テラーノベル
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今回ねこもみじとの合作です!!
嬉しすぎて舞っております((
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ないこ(男)(声が聞こえない)
いふ(男)
無理な人はブラウザバックしてください。
――世界から音が消えたのは、いつからだっただろう。
いや、正確に言えば「俺の耳から音が消えた」のだ。
子供の頃から少しずつ、鼓膜を叩く音が薄くなっていった。最初は雑音が抜け落ちたみたいで、不思議と快適ですらあった。けれども気づけば、教室のざわめきも、先生の声も、チャイムの音も、母の笑い声も……全部、遠く霞んでいき、やがて何も聞こえなくなった。
世界が静寂に閉ざされたとき、俺はまだ十五歳だった。
ないこ――これが俺の名前だ。
今では口の動きを読んで相手の言葉を理解したり、文字でやり取りをしたりして、なんとか生活を回している。けれど、心のどこかでずっと思っていた。
「俺の世界に、他人は立ち入ってこない」って。
だから、彼と出会ったときは本当に驚いた。
まろと出会ったのは、高校二年の春だった。
校庭の端のベンチに腰を下ろして、本を読んでいた俺に、影が落ちた。顔を上げると、背が高くて。青髪で、少し不良っぽい雰囲気。
「おーい」
彼の口が動いた。けれど、もちろん声は聞こえない。俺は首を傾げたまま、相手の唇をじっと読んだ。
「ここ、隣ええか?」
なんとか読み取って、軽く頷いた。すると、そいつはにやりと笑って、俺の隣にドサリと腰を下ろした。
「お前、いつもここにおるやろ。名前、なんて言うん?」
不器用に、けれど確かに俺の視線に届くように、ゆっくり口を動かしてくれる。
俺は胸ポケットから小さなノートとペンを取り出し、「ないこ」と書いて見せた。
「ないこ、か。変わった名前やな。……俺は、まろ。よろしくな」
その瞬間の笑顔は、不思議と鮮やかに記憶に焼き付いた。
それから、まろは毎日のように俺に話しかけてきた。
いや、正確には「話しかけているらしい」――俺には声は届かない。けれど、彼は決して諦めなかった。
廊下ですれ違うたびに大きく手を振って、ゆっくり口を動かす。
休み時間になると、俺の机にやってきて、ノートに殴り書きの字で質問を投げかける。
『昼飯、いっしょに食わへん?』
『昨日の宿題、やった?』
『サッカー部の試合、今度見に来てくれや』
最初は戸惑った。
俺なんかに構ってどうするんだ、と。聞こえない俺と一緒にいたら、きっと退屈するだろうと。
けれど、まろは一向に離れなかった。
『ないこと一緒おったら、なんか落ち着くねん』
ノートにそう書かれた文字を見たとき、俺の胸は少しだけ温かくなった。
まろはよく喋る男だった。
声が聞こえなくても、その口の動きから「よく動く人間だ」と伝わってくる。手振りや表情も大げさで、見ているだけで内容の半分は理解できる。
「お前、ほんま聞こえてへんのに、よーわかるな」
ある日、まろが笑いながら言った。
俺はノートにこう書いた。
『口の動きで、なんとなく』
「ほーん……すげぇな」
そう言って、彼は真剣な顔で俺を見つめた。
「これからはもっと、ゆっくり喋るようにするわ」
その言葉――いや、声は聞こえなかったけど、唇の形と真剣な眼差しで、確かに伝わった。
胸が、きゅっと締めつけられた。
季節が夏に変わる頃には、俺とまろはほとんど一緒に行動していた。
まろは関西弁でまくしたてる。声は聞こえないけど、口の動きで「ああ、また調子に乗ってるんだな」とわかる。
俺はノートに答えを書いたり、ジェスチャーで返したりする。
昼休みは屋上で二人で弁当を食べるのが定番になった。
俺が母の作ったおにぎりを口にしていると、まろは自分の弁当を差し出してくる。
「これ、うまいから食ってみ」
俺は首を振ったけど、まろはしつこい。結局一口もらって、意外に美味しくて笑ってしまう。
その笑顔を見て、まろが得意げに胸を張る――そんなやり取りが、当たり前になっていった。
けれど、音のない世界はやっぱり孤独だ。
まろと一緒にいるときは楽しい。けど、ふとした瞬間に取り残される。
校舎に響くチャイムの音。グラウンドの歓声。文化祭のざわめき。
どれも俺には届かない。
ある日、教室でみんなが笑っていた。先生が冗談を言ったらしい。周りは大爆笑して、机を叩いて笑っている。
俺もつられて笑おうとしたけど、笑えなかった。何が面白いのか、わからなかった。
そんなとき、まろがちらっと俺を見て、すぐにノートに書いてくれた。
『先生がな、「俺の髪の毛は税金で守られてんねん」言うたんや。ハゲ隠しのことや』
その文字を見て、俺はやっと笑えた。
――笑わせてくれたんじゃない。俺を孤独から引き戻してくれたんだ。
夏祭りの日。
まろが「一緒に行こうや」と誘ってきた。
人混みが嫌で最初は断ろうとしたけど、強引に手を引かれて連れ出された。
浴衣姿の人々、屋台の光、夜空を彩る花火。
音は聞こえないけれど、その賑やかさは目に焼き付いた。
「なあ、ないこ。花火、きれいやな」
そう言って、まろが横顔を見せた。
俺はノートに書いた。
『音は聞こえないけど、きれいだ』
まろは一瞬黙って、それから俺の手をぎゅっと握った。
「……お前と一緒に見れてよかったわ」
花火が夜空に広がる。轟音は聞こえない。でも、胸の奥が震えるように熱くなった。
俺は初めて、「音がなくても伝わるものがある」と知った。
そして――。
夏休みが終わる頃、俺たちはベンチに並んで座っていた。夕焼けが校庭を赤く染める。
まろが、ふいに真剣な顔になった。
「ないこ」
呼ばれた名前は、聞こえないけど唇の動きでわかった。
「俺、お前のこと__。」
「っ!」
続きはねこもみじの方へ!
頑張ってね!\(^o^)/
コメント
4件
前編ありがとうございます…(*.ˬ.)" 書くの早いし上手いしもうなんなのぉ…ඉ_ඉ ちょっとテスト期間入るから書くの遅れるかもっ🙏🏻💦 長編で学パロなのも好きすぎた…✨✨✨
ねこもみじさんも見るわ()