事言うつもりなかったのに…
ずっとそんなことを考えていたら昼休みになっていた。
流石にそろそろ便所飯は嫌だったのでどこか場所を探そう。
2年の教室と部室から離れたとこがいいかな…中庭にでも行ってみよう。
そう思って中庭へ向かっていたのだが…階段…
もしかしたらもう平気なのではと思い階段の目の前に立ってみたが足が震えてこれ以上進めない。
でももう木兎さんに頼るわけにはいかない。
自分で下りられるようにならないと…
震える足を無理やり前に出して進もうとしたその時。
バランスを崩して体が前に傾いた。
落ちるッ!と思った瞬間に後ろから抱きとめられた。顔を見なくたってわかる。
「木兎さん…っ!」
「赤葦の馬鹿!また落ちたらどうするつもりだったの!」
「ごめんなさっ…怖かった、怖かったです」
木兎さんは俺を優しく抱きしめると「何があったか教えてくれる?」と顔を覗き込んで聞いてきた。
俺はそこで我に返った。もう木兎さんには頼れない。
「なんにも…無いです。木兎さんには関係ないので」
言い終わらないうちに木兎さんが怒鳴る。
「関係ない訳ねぇだろ!お前バレてないと思ってたのかもしれないけど気づいてたんだからな」
委員会…もっと違う嘘ついとくんだった。委員会なら2年の委員に確認されたらバレるじゃないか
「前、先輩に呼び出されてた時もお前委員会でっていってたし。1人で抱え込んでんじゃねえよ!」
口調は荒いのにその言葉は優しさが滲み出ていて俺を心配してくれていたのが伝わってくる。
木兎さんに頼っちゃダメなのに。関わったら迷惑かかるのに。
やめてください、そんなこと言われたら甘えてしまうでしょう。
「っ…….、ぅ………」
「あぁ泣かないで!…何があったか教えて?」
「部活で、木兎さんと木葉さんがいなかった時に先輩に話しかけられて…」
俺はこの間先輩に言われた事、自主練の時に言われた事、それから俺が考えついた事、全てを木兎さんに話した。
「だか、らっ!おれ…っ、木兎さんと関わらないようにしないとって…っ、思って」
「うん」
「木兎さんが…っ、バレーしてるの大好きだから…」
「うん」
「木葉さんとか…黒尾さんや孤爪も狙われるかも、しれないし…だから俺がっ…何とかしないとっ…て…」
「うん…」
「でも…っ!でもね、おれ、俺も、バレーしたい。木兎さんと一緒にいたいです。」
「赤葦」
「本当に木兎さんの事想ってるなら、別れた方がいいって…、分かってたけど、俺、別れたくなくて..」
「赤葦っ!」
木兎さんに言葉をさえぎられた。
木兎さんの瞳は真剣で泣きそうな顔をしてた。
「俺だって赤葦と別れたくないし、別れてやるつもりないよ。」
「木兎さ…っ…」
「話してくれてありがとう。他にまだ俺に言ってないことない?」
木兎さんはまた優しく抱きしめてくれて涙が止まらなくなった…
「これからどうするか話し合おう」
と木兎さんに言われて俺は久しぶりに部活に出た。
部活の後に話し合うためだった。
部活が終わり自主練するからと言って木兎さんが鍵を預かると他の部員たちはみんな帰って行った。
木葉さんを除いて。
「お前ら仲直りしたの?」
俺たちの変化にいち早く気づいた木葉さんがそう言った。
「まぁ~そんなとこかな!」
木兎さんが目で木葉にも話していい?と言ってきたので頷くと木兎さんは木葉さんに俺が話した内容を簡単に伝えた。
「まじか、なるほど」
全て聞き終えた木葉さんが俺の前に来て頭を撫でられる。
「1人で頑張ったんだな。」
木葉さんは頭を撫でる手を止め「でも」と続けた
「あんなに周りを頼れっつったのになにまた1人で完結しようとしてんだよ!」
今まで何度も言われていたので何も言い返せない。
「心配すんだろーが!だいたいお前は…」
〜♪~♪
軽快なメロディが流れたかと思えば木兎さんがポケットからスマホを取り出した。
「もしも〜し?…..おう…..いるよ………..わかった!またな」
電話はすぐに終わったようだ。
「赤葦!黒尾から連絡あって孤爪が用あるって!行くぞ!」
「え?今からですか?」
「うん!木葉も!早く!」
「俺も!?」
木兎さんに急かされ連れてこられたのは孤爪の家だった。
インターフォンを鳴らすと黒尾さんが出てきた。
「いらっしゃい。俺の家じゃないけど」
黒尾さんに案内されたのは孤爪の部屋。パソコンの前に座っていた孤爪が振り向く
「いらっしゃい。適当に座って」
言われるがまま座る。怪我について聞いてこないところに孤爪の優しさを感じる。
「先輩は今どんな感じ?」
「木兎さんと木葉さんのおかげで基本的に接触はないよ。ただこの間話しかけられて二度とバレー出来なくなれば良かったのにって言われた」
「マジでクソ野郎じゃねーか」と黒尾さんが顔を顰めた。
「赤葦は大事にしたくないって思ってるかもだけど一応証拠集めてみたよ」
孤爪はパソコンの画面をこちらに向けて説明した。
