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──真中氏の自主退職が報じられたのは、それから間もなくのことだった。
スキャンダルさ中の、社長の側近として知られた者の退職に、マスコミが殺到すると、真中氏はやがて事の真相の全てを会見で打ち明けた。
「今回のキャンペーンモデルAYAの不倫の一件は、私が企てた稚拙な計画であって、彼女自身には何ら非はありません。スキャンダルの捏造については、会社の信用を貶めるために、総て私がけしかけたものであり、その責務を負い退職を申し出た次第です」
会見の場で真実を述べた真中氏には、列席の記者から「結局は、そういうことにして、首を切られただけなのでは?」という、貴仁さんが懸念していたような質問が飛んだが、彼は「いいえ」ときっぱりと否定をした。
「……久我 貴仁社長には、大変お世話になりました。その信頼を裏切り、一時の煽情に衝き動かされ、取り返しのつかない事態を招いたのは、他らなぬ私自身です」
カメラに向かい、深く頭を下げて語ると、
「現久我社長には、とても感謝をしています。会社に不利を成した私にも、今まで共に働いてくれたことはありがたく思っているからと、自腹を切り退職金相当の対価を払っていただいたのですから」
テレビ画面の中で、そう続けて涙を流した。
真中氏の涙ながらの発言は、騒がしかったマスメディアを一様に黙らせたのと同時に、貴仁さんの恩情ある采配ぶりが称賛を集め、その行き届いた手腕には、私自身も感服をさせられるようだった。
やがてマスメディアの攻勢も次第に鳴りをひそめると、彼の忙しさもようやく落ち着きを取り戻したかのように窺えた。
けれど、これでやっと貴仁さんもゆっくり休めるよねと思っていた矢先に、またしても心配なニュースは飛び込んできた──。
『一難去って、また一難。KOOGAの二代目社長、スキャンダルは収束もついにダウンか?』
一難去って…‥とか、相変わらず当てこすっているかのようなネット記事の書かれようには、苛立ちを覚える。
ただ”ダウン”と云う一語は、やっぱり心配でしかなくて、
「貴仁さん、お仕事忙しいかと思いますが、元気でいるでしょうか?」
せめて記事が憶測だけのものであればいいのにと、体調を尋ねるメッセージをSNSで伝えた。
すると、程なくして入った返信には、
「今は入院中なんだ。少し身体を崩していて」
まさかの記事を裏打ちする内容が記されていて、私は病院の場所を訊くと、急ぎお見舞いに向かった。