テラーノベル
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土曜の午後、晴天。
少し汗ばむくらいの陽射しのなか、街に涼しい風が吹く。
人通りの多い駅前の広場。
その一角、人波の中でひときわ目を引く存在がいた。
黒のTシャツに軽く腕まくりされたシャツを羽織り、すっと伸びた背筋。
スマホを片手にふと視線を上げて周囲を見渡すその横顔。
光を反射するサングラス越しでも、わかる。
石川祐希。
俺の、彼氏。
「………………いや、むり。かっこよすぎるやろ……」
藍は待ち合わせの5メートル手前で立ち止まったまま、息を呑んでいた。
建物の陰に隠れるようにして、顔を手で覆う。
(かっこよすぎる。何あれ、雑誌の撮影?ドラマのワンシーン?え、俺の彼氏やんな?ほんまに??)
こんなに人がいるのに、どうして祐希さんだけこんなに目立つんやろ。
ただ立ってるだけなのに、まるで世界が彼を中心に回ってるみたいで。
いやいや!そんなん大げさやろって自分にツッコむけど、でも実際、目が離せへん。
(かっこいい。好き。好きすぎる。どうしよう、顔あわせられへん……!)
気づけば何度も深呼吸して、服の裾を直して、髪を撫でて──
でも、動けない。
不意に、ポケットの中でスマホが震えた。
《どこ?人多いね》
そんなメッセージが、祐希さんから。
──やばい。
隠れてるの、バレてへんやろか。
恐る恐る顔を出すと、祐希さんがまたキョロキョロと辺りを見回す。
その動きすらも、なんか、なんか…かっこよすぎてずるい。
(もう!!無理やって!!かっこいい!!!)
「…………っ、いったれ、俺!」
ぐっと拳を握って、自分に喝を入れる。
顔は真っ赤、心臓はばくばく。
でも一歩ずつ、近づく。
3メートル、2メートル、1メートル──
「おまたせ……っ」
「あ、藍」
声を聞いた瞬間、ふっと祐希さんの顔が緩んだ。
さっきまでクールだった表情が、目尻を下げてやわらかくなる。
その瞬間、俺の心臓は完全にノックアウトされた。
「どうした?なんか顔赤いよ」
「な、なんでもない、です! ほら、行こ!」
祐希さんの手を取って、早足で歩き出す。
繋いだ手が熱い。恥ずかしい。でも嬉しい。
背後からくすっと笑う声がして、さらに顔が熱くなる。
(……俺の彼氏、ほんまにかっこよすぎる。どうしたらええんやろ……)
そんな嬉しい悩みを胸に、デートは始まったばかりだった。
コメント
3件
新しい作品ですか?!続き待ってますね😽