「都内のバレーやってる高校生のチャットであの日会場に来てた人あたってみたんだ、そしたらあったよ」
記念撮影のような様子で撮られている動画が流される。
しばらくするとそのカメラが例の階段前を通る。
そこには先輩が俺を突き落とす瞬間が収められていた。
「まさかドンピシャでこんな映像見つかるとは思わなかったけど、USB良かったら使って…赤葦?」
先輩が俺を突き落とす瞬間。つまり俺が階段から落ちる瞬間。
あの瞬間の景色が鮮明に蘇る。
身を震わせている俺の手を木兎さんは握ってくれた。
「赤葦、大丈夫。俺がちゃんと守ってあげるから」
木兎さんが俺を落ち着かせている間に木葉さんが孤爪に俺が階段を下りられなくなったことを話してくれて
孤爪には「ごめんね。赤葦には見せない方がよかったね。」と謝られた。
「もう大丈夫です。孤爪も謝らないで」
「おれに出来ることあったらいつでも言ってね、遠慮なく」
孤爪は俺が木兎さんを避けてたことなど話してないのにまるで見透かされたかのように遠慮なくを強調していた。
「先輩に頼りづらくてもおれなら同い年だし、ね?」
「ずりぃーぞ!研磨!」
「孤爪!俺の赤葦口説かないで!」
先程より和やかな雰囲気になったところで俺が話を切り出す。
「えっと、今後の事なんですけど、孤爪のUSBを証拠に学校に報告って感じでいいですか?」
「うん、赤葦がいいならいいと思うよ。」
木兎さんは先生に言う時、もちろん俺もついてくからな!と付け足した。
「ただ木兎さんと付き合ってる事がバレる可能性とか、先輩が誤解したまま話を広めてたりしたら…」
問題はそこだった。木兎さんが男と付き合ってるとか、贔屓して正セッターにしたバレーに不誠実な人だとか思われるかもしれない。
「その事なんだけどさ、そもそも俺らが付き合ってるの隠す必要ある?」
「え?」
いつも通り斜め上の発言をした木兎さんは
「なんで付き合ってるのバレたらダメなの?」
と言っている。
「なんでってそりゃ、男同士ですし。それに木兎さんが将来プロになったら世間の目とかもあります。」
「赤葦は俺がプロになったら別れるの?俺は別れないけど。」
「何言ってるんですか」
「だって大人になってもずっと一緒にいるならわざわざ隠してるより最初から付き合ってますっ、て言う方が良くない?」
まさかの発想。
っていうか大人になってもずっと一緒とかプロポーズじゃ…
「大人になってもずっと一緒とかプロポーズかよお前!」
黒尾さんが俺が考えてたことと同じことを指摘した。
そうしたら珍しく、普段恥ずかしい事を平気で言う木兎さんがみるみる赤くなった。
「まって、違っ…いや違わないけど違くて。プロポーズはちゃんと大人になってからするし…」
え、今なんて…
「おめでとう。末永く爆発しろ」
木葉さんはそう言い背中を叩いた。
「えっと…でも周りの人とか木兎さんの交友関係とかは大丈夫なんでしょうか」
未来のプロポーズの話はキャパオーバーなので、これからの話に戻した。
「俺は全然大丈夫。少なくともここに既にリカイシャいるし」
「っていうか正直、多少驚くかもだけど納得すると思うぜ?」
木葉さんが言った。
「お前ら距離感バグってるし、勘づいてるやつもいるんじゃない?俺が赤葦から聞いた時だってあーねってかんじだったしよ。」
えっあのときあーねって感じだったんですか?
そんなに距離感おかしかった?そんな訳…と孤爪に助けを求めてみたが
「まぁ近くで見てたら納得だよね。」
とのこと。
「バレー部の奴らとかお前らの友達なら納得だよ。きっと」
黒尾さんもそう言った。
「話が広まれば肯定3割否定2割くらいにはなるんじゃない?でも残りはそんなに気にしてないよ」
と孤爪が付け加える。
確かに人の色恋に関心がある人のが少ないかもな。あったって最初のうちだけだろうし…
そんなに深く考えなくてもいいのかもしれない。
「赤葦は俺のと付き合ってるの隠しときたい?」
「いえ、もういっそ自慢してやりますよ。」
こうしてこれからの事について話が固まった。
すっかりほのぼのとした雰囲気になってしばらく色々話した。
「でもさ〜木兎なら生放送のインタビューでプロポーズとかしそうだよなぁ」
「ちょっと木葉さん!変なこと言わないでください!」
しばらく話したあともう遅いからと解散した。
明日学校に先輩のことを報告して対応してもらえれば今度こそ平穏な日常が取り戻せる。
孤爪の家からの帰り道俺は木兎さんと手を繋いで歩いた。
今までのように人通りのない道だけじゃなくて家に着くまでずっと。
もちろん途中視線を感じたりはしたけど強く俺の手を握っている木兎さんの手が頼もしくてこの人となら大丈夫だろうと思えてしまう。
本当に木兎さんには敵わないな。
……To be continued
コメント
4件
え、え!まじでストーリーが神すぎる! ありがとうございます(、.ω.)、