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その日は雨が降った。
いや、降る。
現状まだ空が黒いだけで降ってはいない。
改札を出た昼過ぎ。
コンビニで買ったおにぎりとパンを入れた袋を片手に帰路へと着く。
雨がぽつりぽつりと降ってくる。
傘は、持っていない。
袋を鞄に押し込んでそのまま歩き出した。
海辺へと着くと私は砂浜を裸足で歩く。
生ぬるい砂が私の足にまとわりつく。
片手には靴と靴下。
雨が少し強くなってきて私の体を冷たくする。
片足で水を弾くと水飛沫があがる。
その水飛沫に一瞬、私と奏汰の顔が映っていた。
私は何故か、海で溺れていて奏汰は泣いている。
酷く苦しそうに、泣いている。
なんだったのだろう。
幻覚だろうか。
もういいやと気分が萎えて私は砂だらけの足を海で洗い流す。
適当に足を降って水気を取り、靴を履いてその場を後にした。
相変わらず雨は降っていて私の髪も体もびしょ濡れ。
家の戸を開けようと、ドアノブを引くが開いていない。
そういえばと鍵を取り出し誰もいない真っ暗な家へと足を踏み入れた。
静まり返っていて逆に不思議なくらい。
明かりをつけても孤独感に襲われる。
私は2階へ行き部屋の戸を開ける。
暗闇の中でベッドに蹲る。
静かな家に私ひとり。
ひとつも物音の聞こえない真っ暗な部屋。
そんな中私は聞こえるか聞こえないかくらいの声量で言葉を発した。
「雨、うるさいなぁ。」
途端に私の瞳から大粒の涙が溢れてくる。
何故泣いているのか私にも分からない。
ただ、ものすごく悲しくなった。
何に対してだろうか。
その日は涙が止まらなかった。
朝、起きた時刻は5時だった。
こんなに早く起きる日は無い。
私は布団から足を出し洗面所へ向かった。
顔を洗い流し、ふと前を見る。
そこには大嫌いな自分の顔がある。
私は慌てて部屋へ戻り学校の支度を始めた。
いつもより早く終わってしまったので外へ出掛けることにした。
ローファーに足を通してスマホ片手に外へ出た。
朝の空気は透き通っていて冷たい。
そのまま海まで行くと誰かが堤防に座っていた。
私の学校の制服を着ている。
近くまで行き少し戸惑いつつも声をかけてしまった。
「あの、」
振り向いた途端に目が合う。
奏汰だった。
「え、なんで」
そう呟くと彼は微笑んで私に「おはよう!」とだけ言った。
彼はまた前を向いて隣を指す。
私は彼の隣に腰を下ろした。
ただ、何も言わずに静かにふたりで海を眺めているだけ。
いつも騒がしかった心が落ち着いて穏やかになる。
彼は突然私の方を向き真剣な眼差しで問いかけた。
「君は、誰だ。」
なんと答えればいのだろうか。
私は私だと答えたところで納得して貰えるのだろうか。
「な、何言ってるの?私は私でしょ?」
途端に嘘が飛び交う。
彼に話したところで理解してもらえるわけがない。
「陽菜、いつでもいいからね。」
それだけ言うと奏汰は堤防から飛び降りてそのまま歩いて行ってしまった。
彼は、何故そこまで私に関わってくるのだろか。
心が渦を巻く。
頭がいっぱいでパンクしてしまいそう。
そして心が揺れ動くように痛くなる。
いや、随分と前から心の痛みはあった。
ただ、気付きたくなかっただけ。
この感情の正体を知っているからこそ。
気が付いていないふりをしている。
気がついてしまえば辛くなるだろうから。
その日電車に乗っている時ふと、何故ループが起きているのか考えた。
ネットで調べたりもした。
けれど私と同じ体験をしている人はひとりも、居なかった。
どうすればここから抜けられるのか。
ずっと試行錯誤している。
抜け出せたならこの心の痛みを受け入れてあげられるのに。